第9話 予兆、謎、失くした記憶
村へと帰ってきたスーは、箒乗り一座の皆への挨拶もそこそこに、フィオナの元へ急ぎました。
フィオナに、気になることを、話したかったのです。
話せば、少しは楽になるかもしれないと思ったからと言うのもありましたが、リノさんに感じた懐かしさ。
その気持ちの理由を考えたかった。
何故かは…分かりません。
何かが、気になったのです。
私を見ていたリノさんの……無表情でありながら、深い感情に満ちた瞳。
森で見た、あの黄金色の澄んだ光。
柔らかい、純粋な光。
それは暖かささえ感じる、不可思議なものでした。
リノさんの言葉が、人に話すことをスーに禁じていました。
でも――。
何かがスーに呼びかけていました。
全身が何かを叫んでいました。
―――。
何かを思い出せそうだったそのとき。
ズキン、と背中の刻印が痛みを訴えました。
「…痛い……」
思いもよらないその痛みに、スーは思わず考えていることを投げ出しました。
知りたいと思う心より、それ以外の何かが、スーのこころを支配していたのです。
それは、刻印に対する、恐怖でした。
□■
「……幸せそうに、笑って…」
森から戻ってきたリノは、宿に戻るでもなく、一座の所へ行くわけでもなく、村に入る直前にある一つの木の枝に、腰掛けていました。
記憶をなくし、何も知らない少女。
不安ではないのか? 見も知らぬ他人が大勢いる中、己の事さえ知らない、分からない自分がその輪に入っていくことに恐怖を覚えはしなかったのか?
リノが真上にいることにも気付かず、村に入っていくスーを見ながら、リノは、笑いました。
「…できることなら、二度と、会いたくはなかったよ…―――」
リノは、誰かの名前を風に乗せて呟き、木の枝から軽やかに飛び降り、村へ入っていきました。
□■
「スー! どこ行ってたの? 心配したのよ」
「ゴメンね、フィオナ。ちょっと、一座の皆に挨拶に行ってたの」
家に帰って、一番に出迎えてくれたのは、フィオナでした。
少し不安そうな表情で、スーを見るフィオナに、ママは苦笑していました。
そんなに心配することなかったでしょう? と優しくフィオナを諭します。
心配をかけてしまったんだ、とスーは、軽い罪悪感を覚え、突然フィオナに抱きつきました。
「わっ!?」
突然のことに驚くフィオナ。
スーは、ぎゅっとフィオナを抱きしめて、心配かけてゴメンね、と謝りました。
「…もうっ。次からは気をつけること!! どっか行くなら声かけて…ね?」
フィオナの言葉に、スーは神妙な顔をして頷きました。
そして、どちらからでもなく、くすり、と笑いあいました。
今回第9話のほう担当させていただきました、闇埜椎奈です。
めっちゃ謎を深めてみましたが……いかがでしょうか。
力量不足ですが、楽しんでいただけると幸いです。