第11話 ママの愛情
その夜、私は部屋で今日の出来事を改めて考えていました。
テックスさん達と旅の宿で話し合った時間は、短いものでしたが私にとってはとてもとても長いものでした。
“一緒に旅に出ないか……”
テックスさんの一言が私の頭の中を駆け巡っていました。箒や記憶の事を踏まえて旅に出ようと、テックスさんは言ってくれました。
自分の無くしてしまった記憶を取り戻したい……。その気持ちは確かなものです。私だって、本当の自分を知りたい……。名前や家族、友人の事も知りたいです。
けれど、これまで私が過ごしてきたフィオナ達との9年間も確かなものです。
記憶を無くして、どうする事も出来なかった私を家族に迎えてくれた時から9年間……。フィオナ達と築いてきた思い出もたくさんあります。
本当の家族と今の家族……。私はどうしたらいいのか本当に分からず、ただ悩んでばかりいました。
「スー、ちょっといいかい?」
ママは部屋に入って来ると、私のそばに座りました。
「どうかしたの? 何かあったの?」
私の問いに、ママはただ笑っているだけで何も言いませんでした。
ママに相談した方がいいのかしら……。でも、これは自分の事だからやっぱり自分で……。でも……。
「ママ。あ、あのね……」
「子供っていうのは、親が思っている以上に成長が早いもんだねぇ」
私の言葉を遮るように、突然ママは話し始めました。
「マ、ママ?」
「9年前、森の中で怯えていたスーが、今ではこうして立派な女の子へと成長していたんだからねぇ」
ママは、目を細めて話し続けていました。
9年前、何もわからず怯えていた私を優しく受け入れてくれたママ。実の娘であるフィオナと同じように育ててくれたママ。本当に感謝の気持ちでいっぱいです。
「……それに、今度は旅に出るのだから」
「えっ……?」
突然のママの一言に、私は思わず言葉を失ってしまいました。
「ジーナさんがね、教えてくれたんだよ。今朝の出来事を」
ジーナおばあちゃんが……。きっと、テックスさんから聞いたのでしょう。
「ママ、私は……」
「優しいスーの事だ、私たちの事で悩んでいたんだろう?」
ママには何でもお見通しでした。ママは大声で笑いながら、私の髪の毛をクシャクシャと触りました。
「馬鹿だねぇ、何も一生の別れではないんだよ。生きてりゃ、また会えるんだから」
ママの温かい手に、思わず涙が溢れてきました。
「人生というのは、後悔してからじゃあ遅いんだよ。スーのこれからの人生はスー自身のものなんだから」
「いいの? 旅に出てもいいの?」
私の問いに、ママは笑いながら私に話し続けていました。
「馬鹿だねぇ! 娘の決意を反対する親がどこにいるんだい!」
そう言って、ママは私の背中を軽く叩きました。
「行きなさい、スー。無くした記憶への旅に」
温かく送り出してくれるママのおかげで、私の決意は堅くなっていきました。
しかし、私はもっと大事な人にも告げなければなりません……。
一緒に育ってきた姉妹……フィオナに。
―2回目の山口維音です。執筆が遅れてすいませんでした。今回はフィオナママのスーへの愛情を書いてみました。―