第20話 眠りの湖
私とテックスさんとシーラさん、そしてシュールさんとロックさんは、箒に乗り急
いで森へと飛んでいきました。オトーヌおばあさんやケビンさん達自転車乗り集団の
人々も手分けして探しに出てくれました。
秋も深まり、森は広葉樹の鮮やかな葉の色で染まっていました。森全体が黄金に輝
いているように綺麗です。
でも、今は紅葉を眺めている場合ではありません。いなくなったサーラとノールを
探さなくてはいけません。テックスさんとシーラさんは森の上空を飛び、私とシュー
ルさんとロックさんは森の木々の合間をぬって低く飛びます。
「サーラ!ノール!」
私たちは2人の名を叫びながら探し続けました。しかし、森は深くて広くなかなか
2人を見つけることは出来ませんでした。
時間ばかりが過ぎゆき、みんな疲れ切ってきた頃、突然森の中に大きな湖が姿を現
しました。ため息が出るくらい広大で美しい湖でした。一瞬、サーラとノールを探し
ていることも忘れ、その美しさに見とれてしまったくらいです。
「ここで少し休憩しようか」
シュールさんが、私とロックさんに声をかけました。
「そうだな、飛びつかれてのども渇いたところだ」
ロックさんが言い、私たちはゆっくりと湖の淵に着陸しました。
湖の水は底が見通せるくらい澄んでいました。森の紅葉した木々の鮮やかな色が、
鏡のように湖に映っています。私は湖の水を手ですくってみました。
「冷たい!」
水は氷のように冷たく、私は水を取りこぼしてしまいました。その様子を見て、ロ
ックさんが笑います。緊急事態なのに笑う余裕があるなんて、私は少しロックさんに
感心しました。
「もう冬も近いからなぁ」
ロックさんはそう言いながら、手で水をすくいました。
「おっ……こりゃ本当に冷たいな」
ロックさんも水をこぼしそうになりながら、なんとかすくって口に運びました。
「うまい!スーも飲んでみな。生き返るようだぞ」
顔をほころばせながらロックさんが答えます。本当に美味しそうです。
「ちゃんと水筒を用意してあるのだから、これにすくえばいいよ」
シュールさんは肩に掛けていた水筒をはずすと、湖の水を汲み取りました。さすが
シュールさんはいつも落ち着いています。
「ありがとう」
私はシュールさんから水筒を受け取り、早速水を飲んでみました。口に含んだ途
端、水の冷たさとほのかな甘さが口に広がってきました。その水は、今まで飲んだど
の水よりも美味しい水でした。
たった一口飲んだだけなのに、心が落ち着き疲れが飛んでいくような気がしまし
た。
「本当に美味しい……」
私はもう一口水を飲みました。体がとろけてしまいそうな美味しさです。私は水に
満足すると、水筒をシュールさんに渡しました。シュールさんも美味しそうにゴクゴ
クと水を飲みます。ロックさんは水筒を待ちきれず、冷たいのを我慢して手ですくっ
て飲んでいました。
と、それから間もなくして、突然ロックさんが前につんのめるようにしてフラッと
倒れ込みました。
「ロックさん!」
私はビックリして、ロックさんが湖に落ちないよう身を起こしました。ロックさん
は体をダラリとしてスヤスヤと寝息を立ててます。こんな所で突然眠ってしまうなん
て!
「シュールさん、ロックさんが!……」
私はロックさんの体を支えたままシュールさんの方を向きました。すると、シュー
ルさんも水筒を投げ出しその場に倒れ込んでいます。シュールさんの方からも安らか
な寝息が聞こえてきます。
「!……」
2人とも水を飲んだとたん眠ってしまったのです。私はスヤスヤ眠るシュールさん
とロックさんを見つめ、途方にくれてしまいました。湖の水には眠りの成分が入って
いるのでしょうか?私も湖の水を飲んだはずなのに、私だけ眠くならないのはどうし
てでしょう?
今回で三回目の執筆をさせていただいた、春野天使です。
なんだか謎めいた雰囲気になってきましたね。もっと謎めいていこう!と思い、水を飲むと眠ってしまうという湖を考えました。この後どうなっていくのでしょうか?
続きが楽しみです。(^-^)