第53話 私はレティシア
ばたばたと大粒の冷たい雨が私の頬を叩き続けていました。
さっきまで冷静だったリノさんの表情が少しくずれました。
「スー、思い出したことを言ってくれない」
リノさんは私に優しく語りかけました。リノさんの私を見つめる目は私の心を
包み込むような暖かいものでした。そう、あの表情、なんだかとってもなつか
しい、私が小さいときいつも私の傍にいた、見守ってくれたあの人に違いあり
ません。
でも、その人の名前は思いだせません、私はその人をいつも『お姉様』と呼ん
でいました。
でも本当の姉ではなかった気がします、いつもそう呼んでいただけ、どうして
かは思い出せません。私は無意識につぶやきました。
「私はレティシア…」
リノさんは優しい眼差しで私を見つめています。私の心はほぐれていき、リノ
さんに向かって話しだしました。
「箒の乗り方をいつも教えてくれたわね。私が良く飛べたときはほめてくれ
て、ほめられた時はすごく嬉しかった」
「そして、箒に乗って遠くの森へ一人で飛んでいったこともあったわね。私は
いつまでたっても帰ってこないから心配でもしかしたらと思ってあの森へ探し
にいって、森の中で迷子になって途方にくれていた貴女を厳しく叱り付けたこ
ともあったわね」
突然あの巨大で恐ろしい『空の魔物』が私の脳裏にうかびました。
空の刻印がうずきだし私は地面にかがみこみました。
「しっかりしてレティシア」
リノさんが私を優しく抱きしめてくれました。
スーが徐々に記憶をとりもどしていきますね。
記憶を取り戻したスーはどうなるのでしょうか?
これからも記憶への旅をよろしくお願いします。