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目標  作者: 風速健二
目標 第1部
13/31

新たなる希望

鈴木家の玄関に真理ちゃんが声を掛ける。

「ただいま~、正さん連れて来たわよ~」

そうか!鈴木家側からすれば、俺は婿さんか!

色々と納得する事があるもんだと今更気がつく。

奥から真理ちゃんの御両親が顔を出してくれたので俺は

「ご無沙汰していました、お久しぶりです」

そう挨拶をすると親父さんとお袋さんが

「やあ、いらっしゃい!どうぞ上がって」

「お待ちしていましたよ」

そう言って歓迎してくれる。


奥の床の間のある部屋に通されて、進められるままに座布団を尻に敷く。

もちろん正座だ。

俺は床の間を背にして、真理ちやんはお茶を入れて持って来てくれて、俺の横に床の間に向かう感じで座った。

やがて真理ちゃんの両親が俺の向かいに座る。

俺は持って来た手土産を渡す。

真理ちゃんの両親は喜んでくれた。

俺は、早速本題にはいる。

「あのう、以前より真理さんと、結婚を前提としてお付き合いさせて戴きましたが、私も職人として未だ未だ未熟ですが、一応「煮方」という一人前扱いされるまでになりました。つきましては、本日は真理さんを私に戴きたく参った所存です。どうか、真理さんを私の妻として戴きたいと存じます」

そう言って、頭を下げる。そして、良く一気にここまで口が廻ったと思う。

おかしな言い回しが無かったか? とも思うがそんな余裕は無い。すると親父さんが

「大変良く判りました、わたし達は以前、交際の挨拶にお見えになった時から、あなたなら良いと思っておりました。不束かな娘ですが、どうか宜しくお願い致します」

そう言って逆に頭を下げてくれた。

「お父さん、お母さん、ありがとう!」

真理ちゃんが半分泣きながら両親にお礼を言っている。

俺もほっとしたのと、感動したのでちょっと涙ぐんでしまった……


その後は、御両親が用意してくれたとは言え、酒盛りとなった。

「今度一度店に招待しますから、食べにいらしてください」

俺はそう言いながら、親父さんのグラスのビールを注ぐ。

「そうですか、じゃあ一度行ってみますかな!」

親父さんは陽気にそう言いながら、グラスを空けた。

宴席で俺は、ちゃんと結納をすることや、指輪も作る事等を伝えた。

両親も俺の気持ちを判ってくれたみたいだ。


結納や式などの日時は後で決める事にして、俺は鈴木家を後にした。

真理ちゃんも一緒について来る。

帰りは駅に行くバスで帰る。

バス停でバスを待っている間の事だった。

「仕事辞めたら、式まではこっちに帰るのかい?」

俺は当然そうするのだろうと思って訊いたら真理ちゃんは

「そうした方がいいかなぁ~。実は迷っているの」

俺は、真理ちゃんに

「俺達は、これから死ぬまで一緒に暮すんだから、僅かの間でも御両親の所にいた方が良いんじゃ無いかな……そして故郷の景色を心に刻み忘れない様にしないと……」

そう言うと真理ちゃんは、半分笑いながら

「そうだよね。そうなんだよね。でも、わたし、正直に言うと、僅かの間でも正さんと別れて暮すのが寂しいの!」

それは正直俺も同じだった。

今では真理ちゃんと一緒に暮す事が当り前になってしまい、今回改めて「娘さんをください!」と申し込みに来た事で「自分達は未だ他人なんだ」と思い知らされた感じなのだ。

恐らく、その感覚も真理ちゃんは持っているのだと思う。

俺が、その事を言うと真理ちゃんも自覚していた。


「大丈夫!待たせる様な事はしないから!」

そう笑って言うと真理ちゃんも

「うん!信じてる!」

そう言いながら俺の腕にしがみついて来たので、俺も腕を回して抱き締めた。

「むしろ、結納したら忙しいよ」

そう言って俺は真理ちゃんを抱く腕に力を込めた。


店は順調に行っていた。

若者受けする日本料理店というコンセプトは当たった様だ。

だが、こういうのは受けると、真似をする店が出て来る。

俺たちは店に来たお客さんから

「あっちのモールにも同じ様な店ができたけど、支店?」

そう訊かれたのだ。

櫻井店長は、その噂を訊くと、実際に、我々の店があるモールから少し離れた場所に以前からあるモールにあるという店に行ってみたのだ。

帰って来て櫻井さんは

「真似されてる!店の作りもメニューもウチと同じ様な感じだ」

そう言って苦々しい顔をして悔しがった。

「味はどうでした?」

俺はそこが一番大事だと思ったのだ。

櫻井さんは、その点だけは安心した顔をして

「味はウチの方が遥かに上だ。だが向こうは仲居さんという感じでは無くウエイトレスと言う雰囲気で営業している。言わばウチよりも若者向けという事だと思う」

そう言って皆を見渡した。

皆、黙っていたので、俺が口火を切る

「そんな真似した店に負けない様に俺たちも頑張りましょう! ウチが本家です!本家はパクってる奴には負けないですよ!」

そう言うと由さんも

「そうだ、この道を切り開いて来たのは俺たちだ。負ける訳にはいかない!」

そう言って拳を掲げた。

更に飛鳥も「ウチは単に若者向けだけじゃ無く本格の味なんですから負け無いですよ」

その声に、そこに居た、調理場の皆にホールの娘も頷き

「頑張りましょう!」

そう言って気勢をあげた。

どうやら、開店の忙しさが過ぎて気が抜けていた店に活が入った様だ。

俺自信も、私生活と言い、仕事と言い気合が入るのだった。



その後、3月いっぱいで真理ちゃんは工房を辞め、俺の家から荷物も引き上げ、実家に帰った。

結納は5月のGWの後にした。そこいらが俺は店も丁度一息つけるだからだ。

婚約指輪も4月中には出来て来た。

最もこれはサイズの変更だけだが……

真理ちゃんは「あたしお針子していたから指が太いの!」

とデパートの宝石売り場で言うので、どのくらいか?と思ったら13号だった。

確かに良く見るとほっこりとしてカワイイ手だと思う。

別にピアニストになるんじゃ無いから良いと思うのだが……

結納金は末広がりで80万になった。

50万では少ないと思ったし。100万は正直キツかった。

結納金は貰ったら、それ相応の支度があるので、多ければ良いという訳では無い。

洗い方の頃から給料の大半を預金して来たのは、結婚もあるが、将来は自分の店を持ちたいからった。

実家に住むので、店はここを将来改装する事になると思った。

結婚したらその為の準備もしよう。


5月の某日、俺とお袋は結納の道具とお金、そして指輪を持って水海道の鈴木家を訪れた。

勿論結納の為だ。

この前の床の間の部屋に通される。

仲人は無いので、床の間に両家の結納の道具が並ぶ。

そこで、俺の母親が

「本日は結納の品を持参しました。どうか幾久しくお納めください」と口上を述べると、

鈴木家のお父さんが「ありがとうございます。幾久しく受け取らせて戴きます」と答える。

今度は反対に鈴木家のお父さんが同じ言葉を述べ、俺の母親が受取の口上を述べる。

それで、結納は終わりだ。


その後はやはり宴席だ。

真理ちゃんはダイヤの指輪を左の薬指にはめて、両親や俺や俺の母親に見せている。

そんなに大きいダイヤでは無いが透明度が高く傷の無いものを選んだ積りだ。

滅多にする事は無いかも知れないけれど、真理ちゃんの財産として持っていて欲しい。


式は、秋10月に決まった。

何と、店を貸し切りにして、披露宴を店で行う事になってしまった。

これは、櫻井さんと由さんが「店の宣伝にもなるから」と言って、俺のお袋や、真理ちゃんの両親を口説いた結果だった。

「俺も料理するのか?」

そう訊くと、飛鳥が「大丈夫です。私が煮方やりますから」

そう言って笑ってる。

全く、招待客こそいい迷惑だと言ってやった。

全く応えて無かったが……


実はこれには裏話があり、俺達のモールには小さいながらもチャペルが併設されている。

ここと櫻井店長が交渉をしたのだ。

ここのチャペルには近くの教会から何かあると牧師さんが来てくれるのだが、普段はお飾り的な感じが強い。

櫻井さんはそれをもったいないと感じていて、俺達の結婚式を機会にして、このチャペルで式をあげ、モールの各レストランで披露宴を請け負うと言うシステムをモールの事務局に提案したのだ。

これは、事務局も教会もすぐに賛成してくれて、その第一弾として、俺達の式に白羽の矢が立ったのだ。

考え様によっては重大問題だ。

失敗は許されないし、公開で行われるそうなので、見学者も来ると思う。

評判になれば、披露宴もそうだが、普段のお客の増加に繋がるのではと思うのだ。

これも、ライバル店に負けない為と思うと、逆にファイトが湧く。


結納が済んで晴れて婚約者となった真理ちゃんと俺は頻繁に逢っていた。

月曜の晩には必ず来て泊まっていくのだ。

そこでは色々な事を話し合う。

色々な事が決まって行く中で俺は更なる飛躍を目指して日々努力をしていかなくてはならない。

結果はすぐには出ないであろうが、努力は続ける積りだ。

それは何時の日か、俺の血となり肉となり、実を結ぶと思う。

これからは俺だけの人生じゃ無い。

そこを良く考えていかないとならないと思う。

そう思うのだった。


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