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外れ者たちのバラッド~死神オルクと笑わない魔導士~  作者: 宮塚慶
2:王女ミンテと偽りの女神

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第46話 再会と決断

 ザグレーン王国内を調査して、いくつか分かったことがある。

 一つは、勇者ティシーの評判がすこぶる良いことだ。

 誰に聞いても、答えとして返ってくるのは「美人で心優しい勇者」「ゲトー王子の婚約者として相応しい」という言葉。

 皮肉すら出てこない称賛っぷりが、俺の中で彼女の疑わしさを増長させている。


「こんなことがあっていいのか?」


 賛美の嵐を受け、聞き込みの最中に思わずぼやく。

 セルピナも、その評判をどう見るか図りかねているようだ。


「勇者ティシーには何かある。それは確実です。ですが……」

「ですが? なんだ?」

「どれだけ考えても、彼女の動きに不自然な点はありません。民のために尽力する様子から、評判も納得がいくものでした」


 本当にそうか? と言いかけて俺は押し黙る。

 セルピナの言うことは正しい。

 勇者を憎む俺でさえ、ティシーから悪意や敵意は感じていない。

 それどころか、聞き込みの中で彼女の善行が次々に明らかとなった。

 率先して前線に赴き魔物と対峙する。民草の声を聞いてゲトーへ届ける。公務に励む健気な姿を多くの人間が目にしている。

 疑わしい点のない相手。それでも調査を続けているのは、セルピナが疑念を持っているからなんだが。

 当の本人が迷っているなら、俺もどうしていいのか困る。


「しかし、この国の違和感は他にもある」

「魔物のことですか?」

「ああ」


 この街のギルドにも立ち寄り、冒険者向けの依頼を確認した。

 事前に聞いていたとおり、ザグレーン王国の近隣には凶悪な魔物が多数うろついているらしい。高額の報酬を謳うクエストが山のように用意されている。

 が、それにしてはおかしい。


「この国は至って平和だ。魔物による混乱は全く起きていない」

「そうですね。まるで魔物たちが近づくのを恐れているようです」


 ピンチの際には前線に立つこともあるティシーだが、そもそもこの国にはあまり危険が及んでいない様子だった。

 それすらも彼女の策略なのか、考え過ぎか。

 何にせよ。


「結局、今の俺たちにできるのは、二日後にヤツがどう動くのか見極めることだけだな」

「ええ。ですのでフェブルス」

「ん?」


 セルピナがこちらをジッと見つめてきた。


「彼女と会う際に、一つだけお願いしてもよろしいでしょうか?」

「なんだ?」


 真剣な眼差しに、緊張感が走る。

 セルピナは二日後に向けて、ある提案をしてきた。


 ◇


 時は満ちた。いよいよ勇者ティシーと再会する時。

 正面からザグレーン城へ向かうと、多数の兵士と共に正門へ立つ彼女の姿があった。

 肝心のミンテはいないが、どう出るつもりだ?


「御足労いただきありがとうございます。コレー様、フェブルス様」

「はい。さっそく本題に入らせていただいてもよろしいでしょうか?」

「もちろんですわ。ですが、その……」


 そこで、ティシーは目を泳がせた。

 懸念事項があるらしい。警戒しつつ動向を窺う。


「詳しくは城内でお話したいのですが、構いませんか?」

「……ええ」


 俺たちを城内に誘い込む流れになる。

 疑わしい提案にセルピナも迷ったようだが、同意しないことには先に進まないだろう。

 こちらの返事にティシーは頷いて、歩き出そうとする。

 が、そこで彼女が俺たちの変化に気づいた。

 ……いや、気づいて当然のことをしているんだが。


「あら? お二人はそういう関係だったのでしょうか?」

「……気にするな」


 セルピナからの提案。

 それは、勇者ティシーが放つ何らかの認識阻害に対抗するため、会談中ずっと俺が手を握っておくというものだった。

 絶対にお断りな作戦だったが、ティシーが何を仕掛けてくるか分からない。

 念には念を入れてということで、半ば強引に同意させられたのだった。


「うふふ。仲良きことは美しいです。わたくしは気にしませんわよ」

「御託はいいから、行くなら行け」


 茶化すように微笑むティシーの反応に嫌気が差しつつ先を促す。

 間違いなく勘違いされたぞ。腹立たしい。

 不快感を覚える俺の気持ちを差し置いて、多数の兵に囲まれながら城の中へ進んでいく。

 その移動中、早速彼女は本題を切り出してきた。


「はじめに謝罪しなくてはなりません。わたくしの力が及びませんでした」

「どういうことですか?」


 何に対して謝っているのか分からず、セルピナが聞き返す。

 ティシーは随分と勿体ぶってから、躊躇いがちに口を開いた。


「ゲトーや国王様とは話をつけました。ミンテ様の失踪については不問になっています」

「不問? なら問題ないだろ?」

「はい。そちらは問題ありません」


 じゃあ、この話題は何を言おうとしている?

 回りくどい言い方のティシーに苛立ちを覚えていると、セルピナがギュッと手を握って合図してきた。

 冷静になれ、ということだろうか。

 ……この固く結んだ手も、冷静さを欠く要因になっている気がしてならない。


「問題は、ミンテ様自身です」

「……何?」


 ティシーがボソりと呟いた。

 意味分からず、俺とセルピナは互いを見る。


「ミンテに何かあったのですか?」

「ええっと。わたくしが彼女と直接話をして、これからどうしたいかを聞いたのですが……」


 ふう、と軽く深呼吸をしてティシーが立ち止まる。

 何処かの部屋の前だった。俺たちはここに案内されていたらしい。

 ティシーが扉をノックする。


「ミンテ様、ティシーです。コレー様とフェブルス様がいらっしゃいました」


 どうやらこの部屋にミンテがいるようだ。遂に連れ戻すことができるんだな。

 が、部屋の中から聞こえた返答は予想外のものだった。


「帰ってもらってください」

「は? おいミンテ。今なんつった?」


 何かの間違いではないかと思い、聞き返す。

 すると、ミンテはさらに強い語調で伝えてきた。


「オル……フェブルスさん。顔を見ると別れが寂しくなるので、このまま帰ってください」


 ミンテが、顔も見ずに帰るよう要求している。

 一年ぶりに実家に帰ってきたので、普通の子どもならそう言い出すのも分からなくはない。

 けれど、ミンテに限っては不自然だ。そんなことを言うヤツじゃないはず。

 セルピナも眉間に皺を寄せて問いかける。


「ミンテ。何があったのですか?」

「……あたしはとんでもない事をしてしまったんです。罪を償わないといけない」

「罪、ですか?」


 何のことだろうか。

 かつて勇者クリーズとの婚約を破棄したこと?

 それとも、その後に家を飛び出して俺と旅を始めたこと?

 何であれ今更だ。ミンテはそれを背負ってでも自由を求めていたはず。


「とにかく、あたしは二人と一緒には行けません。早くザグレーン王国から出て行ってください」


 明らかに本人の望みとは異なる発言だ。これも勇者ティシーによる洗脳なのか?

 俺は目の前にいるティシーへ睨みを利かせる。

 彼女はこちらの会話を聞いて困惑した表情を見せている。演技だとすれば大したものだ。

 それどころか、そのまま俺たちの説得に割って入ってきた。


「ミンテ様。わたくしは皆さまの旅について存じていません。ですが、お二人はあなた様を心から心配しているように思います。本当にその決断で構わないのですか?」

「そうです。あたしは、もう二人とは行けない」

「国王様もゲトーも、ミンテ様のことはお許しになると――」

「ティシーさんには関係ないことです! 黙っていてください!」


 食い下がろうとするティシーを拒絶するように叫ぶミンテ。

 この違和感はなんだ?

 ミンテの心変わりがティシーによるものだとすれば、この説得は俺たちへのブラフなのか?

 それにしては、状況が読めない。


「フェブルス、どうしますか?」


 セルピナが俺を見ている。

 ミンテが洗脳されているなら、俺が触れることで勇者の能力(スキル)を除去できるだろう。

 つまり、この扉を無理やりこじ開けてあいつを捕まえれば済む話だ。

 なら俺がとるべき選択は。


「……ミンテ。本当にそれでいいんだな?」


 確かめるように聞く。

 隣でセルピナが驚いた表情を見せていた。普段は無表情だが、そんな顔もできるのか。

 そして、勇者ティシーも俺の言葉に目を見開いていた。

 部屋の中から、か細い返事が聞こえる。


「はい。今まで、お世話になりました」


 今生の別れを告げるようなミンテの言葉。

 俺はクシャクシャと髪を掻いて、なんとか冷静に努めようとする。


「今日のところは一度帰る。だがな、ミンテ。お前が本当にそれでいいのか、今度は顔を見せて教えろ」


 返事はなかった。

 同意を得ていない、無理矢理作り出した猶予。

 俺は踵を返して来た道を戻っていく。手を繋いだセルピナは引きずられるようにしながらついてきた。

 部屋の扉と俺たちを交互に見て動けなくなっているティシーを確認し、ザグレーン城を後にした。

読んでいただいてありがとうございます!

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これからもよろしくお願いします!

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