小話35 友達というもの3
少年はしばらくして椅子の上で、顔を俯かせていた。彼の脳裏には、この酒場に到るまでの光景が頭に浮かぶ。
自分に背を向けて遠のいていく影。引き止めようと腕を伸ばしても、その手は空を切るだけ。
ーーお前なんて嫌いだ。
その短くとも残酷な言葉が、心に突き刺さる。
幼い頃からいつも一緒だった。どこへ行くにもいたずらするにも、2人で楽しんでいたのに。口喧嘩や取っ組み合いの喧嘩だってした。でもその翌日には普段通りに戻って、また一緒につるんでいたのだ。完全な拒絶なんて、全くなかったのに。
唇を噛み締め、テーブルの木目を数えていると、そこにマスターがやってきた。
「ここは未成年者に出す酒は無い」
「え? あぁ、そうだよな。ここ、酒場だし」
どこか上の空で答える少年。この状態では注文は取れないと厨房へ踵を返した。その時。
「あの!」
「なんだ?」
顔をうつ向けていた少年は、椅子から勢いよく立ち上がり、マスターへたずねた。
「こんな話すんの変だけど、おっさんはダチに拒絶されちまったら、どうする!?」
『 …… 』
少年の心の叫びに、周囲がおし黙る。
先ほどまでの喧騒はなんだったのか、誰もがマスターに注目して次の言葉を待った。
問われたマスターは、しばらく目を閉じると射抜く様に少年に目を向ける。
「自分が本当に友人と思っているなら、拒絶されようが構わん。行動でそれを示すだけだ」
「!!」
「顔色うかがわなくてならない友人なんぞ、捨てろ」
「 …… 」
マスターはそれだけ言うと、厨房へと帰っていく。
棒立ちのまま取り残された少年は、マスターの背を見つめたまま、拳をグッと握りしめる。
「……そうだ。俺はあいつとダチでいたい! なのに俺は」
ーーただ1回、拒絶されただけじゃ無いか。
少年は、マスターの背に小さく頭をさげると決意した表情で酒場を出て行く。
その光景を見送って、常連客の男と女が苦笑をこぼす。
「マスター、あんた」
「もう少し、素直に言ってもいいじゃ無いかしら?」




