第21話:阿吽の泥
「いやあ、お疲れ様でした! また来ますね、宝蔵院の皆さん!」
又八は、泥まみれで呆然と立ち尽くす僧兵たちに陽気に手を振り山門を後にした。隣には、胸から十文字槍の柄がアンテナのように突き出たムサシが従っている。槍の先には、又八の荷物がぶら下がっていた。
「……ムネ……ガ……オモイ……」
「我慢しろよ、この槍こそが証拠なんだから。吉岡の次は宝蔵院を倒したとなれば箔がつく。俺たちの価値は爆上がりだぞ」
又八は槍の柄をトントンと叩き、ニヤリと笑った。
「いいかムサシ、一番有名な強いやつを倒せば天下無双の看板が手に入る。そうすりゃ大名家が千石、二千石と積んで召し抱えに来る。お前は座ってるだけでいい。俺がプロデューサーとして、一生左団扇で暮らさせてやるからな」
道行く旅人たちが胸に槍を突き立てて歩く巨人とその槍を荷物掛けにしている小男を見て、ギョッとした顔をしながら道を開ける。
「見てろよ、これが新しい武士のスタイルだ。斬られても突かれても、それを道具にする。これぞ不殺生の極致だよ……たぶんね」
「……ヌキタイ……」
「抜かない! 補修するにも泥がいるんだから。タダで直せるのがお前の売りなんだから、刺さったままの方が安上がりだろ」
夕日に照らされ、欲望に燃える又八と槍を刺したままの巨人の影が長く伸びていった。




