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記憶への旅   作者: gOver
55/55

第55話 悪夢の予兆

 時は、花の季節――。


 広大な王宮の庭園には、色とりどりの花々が咲き乱れ、甘い匂いに誘われた蝶たち

が華やかに飛び交っていました。楽しげな小鳥たちのさえずる声に包まれながら、私

と双子の弟・エリウスはここで『午後のお遊び』をするのが日課でした。


 お気に入りは『箒乗ほうきのり』


 ニュアージュの者には、みんな体のどこかに空の民である証の『刻印』がありま

す。それは遠い昔、遥か彼方の天空の国からこの地に降り立ったご先祖様が、自分た

ちの血脈を示す証として魔法を掛けたのだと言い伝えられていました。


 その証は、体のそこここに現れましたが、特に血の濃い王家のものには、その背中

に現れます。王家の直系である私とエリウスには、確かに背中にその刻印がありまし

た。


 その刻印を持つ物は『空の神に愛でられる者』と呼ばれ、特に飛行能力に優れてい

て、その昔は箒を使わなくても空が飛べたと言います。

 でも、まだ七歳。

 幼い私たちは余り上手く箒に乗ることが出来ず、どちらかと言うと運動が苦手なエ

リウスは、まだバランスを取って箒を浮かせることも出来ないでいました。


「ねえ、レティシア姉さま、今度はボクの番だよ! ほら、見ていてね!」


 今度こそは! とエリウスが、危な気にふらふらと箒を数センチ浮かせて地面から

両足を離した瞬間、グラリとバランスを崩しました。


 危ない! 


 私がそう思った時、転げ落ちるエリウスが正に地面に激突する直前、赤い人影がそ

の小さな体を抱き留めました。


「エリウス様。慌てなくても良いのですよ。ゆっくりと落ち着いてやってご覧なさ

い」


 エリウスを抱き留めた人影は、リノエレア。

 お母様のお友達の忘れ形見で、私が生まれたときにはもうこの王宮に住んでいて、

今は私たちの家庭教師兼・世話係をしてくれるお姉さんのような人です。


 十六歳。私達より九つ年上で、すらりと背の高い落ち着いた物腰の彼女が、私には

とても大人に思えました。


 深紅の燃えるような長い髪と、まるで氷の結晶を思わせる美しい蒼い瞳。

 少し厳しいけれど、本当は優しい彼女を私は親愛を込めて『リノお姉さま』と呼ん

でいました。


「リノお姉さま。エリウスは、運動が苦手なんですもの。仕方がないです」


 ジョボンと落ち込んでしまった気の優しいエリウスが可哀相になり、私はそうリノ

お姉さまに言いました。お姉さまは私たちの目の高さに視線を合わせてしゃがみ込む

と、真っ直ぐな瞳で私たちを交互に見比べました。


「良いこと、レティシア。エリウス。『仕方がない』という言葉は、やるべき事をし

なかった人間の言い訳の言葉よ。もし『仕方がない』と思う心が生まれたのなら、そ

れはまだ、やるべきことがあるってことなの」


 私は、お姉さまの言うことが難しすぎて良く分からず、きょとんとしてしまいまし

た。隣のエリウスをチラリと覗くと、やはり同じような表情を浮かべています。


 お姉さまの表情がフワリと軟らかくなり、口元には笑みがこぼれました。


「まだ難しいわね」


 そう呟くと、リノお姉さまは勢いよく立ち上がり、腰に手をあてて胸を張って「さ

あ、おやつにしましょう! 今日はフルーツ・ケーキを焼いたのよ。手を洗っていら

っしゃい」と、庭園に響き渡る良く通る声で言いました。


「はーい!」


 私とエリウスは元気に返事をして、まるでじゃれ合う子犬のように駆け出しまし

た。


 とても幸せで、満ち足りた毎日。

 その日々が、永遠に続くと信じていた幼いあの日。


 でも、終わりの時はあまりにも突然に、まるで春の嵐のように訪れたのです。






今回、担当させて頂きました水樹裕です。

物語もいよいよ、クライマックスに向かって、爆進中!?

どういう結末が待っているのか、私も楽しみです。


これからも『記憶への旅』を、宜しくお願いします。





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