花火……貞●がおしゃれをしてやってきた
ドローンで配達された花火を持つ。待ち合わせ場所はマンションの前。
夜は寒いのでいつものジャージは封印。全身例のファストブランドのワゴンセール品。ダウンジャケットだけは少し高いやつ。でもこれでもいつもよりはマシだ。
マンションの前に出ると芹沢さんが待っていた。
お高いスーツ姿。人間としての格で負けた気分。これがちゃんと働いている人間のオーラなのか!
うわああああああああああッ! 目が! 目がああああああああああッ!
「ケイさん……なにかとてつもなく失礼なことを考えていませんか?」
「カンガエテナイヨ」
だめだナターシャに毒されている。
「まあいいですけど。はい、葵ちゃん出てきなさい!」
そう言うと芹沢さんはスタスタと建物の角に行く、そしてなにやらつかんで引きずってくる。
暴れながら抵抗するその人は……。
「貞●じゃない……だと!」
つい数時間前まで貞●だった葵がそこにいた。
……待て、待ってくれ。オーケー。情報量が多すぎる。少しまとめるぞ。
まずセミロングくらいに髪を切った。なんだっけ? ええっと、ゆるふわロング。女子の髪型を論評できるほどの知識はない。さすがに時間が足りなかったか、本人が拒否したのか髪は染めてない。
今まで重くなかったのだろうか? いやそこじゃない。
服は中学ジャージはどこへやら。小学生並の感想で言えば、ブランド名は全くわからないが高そうな服だ。……もうちょっと言えば似合う。身も蓋もない言い方をすれば「お前誰だ!?」である。
顔はうっすらとメイクをしている。嫌味にならない感じがプロっぽく、そのような女子力を葵が持っているはずがない……ってそうか、芹沢さんがやったのか。
「どうですか!」
ふんすと芹沢は鼻息を荒くした。
その目は「葵を褒めろ」と言っていやがった。しかたがない。
「素直にかわいい……かと」
「ふふふ。うちの葵ちゃんの本気ビルドを見たか!」
「んにゃああああああッ!」
なぜか真っ赤になった葵はセリナをぽこぽこ叩く。
そりゃ恥ずかしいだろうに。自分なりにポリシーがあったのだろう。お前ら男に媚びるかボケ的に。ナターシャなら言いそうである。
でも、かわいいは正義なのだ。元が良ければバフ効果が高いのだ。トータル的にお得なのだ。
「ところで芹沢さん、なぜに葵がおめかしを?」
ズコッと芹沢さんがコケた。
「だめだこいつら。なんとかしないと……」
「なにか?」
「いえ、なんでもありません。はいはい遊びましょう」
釈然としないが話が進んだし、葵がポンコツになっているので、ツッコミ不在で花火をしに近くの公園へ行く。
なお公園にヤンキーなどいない。寒いし、監視カメラがそこら中にあるから。エロいイベントも起きない。
だからなのか、単に話題がないのか、それとも全員の対人スキルが低すぎるのか。沈黙が場を支配した。
なんとなく沈黙が重い。
「あ、あはははは。そういえば芹沢さん。秘書ですって? ちゃんと働いていたんじゃないですか! もうやだなあ!」
芹沢に話を振る。もうこうなったら職業ネタだ! 好感度はだだ下がるけどしかたない!
「ニートですよ」
にっこり。芹沢さんがほほ笑む。怖い……生まれてきてすみません。生きててすみません。ほんますいません。
今すぐ言い訳しなければ殺される!
「でも会社がよこした秘書って葵ちゃんが」
「親戚の女の子の面倒を見てお小遣いをもらっているんです。親に。いい年なのに」
「まじすんません!」
そういう意味か! ようやくわかった!
会社って葵の家が自営業とかそういうオチか。
それでアルバイトがわりに親戚が葵の世話をしてくれると。
なんだ、だまされたわ。もう、やんだー!
俺は平謝りしていたが、原因を作った葵はショボい花火セットを目を輝かせて見ていた。
「まずは水くんでこような」
火遊びなので火事を起こさないように準備する。
ちゃんと準備して頭の悪い遊び方をしなければ、火事は起こらないだろう。
花火を取り出し葵に渡す。
花火と一緒に注文した着火ライターを出して葵の持った花火に火をつける。
光のシャワー。それと火薬臭い煙。
葵はまるで小学生のようにニコニコしていた。
……ヤンキーが花火が好きなのとは違う。そう初めて花火をやったかのような。……おい待てよ。
「葵ちゃん。花火初めて」
「はい♪」
親はなにしてるんだと言いたいが、今は俺が子どもだった昔とは違う。そういう家庭もあるんだろう。
俺だって小さい頃に数回程度だ。今は花火なんてしないのかも。
俺が考えてると、端末からぴこんと音が鳴った。
『花火尻に刺して全裸ダッシュな!』
俺は笑顔で葵に近づくと顔をつかんだ。アイアンクロー。
「ふみゃあああああああああああッ!」
「よりによって下ネタか!? 下ネタなのか貴様は!」
「ネタに走りたかったんですー! 反省してましゅー!」
「まあまあ仲良しさんね」
芹沢さんは「うふふふふ」と微笑み、止めようともしない。
そんな楽しい絵面に見えるか? なあ、本当に楽しそうに見えるのか?
さらに俺の端末が鳴る。
『ロケット花火よこせー!』
「絶対お前そう言うと思ったから買わなかったからな! 設置型の大きいのも買ってないからな! ざまぁッ!」
俺が勝ち誇ると、なぜか頬を膨らませた葵がポコポコと俺を叩く。
「くくく。大人として貴様がイタズラしそうなものは封じてくれるわー!」
「みゃー!」
ぽこぽこぽこぽこ。
「大人しくこの金魚ちゃんでもやるがよい」
金魚の花火を葵に渡す。
火をつけると青い火花が金魚の口から放たれる。
葵は目を輝かせる。楽しいらしい。かぶりつきで見ている。
金魚の花火が終わると、今度は個別に買った品を見る。
『なにこれ?』
ヘビ花火である。
俺は小さい台に火をつける。
火をつけると花火は大きくなって伸びる。うにょーん。
『う●こみてえだな』
「素直な感想ありがとう」
『花火……それは人生の如し。一見きれいに見えるけど、最後はう●こ』
「俺たちの場合、きれいな部分少なくね?」
すると葵はケラケラと笑い、俺の背中をパンパン叩いた。
テンションが高い。どうやら楽しんでいるらしい。
さあ、他の花火を少しずつ楽しもう……。
「二刀流」
葵が珍しく流ちょうに言葉を放った。そうだった。やつはバカだった。
目をキラキラさせて両手に花火を持った葵。
その花火に着火する芹沢さん。いや芹沢。もしくはバカ二号。
当然花火のターゲットは俺。
「あはははははははは!」
「な、なにをする! ぎゃあああああああああああああッ!」
俺も負けてはいない。
両手に持ったヘビ花火を……意味ねえ!
「にゃあああああああああああああッ!」
「ぎゃあああああああああああああッ!」
しばらく追いかけられ、花火が消える。
「てめえ葵! う●こ花火の残骸頭に乗っけてやる!」
「あはははははははは!」
しばらく追いかけると肺活量というか呼吸器の限界が来た。おっさんつらい。
「はあ、はあ……線香花火でシメな」
「はーい♪」
葵が二刀流をしていたときは避難していた芹沢も線香花火には参加する。
パチパチと線香花火が儚げに光った。
火薬の匂いが鼻腔をかすめ、明かりの中で葵は目を輝かせた。
「楽しい……です」
「そうか、そうか。俺に感謝しろよ」
「はい」
やけに素直だなあと思ったらメッセージが入る。
『胸ばかり見てんなよ!』
「見てねえよ!」
ムカついたのでアイアンクロー。
「ふみゃあああああああああああッ!」
ポトリと線香花火の玉が落ちた。




