再び森へ
いじめは大人の世界にもある。
いや、昔の価値観で育った世代だけあって大人の方が過酷だ。
どうしたって昔の方がいじめが許されるものだ。
人間はどうしても徐々に進化していく。古い人間は最新の価値観には取り残されてしまうのだ。
だから俺たちは、規格品として作られた。
学校という工場で同じ規格の性能違いの商品として製造され、社会に出荷されていく。
もし検品で弾かれたら一生は終わり。負け犬の一生が待っている。
社会に出たら歯車に徹しなければならない。
代わりはいくらでもいる。
「チームで仕事をするからお前をサポートする」
なんてポジティブな意見じゃない。
「お前が壊れたら取り替えればいいんだよ」
そういう意味だ。
俺という規格品を作るのに使われた金は無駄になり、俺は社会から追放。人生終わり。
社会体制は未だに変わらない。何十年も。
だから誰もが人を大事にしない。
規格外品は叩かれ、晒され、ストレス解消のサンドバッグにされる。
そう、例えば無知な人間をハードモードの虫取りに連れて行くとかだ!
なんかムカついてきたぞ!
俺はガバリと起き上がった。
怒りで目が覚めた。ああ、葵、いやナターシャをぶちのめしていない。
なにが虫取りだ!
巨大な虫に追い回されるのが虫取りなはずがない!
オラもう怒ったぞ!
すると端末がメッセージの到着を知らせる。
『虫取り行こうぜ!』
よし、ぶん殴る。
葵を殴るのは気が引けるが、ナターシャなら問題ない。
現実世界で暴力を行使するのは許されない。心が痛むから。だが、8月32日内なら心が痛まない。
邪知蒙昧の輩を倒さねばならない!
俺はキレながらヘッドセットを装着した。
「というわけで今日は、ぽんぽこモードで行こうと思う。まだ人類にはハードモードははやかったんや」
ぽんぽこモードは敵の出ない親切設計である。ぶっ殺す。
「お前、思いっきり関東人だよな」
「生まれも育ちも埼玉ですがなにか?」
「サイタマラリアにかかって死んでしまえ!」
「カフカ作品の親父の如き理不尽さ! つかそれ漫画!?」
「ウィッカーマンの最後みたいにしてくれる!」
「次のお題は映画!? ホラー映画苦手なんですけど!」
「ハードモードの虫取りに連れて行くやつの意見など聞かぬ!」
「ちょっとGとか触手でくっころ騎士みたいになっただけじゃん!」
「それだそれ! 絶対許さねえからな!」
「ケイちゃんのいじわるー!」
「るせーッ!」
いつものように言葉のドッジボールを経て、すっかりやさぐれた俺たちは道の駅へ行く。
そしてノーマルモードを選択して森に入る。
なぜ断らなかったのか?
それは簡単だ。勢いでやってしまった。後悔しまくり。……である。
森に入るとたぬきがいた。正確に言おう。たぬきのNPCがいた。
「虫取りにようこそだぽん! ぼくはナビゲーターのたぬきだぽん。よろしくね!」
ファンシーだ。
もう一度言う。ファンシーだ。
心の奥から怒りがわいてくる。
Gや触手でくっころされそうにあの日の恐怖とともに。
すびしッ!
「痛ッ! なにすんだよケイちゃん! つかシステム! 暴力行為が行われてるんですけど!」
思わずナターシャの後頭部を叩いてしまった。
誰が責められるだろうか。
するとたぬきは言う。
「ハードモードの言い出しっぺへの攻撃は許されてるぽん」
「は!? どうして? 暴力だぜ!」
「全世界で初心者をハードモードに連れて行く嫌がらせが横行してるぽん。運営も困ってるぽん。だから言い出しっぺはシステムに要注意人物としてマークされて、被害者による攻撃が許されるぽん」
「GJ運営!」
「なんというバカ運営!」
ナターシャは涙声だ。ざまぁ。
「君にだけは言われたくないぽん。ケイちゃんはもっとボテクリ回していいのよぽん。なんなら後頭部蹴飛ばしてもいいのよぽん」
「私にだけ優しくない世界!」
「自業自得だぽん」
「お前はいいやつだな」
俺はたぬきの頭をなで回す。
「ぬが! 私だっていい子いい子されたことないのに!」
「アイアンクローが欲しいんだな?」
「なんというセクハラ!」
「ゲーム切り上げて唐揚げ食いに行くか。お前抜きで」
「んが! やめ、それだけは! あやまるからー! 一人のご飯やだあああああああああああッ!」
ピギャーとナターシャは泣き出す。嘘泣きだけどな。
でも完全勝利である。むなしい。復讐はなにも産み出さない。
だけど胸はすっとした。
「幼女を責め立てるとはマニアックな野郎だぜ……ケイちゃんはサイコ野郎。メモメモ」
「お前の本体今からしばきに行くわ。まずは四の字固めな」
「やーめーてー! そっちは幼女じゃなーいー!」
「イチャイチャしてるとこ悪いけど、そろそろ説明させるぽん」
中の人がいるかのように、たぬきがツッコミを入れる。
「おっと悪かった。それでどんな触手が出るんだ?」
触手への恨み、憎しみは忘れない。
駆逐してやる!
「出ないぽん」
「ほう……」
もう一発ずびしッ!
「人の頭を叩くなー! 虫取りはカブトムシとか蝶がメインなんだわ」
「貴様……なぜハードモードにしやがった」
「人生には刺激が必要だと思う! って痛い痛いッ!」
二発ほどチョップを食らわせる。
女の子には優しく? 暴力はだめ?
うるさい! Gや触手の餌食にされたものだけが俺に説教しやがれ!
「はい。これ使うぽん」
たぬきは俺に虫取り網と虫かごを渡す。
これでナターシャの尻を叩こうかと思ったが思いとどまる。
「捕まえて入れるとアイテムになるぽん」
「なるほど。普通の虫取りなんだな。ハードとは違って」
ナターシャは俺に向けてファイティングポーズを取る。
「叩くなよ! 絶対叩くなよ! 絶対やめろよ!」
「よし、たぬき行くぞ」
もふもふはいい。触手やGと違って癒される。あと唐揚げ大好きな毒舌幼女よりも。
「まさかの私の存在完全スルー! やーめーてー置いてかないでー!」
よし無視してやろう。
俺とたぬきが森を進むと、キツネやイノシシが手を振っているのが見える。
誰も傷つかないファンタジーである。
触手やGではない! ガトリングガンも必要ない!
あとでナターシャはしばこうと思う。




