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小話33 走る男3
「 …… 」
「 …… 」
沈黙。
「ちょっと! 何か話しなさいよ!」
しびれを切らして、女が叫ぶ。しかし、男は何も言うまでも無く大きなため息だけをついた。その態度に一瞬、苛立ちが募ったが、彼の表情を見て思いとどまる。悔しさと不安がない交ぜになった表情。女にも覚えがあった。自身の無力さを痛感して、葛藤していた頃の事を。
何も出来ない自分が悔しくて、悔しくてがむしゃらに暴れた。周囲への迷惑も考えず、ただひたすらに。その当時の自分と今目の前いる男の姿が、重なって見える。女は小さく笑む。この彼も理由は不明だが、何か至らない自分に不満を感じているのだろう。
「ま、いいわ。あんたが何に悩んでいるのか知らないけど」
「!?」
女の言葉に、初めて男が反応を見せる。
「悩みなさい。悩みまくりなさい」
ーーその方が、あんたにとって良い結果をうむわ。
女はそれだけ告げると、さっさと席を立つ。いつまで経っても、彼は話をしてくれないのだろう。なら自分がいても邪魔なだけだ。女は定位置の席に戻っていく。
男はその背を見送ったまま、拳を握りしめ瞳に決意をみなぎらせたのだった。




