表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/26

パーティー

 12月。

 葵が高認試験に合格した。

 やればできる子もここまでくるとコメントが難しい。

 今は仮想現実世界で受験勉強をしている。

 元々学校に不向きなタイプだ。

 これでいいのだろう……たぶん。

 そしてクリスマスがやってきた。

 雪が降る気配はない。

 普通のクリスマスだった。

 大企業主催のパーティーに激安店のスーツで行く根性はなく、ストレスでハゲそうになる価格でワイシャツネクタイまで含めて一式購入。

 かといってブランド品を着ていくのは精神的に負けのような気がするので絶滅危惧種の下町テーラーメイド。

 店主のやたらダンディなおっさん大喜び。

 それで、サービスで舌を噛みそうなブランド名の靴下をつけてくれた。イタリア製だって。

 これだけだと流されているようでムカつく。

 なのでネクタイのタイピンだけは中国製人工エメラルド。ネット通販で480円。

 すべてがパーティーの格を下げるという嫌がらせのためだけのトラップである。

 葵に毒されていることに気づいたのは諭吉の小隊が全滅したあとだった。

 靴のオーダーはかなり大規模な小隊が全滅と聞いて方針変更。

 髪も美容院に行きセットしてくる。

 端末に傷がつくので腕時計はいつもつけない。なので今回もなし

 と、無駄に気合を入れたのに……。


「葵……ジャージ……なの?」


 いつものジャージである。

 葵はニコリと微笑む。


「実家のパーティーをめちゃくちゃにしてやりたいと思いませんか?

例えば方向性の違う高級品着ていくとか、わざと人工の宝石つけていくとか。

ジャージで行くとか!」


 発想が同じだった。

 危機感を持った俺は電話をかける。


「あ、芹沢さん。

葵がジャージでパーティーに出るって言ってますけど」


「あ! 問答無用で通報した!」


「はい……え? あのガギャァッぶっ殺す?

今からカチコミかける?

それは素晴らしいです芹沢さん。はい、お待ちしてます」


「みゃあああああああああああッ!」


 すぐに迎えが来て改造手術のために葵を捕獲する。


「や、やめてくださああああああああい!

ケイちゃん! ケイちゃん! ケイちゃん!」


 わざとらしく俺の名前を連呼する葵に親指を下に向ける。

 そのまま連行される葵。

 するとメッセージがやってくる。


『おぼえてやがれ!

絶対お前ら地獄に落としてやる!

わ、我が死のうとも第二第三のジャージガチ勢がぐああああああああああああッ!』


 こうして悪は滅びたのである。

 俺は別に来た迎えの車で送られる。

 リムジンである。

 葵の関係者だ。

 きっと嫌がらせに違いない。

 と、思うのは考え過ぎだろうか?

 送迎され都内の一等地に到着。

 無駄に大きなビルが登場。

 受付を済まし高速エレベーターで会場に行く。

 会場で携帯端末に送られてきたソフトウェア電子キーで受付を済ます。

 日本企業のパーティーなので汚いおっさんが大セクハラ大会を開いているのかと思ったら、会場の雰囲気は上品だった。

 ピアニストが曲名のわからない静かな曲を演奏し、立食形式で料理が並ぶ。

 学生の頃に手伝った学会のパーティーよりも上品だった。

 困った……居場所がない。

 嫌がらせの余地がない。

 よく考えたら知り合いもいない。

 交流するにも利益を出してない部門だ。肩身が狭い。

 特にやることもない。

 クソ上司との飲み会レベルだと今気づいた。


「佐藤さん、でしょうか?」


 振り向くとやたら渋い、ちょい悪系白髪のおっさんがいた。

 ひと目見てわかった。

 だって会社案内に載ってたもの。

 葵のじいちゃんだ。


「か、会長……」


「直接お会いするのは初めてですね」


 すると会長はぶあぁッっと涙を流す。


「末はクラッカーかサイバーテロリストか。

コミュニケーションが取れず家族で葵の将来を悲観していたところ、佐藤さんのおかげで大学に行くと言ってくれて……。

ありがとう! ありがとう! ありがとう……」


 会長は俺の手を両手で握りひたすら感謝の言葉を繰り返す。

 葵……なにをした?

 少年刑務所レベルのヤンキーを更生させた反応だぞこれ。


「おまけに汚名をかぶりながらも一生……一生葵が悪さしないように見守ってくれるなんて」


「はい?」


 嫌な予感がした。

 いや、嫌ではないのだが、流されるのは嫌だ。


「あの……会長、あお……お嬢様はなにをなさったので?」


 震える手で給仕の人から水をもらい口に含む。


「その恥ずかしい話だが、葵の通う中学校で教師と生徒がただならぬ関係になってね……。

その生徒のほうが葵の友達だったんだ。

それで教師の方が逃げたので怒った葵が証拠を集めてね。ここでちゃんと止めればよかった。

その……学校に忍び込んだり、教師の家に忍びこんだり……それでその……写真を盗んできてね。

アナログで保存してたらしいが……。

最終的に教師は逮捕されたが、その……葵も保護観察になってしまってね……」


 なんだか会長から悲壮感が溢れている。

 なにやってんの葵!

 会長は俺にしがみつく。


「頭はいいんだ……あの子、頭はいいのに暴走を止められないんだ!

目的は正しいんだ! でも報復の手段と規模が間違ってるんだ!

高校も同級生を殴ってクビになるし!

うちの娘は日本語は通じるのに話が通じないって精神科に通うし!」


 なんとなく……わかってきた。

 葵の親からしたら葵は理解不能なモンスターなのだ。

 それほど大きな溝があったのだ。

 じいちゃんはまだ理解しようとしたが、それでもわからなかったのだ。


「……つらいですね」


「わかってくれるか!」


「いえ、葵がつらいですね。

親にも自分が理解されないなんて」


 それを聞いて会長は俺の顔を見つめた。

 やたら真剣な顔をしている。


「やはり佐藤さんしかいないようだ」


 なにが?


「私の後継者は佐藤くんしかいないようだ……」


 おい、やめろ!

 俺はアイランドな耕作じゃねえ!

 そういうのマジでやめろ!

 俺は人の上に立つとか無理なの! むーりー!

 俺が心の中だけで罵倒していると、視線に気づいた。

 一つや二つではない。

 会場にいた人々の視線が俺に突き刺さっていたのだ。


「あれが次の……」


 断じて違う。


「冷静そうな人ね」


 ただコミュ症こじらせて黙っているだけだ。


「上品そうな人ね」


 俺のシモネタライブ聞くか?

 マジでこのパーティぶっ潰すぞ。

 すると声が聞こえた。


「ケイちゃん!」


「葵ちゃん……って誰!」


 そこにいたのは、からあげ大好きジャージ姿のアザラシ……ではなく、美少女だった。

 改造手術は成功したらしい。

 と言っても元がいいので髪の毛と服を直しただけだ。


「どうしたんですか? ケイちゃん変な顔して」


「なあ……葵ちゃん、普段からそれだったらもっと人生楽に渡れたんじゃないかな?」


 適当に微笑んでるだけで周りが優しくしてくれるレベルだぞ。


「幼稚園のときに私を取り合って流血事件が起きたから嫌です」


 納得。


「それにネットの本音で生きてる私にドン引きしない人が見つかったんでいいんです」


 葵は頬を赤らめる。

 ……いや違うんだ。

 ドン引きしてないんじゃない。

 元婚約者とか、もっとすげえ連中を見てきてるから心が波打たないだけなんだ……。

 だが会長はあふれる涙を拭いていた。

 会長は愛が孫を救ったと思っている。

 葵は俺といると楽だよねって考えている。何も反省してないし、ライフスタイルを変える気はない。

 俺は心が死んでいるせいか何も考えてない。逃げたいだけだ。

 周りの連中は俺を値踏みしまくってる。

 みんな考えてることが違う!

 俺が悶ていると葵が耳打ちする。


「ケイちゃん……私知ってます。

ケイちゃんは私が未成年だからそういう気はないんですよね?

ただ面倒だから……わかります。私も面倒なの嫌いですから」


「貴様……エスパーか?」


 小声で返すと葵は続ける。


「まあ聞いてくださいよ。

私は2年すれば大学生です。

世間から非難される年齢じゃなくなりますよ」


 もう認めるしかない。

 俺は葵には大量の借りがある。

 いや、この言い方は卑怯だ。

 未だに恋愛感情を云々する余裕はないが……葵は特別な存在であると思っている。

 決着をつけるときかもしれない。

 自分の過去に。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ