初詣
大晦日。
俺が作った年越しそばを食べた葵はほざいた。
「これから現実時間で48時間ゲームにこもりますので」
こいつ……エコノミー症候群を恐れてねえ!
死ぬつもりだ!
だが頭から否定するのはよくない。
「初詣は行かないのか?」
「行かないです」
「じゃあ行くぞ」
「のは! 言葉が通じない!」
俺は葵を無視して電話する。
夜中なので迷惑と思うだろう。
だが、実は前から頼まれていたのだ。
ふふふ。問題を(他人の力で)乗り越えた俺の人間力はいまやインフィニティ!
小娘が勝てると思うなよ!
「あ、芹沢さん。
やはり葵は引きこもり計画を立てていたようです。
プランBの発動をお願いします」
「あ、ちょ、スパイがいます!
ここにスパイがいますよ!」
「葵、朝になったら芹沢さんが迎えに来るって」
「な! なんだってー!」
葵はがくりと手をついた。
「なぜだ……受験生の貴重なゲームやり放題タイムが……。
嗚呼……なぜ世界は私を拒絶するんですかー!」
「葵ちゃんはご飯と睡眠と勉強やってるとき以外はずっとゲームやってるよね?」
そもそも勉強すらゲームの中である。
「筋力落ちるから運動しろって鬼みたいなこと言う人が毎日一時間も邪魔しますけどね……」
散歩とたまに軽い筋トレをしているだけである。
そもそも葵は動かなすぎ。少しは運動しないと20代で成人病を発症しかねない。
それだって年末年始は免除してるのだ。
悪者にされるほどひどいことはしてない。
大げさである。
「人間なんてダラダラ生きて、ちょろっと小遣いもらって、あとは寝てりゃあいいんですよ!」
葵は手をぐるぐる振り回す。
動作はかわいいが、言ってる内容はおっさんそのものである。
「おっさんか!」
「おっさんでもいい!
だって魔法少女だもの!」
だめだ。葵の中にいる謎のおっさんが雄叫びを上げている。
しかたない! 最後の手だ!
「ええい! 葵、よく聞け!
屋台が出るぞ。
りんごあめ、たこ焼き、お好み焼き、チョコバナナ、じゃがバターがお前を待っている」
「……なん……ですと……。
ちょこ……ばなな。
し、CIAの陰謀ですか?」
屋台に予算を割くほどCIAは暇じゃねえ。
「陰謀でもいいじゃない。おいしければ。
寒空で食べるじゃがバター美味しいだろうなあ。
あーあ、せっかく葵ちゃんと食べようと思ったのに。
残念だなあ。芹沢さんとでも食べてくるか……」
「にゃああああああああッ!
行きます! 行きますって!
いいですか! おごってくださいね! 約束ですよ!」
こうして面倒な説得を経て葵と初詣に行くことになった。
朝。
葵は黒塗りの車にさらわれていく。
誘拐? 違う。
ただのヘアサロンである。
俺は料理を作る。
おせち料理とお雑煮ができた頃、葵が返却されてくる。
「いやー、寒い寒い」
芹沢さんも家に上がり込んでこたつに入る。
「おーお、可愛くなっちゃって」
前髪ぱっつんで可愛い感じになってきた。
「がるるるるるるるるる!」
だけど葵は人間をやめた模様。
「てっきり振り袖用意したと思ってました。
これならじき大人しくなるでしょうね」
「用意しましたよ?」
芹沢さんは首を傾げる。
「え? だってお出かけ用ジャージ……」
「私、着付けできますもん」
「……芹沢さんってなんでもできるんですね」
「一度社会のレールから外れると、なんでもやるしかなくなるんですよ……。
資格技能満載の超高スペックお姉さんなのに汚名のせいで就職失敗。
わかります? この気持ち?」
ずずいっと芹沢さんが近寄ってくる。笑顔のままで。
怖いです。その顔。
でも気持ちはわかる!
「い、イエスマム! 社会に存在を否定された気持ちであります!」
「わかればよろしい。ではそこで野生化してる葵とイチャコラしてください」
「ふー、ふー、ふー! わんわんわん!」
「……」
「がるるるるる! わんわん!」
「芹沢さん、お餅いくつ入れます?」
「一つで」
「スルーしたあああああああああッ! ケイちゃんが嫁を無視するうううう!」
まだ嫁じゃない。
「葵はネギなし、ミツバなしな。お餅は?」
「二つ! しいたけなしの鶏肉増量で!」
このおこちゃま味覚め!
二人のやり取りを見て芹沢さんはクスクス笑いを漏らす。
「本当に仲がいいんですね」
「ま、まあ……」
認めざるを得ない。
「私の嫁ですから」
ふんすと葵が鼻息を荒くした。
嫁はいいとして、お母さんやってないか……俺?
食事が終わると着付けが始まる。
俺はダウンジャケットを着てコンビニに行く。
追加でジュースと酒、それにお菓子を買う。
干物やサラミなどの乾きものやスナック菓子。
さらに……乳酸菌入りクリーム入りビスケットや、ラムネ、メガネ型パッケージのマーブルチョコ。
幼児が好きそうな駄菓子も買っていく。葵への嫌がらせである。
帰ると和服姿の葵が完成していた。
見事なドヤ顔である。
「おーお、かわいいな。ラムネでも食うか?」
「かわいいの方向性が違う!」
「まあまあ、行きましょう」
三人で神社に向かう。
地元の神社なのに混んでいたが普通に並ぶ。
初詣が終わると屋台タイム。
葵がもぐもぐと冬眠前の動物のように貪る。
「ばななー、おいもー、うまうま」
着物姿の台無し感。
なお芹沢さんは焼鳥とビールでご満悦である。
ほんと集団行動できないな、こいつら。
だけど俺もコミュ症仲間。好き勝手に生きる。
俺も端末を起動してネットニュースを開く。
ストリーミング中継のお知らせが入ったので興味本位で見てしまった。
「女性がビルの屋上で叫んでいます。
警察官が止めに入ってますが興奮した女性が降りてこないようです」
アナウンサーの声がする中、画面に映し出されていたのは……元婚約者殿。
「……おいおい、冗談だろ」
本当に冗談みたいな光景だった。
そう、あのバカ……バカがとうとうキレたのだ。




