マフィア
港の倉庫では銃火器の取引が行われていた。
マフィア同士の取引である。
夜の港――
「はい、そこまで~!」
「これまでだ」
ミリエルとディックが倉庫の扉を開けて、言い放った。
ディックの手には黒ワシのレイピアが握られていた。
「なんだてめえら!?」
「どっから現れた!?」
マフィアの男たちは混乱した。
「ビジネスが順調に進んでいるところ申し訳ないね。裏ビジネスを叩くために俺たちは来たんだ」
「ごめんね~。でもあたしらは見過ごすことはできないの~」
「さあ、ケリをつけてやる!」
ディックとミリエルはマフィアの男たちを攻撃した。
取引の現場は取り押さえられた。
取引は壊滅した。
次の日、詩音はいつも通りにディックの洋館を訪れた。
「よう、よく来たな」
「ごきげんよう、今来たわ」
ディックはイスにゆったりと腰かけていた。
相変わらずの悪態である。
彼は両腕を組みつつ詩音を見た。
詩音は黒いソファーに座った。
「ねえ、ディック、港のマフィアの一件知ってる?」
「あ? 港のマフィア?」
「そう、なんだかニュースで報道されていたわ。現場を一斉に摘発されたんですって。マフィアなんて怖いわ」
「ああ、それか」
ディックはニヤリと笑った。
それを見た詩音は怪訝に思った。
ディックがこういう笑いをするのは何か知っているからだ。
「もしかして、何か知っているの?」
「それはな……」
ディックは一連の事情を詩音に話した。
ディックは右手でほおづえをついた。
「まあ、そういうことなんだよ。奴らの活動の背後には悪魔がいる。悪人たちは手先にすぎない。犯罪者を装っているが、本当の目的は別にある」
「そういうことだったのね。なんだか納得できたわ。だって話がうまくいきすぎていたもの」
「まあね。俺たちが関与していなかったら、ここまでうまく摘発できなかっただろうね。少しは、感謝してほしいところだ」
「なに、それ。うふふふ」
ディックは相変わらずの自信家ぶりであった。
それが詩音には安心感を与えた。
同時刻別の場所。
生活用品店のレジ・カウンターにて。
ミリエルは生活必需品を買いに来ていた。
シスター服を着た女性は珍しいからか、店員の女性は緊張気味だった。
ミリエルは買い物用マイバッグを両手で持つと、店の外に出た。
兄が住んでいる洋館へと歩みを進める。
(あたしみたいな恰好って、そんなに珍しいかしら?)
と自問自答する。
ミリエルは通りを曲がった。
あまり人通りのない通りである。
すると、ミリエルの後ろから黒塗りの高級車が現れて、急停止した。
車の中から、黒スーツの男たちが現れた。
一人の男がミリエルの後ろから拳銃を突き付けた。
「我々といっしょに来てもらおう」
「いやって言ったら?」
「その時は……」
男が持つ手に力が込められた。
「これは脅しではない。本気だ」
男は淡々と告げた。
「ふう、わかったわよ。降参、降参よ」
ミリエルは白旗を上げた。
男たちは静かにミリエルを黒い車に乗せた。
車はディックの洋館とは反対方向に進んだ。
ミリエルは黒スーツの男たちにさらわれた。
一方ディックの執務室ではクラシックな音楽が流れていた。
部屋はアンティークな家具、調度品でこしらえてあり、優雅さに満ちていた。
ディックは窓から日に当たりながら、音楽を聴いていた。
詩音は新しい小説を読んでいた。
二人の本の趣味は異なっても、読書家であることは共通していた。
ふとそこで、ディックのスマホが鳴り響いた。
ディックはスワイプした。
電話はミリエルからのものだった。
「どうした?」
それは意外な人物からの電話だった。
「よお、あんたがディック・ディキンソンかよ?」
「そうだ。誰だ、おまえは?」
「俺か? 俺はマフィアのボス、アゴスティーノだ。例の取引をよく潰してくれたよな? これはお礼の電話だ」
「どうして、俺の名を知っている?」
「一緒にいたシスターの姉ちゃんから聞かせてもらったぜ。電話もな」
「ミリエルから?」
「ああ、そうだぜ。今から声を聞かせてやるよ」
少し時間が開いた。
しばらく時間が過ぎ去る。
「ごめんね、アニキ~。あたし、マフィアにつかまっちゃったの~」
「ミリエルか。どうして捕まった?」
「買い物の帰りに銃を突き付けられたのよ。今は手錠をかけられて手を拘束されているわ」
「そこはどこだ?」
「おっと、そのくらいにしてもらおうか」
アゴスティーノはミリエルを電話口からはずした。
「この姉ちゃんは俺達が預かっておく。取引をぶっ潰してくれたんだ。それ相応の見返りを用意してもらおうか。後でまた連絡するぜ。その時に詳しいことは話してやるよ。じゃあな」
アゴスティーノは一方的に電話を切った。
ディックはスマートフォンの画面を見つめた。
「ディック、どうしたの?」
詩音が座りつつ言った。
「ああ、ミリエルがマフィアにさらわれた」
「ミリエルさんが!?」
「さっきの電話は俺たちが取引を潰したかららしい」
「それで、大丈夫なの?」
「フッ、奴らは一つだけミスを犯した。天使と悪魔の違いを見落とした。ほかならぬ天使に脅しをかけたことだ」
ディックは立ち上がって窓を開けた。
「ワシの目」
ディックは超高性能コンピューターのように現実世界を見た。
すぐにミリエルの位置が把握できた。
それは衛星写真のようだった。
「そこか……では返してもらうとしますかね、俺の妹をな」




