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番外編:恋は盲目と言いますが④


「あの、さ。ヴィオちゃん」


 フェルマが、少しだけ気まずそうに頭を掻いた。

 ヴィオラは顔を真っ赤にさせたまま、フェルマを見上げる。トクトクと、心臓が早鐘のように脈を打った。


「勘違いをして欲しくないんだけど……僕は、君が十五歳になったら、ちゃんと告白をして婚約を申し込むつもりだったんだ」


 ポツリと呟いた言葉に、ヴィオラは目を丸くさせる。両思いという事実だけではなく、婚約の申し込みの予定があった事に驚きだ。


「何故、十五歳なのですか?」


「昔、婚約を打診した時に……君のお父上から条件を出されてね。僕への好意はただの『兄への憧れ』の可能性があるから、十五歳まで待って欲しいと」


 ヴィオラが他に好きな相手ができたら身を引くつもりだったと、フェルマは言った。その代わり、変わらず自分を慕ってくれたなら大事にしようと決めていたらしい。


「ちょ、ちょっと待ってください。フェルマ様は、私の気持を知っていたのですか?」


「うん」


「で、でも。私、いつも素っ気ない言葉で……」


 そう、ヴィオラはフェルマを前にすると素直になれなかった。自分でも自覚をしているし、何なら可愛げがないと気落ちした事もある。


「ははっ。あんなに分かりやすく好意を示されて、好きにならない奴がいるの?」


 言葉は素直ではなくとも、態度やその目がフェルマへの愛情を表していた。


「こんな可愛い子に好かれて絆されない奴がいたら、そいつの目は節穴だね。あっ、シャノが良い例だ」


「シャノワール様を異性として見た事はないわ」


「知ってる。ヴィオちゃんは、一途だもんね」


 フェルマは愛おしそうに、ヴィオラの頬を両手で挟む。互いの息がかかりそうな程、顔が近い。


「好きだよ、ヴィオちゃん。君は僕の『一番』で『特別』な女の子だ」


 それは、ヴィオラが欲しかった言葉だった。

 相手の「一番」であり「特別」という響きは、甘美で麻薬のように頭の中を痺れさせる。


「幸せにするから、僕と結婚してくれる?」


 伺うように、フェルマは問う。

 ヴィオラの中で、答えはもう決まっていた。気恥ずかしそうに小さく頷くと、嬉しそうなフェルマの顔がゆっくりと近付いた。


(私、この人のお嫁さんになれるんだわ)


 大袈裟かもしれないが、ヴィオラは今この時だけは自分が世界で一番幸せな人間に思えた。抱き締められるぬくもりも、夢ではない。


(本当に、幸せだわ……あれ、何か頭がフワフワする)


 幸せすぎて、視界が歪んできた。どうやら、ヴィオラの脳が処理できる限界を超えたらしい。くたり、フェルマの胸に寄りかかってしまう。


「えっ、ヴィオちゃん? ヴィオちゃーん! アッツ! 熱が出てる」


 ヴィオラはフェルマの声を最後に、意識を手放した。だが、その表情は満足げであったという。



 *



「約束より少し先走ったけど、何とか婚約できて良かったよ」


 後日、シャノワールの執務室で、フェルマは婚約の報告をしていた。


「それは、良かったな。ヴィオラは、大丈夫か?」


「元気はあるけど、一応明日まで静養するみたいだよ。ほら、ヴィオちゃんが熱を出すなんて珍しいだろ? 屋敷の皆が、過保護にしてるんだ」


 本当なら皇后主催の茶会でヴィオラと共に報告する予定ではあったが、フェルマと両思いだった事が嬉しすぎて熱を出したヴィオラは欠席をしてしまった為、それは叶わなかった。

 それでも親友には早く報告をしておこうと、フェルマだけが日を改めて訪ねたのである。


「そっちは、どうなのさ?」


「どうとは?」


「マートル嬢とだよ」


 これでも応援をしているのだと、フェルマは言った。何か手助けをしている訳ではないが、親友を想う気持ちならあるらしい。


「……彼女は時折、何か悩んでいるようだ。もしかしたら、私が原因かもしれない」


「積極的に行き過ぎた?」


「その点については、反省はしてない。それに、反応からして手応えはある」


「肉食だねぇ、シャノ。まぁ、確かに何か抱えてる感じはするかな。皇太子の婚約者なんて、苦労が目に見えてるし」


「……彼女には、重荷になるだろうな。それでも、私は隣にいて欲しいと思う。他の男が隣に立つ姿を想像するだけで、腹が立つんだ」


 独占欲丸出しのシャノワールに、フェルマは目を瞬いた。


「恋は盲目だというが、シャノも僕もたった『ひとり』しか眼中にないんだな」


 恋とは、なんと自分勝手であり純真なのか。

 似た者同士だと笑い出すフェルマに、シャノワールは心外だと言いたげに眉を寄せる。しかし、すぐに表情を和らげて「そうかもしれないな」と、穏やかに言った。


「僕は、案外うまくいくと思うよ。だって、君はヴィオちゃんにも似てるから」


「そうか?」


「真っ直ぐで惜しみなく愛情を向ける所とか、好きな相手に対して従順な所とか。マートル嬢が絆されるのは、時間の問題じゃないかな」


 まるで予言のように、フェルマは言い切った。


「何故、分かる?」


「経験者は語るって奴だよ。それに――」


 ――君は、諦めが悪いじゃないか。

 意味深に片目を閉じたフェルマは、シャノワールの恋が成就する事を願うと告げて執務室を後にする。


「……よく分かっているじゃないか」


 残されたシャノワールはフェルマが出て行った扉を見つめた後、小さく笑った。


 



これにて、番外編も完結です。

また何か思いついた時にでも、こっそりアップをしようと思いますが、ひとまず完結します。

最後までお付き合い、ありがとうございました。

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