小話23 逃亡者の2人 2
美味しそうな匂いにつられ、店内に入る2人組。一部の客が物珍しそうに、フードで顔を隠した2人を見た。しかし、すぐに盛り上がりを見せる仲間達へと視線を戻す。
「「 …… 」」
2人は背後に気を配りつつ、扉を閉めた。
マスターはそんな2人をチラリと見て、すぐ酒や食事の用意に取り掛かる。
「これは、大丈夫なのですか?」
「……たぶん」
背の低いフード姿の者が疑問を覚え、もう1人が歯切れ悪く答えた。
「なんだ、お前ら。札付きの悪か?」
「!」
2人の目の前に冒険者風の男が、笑みを浮かべ立つ。背の高いフードの者が警戒心むき出しで男を睨み、腰の獲物に手をかける。
対して冒険者の男は、気負う事なく苦笑を漏らす。
「何がおかしい!?」
「別に何もおかしくねーよ。ただ、俺はこの店が好きでな。よく通ってる」
冒険者風の男はそう言うと、周囲を見渡して再び2人に視線を送る。
「ここにいる奴らも、殆どそうだ。警戒すんのは勝手だが、辺り構わず敵意を振り回くのはやめてくれ」
男は眉間を指差して、トントンと叩く。
しばらく黙って聞いた2人は、視線を交わしフッと息を吐いた。
「……確かに、失礼でした」
「すまない。心の余裕が無かった」
2人はそう謝罪して、フードをおろす。背の高い者は、精悍な顔つきの真面目そうな男。その瞳は刃の様に鋭い光を宿し、眉間にシワが寄っていた。もう1人はまばゆいばかりの金糸の髪。瞳は薄い青色。人形張りに、整った面差しで人の目を惹きつける容姿をしていた。
宴で盛り上がっていた男どもは、一斉にその女性…いや、少女に魅入ってしまう。少女は身に感じる視線に耐え切れず、共に逃げてきた男の袖をぎゅっとにぎった。
その仕草に男たちがそろって声をあげる。身近にいた女性達から軽蔑の視線を受け、顔をそむけた。
「それで、なんで隠れて」
「言えん。ただ、この方は高貴な生まれで今回は、ある方の使者として来た。だが、慣れない旅路と少々厄介な事情があってな」
言葉の端々から分かるが、どうやら訳ありの様だ。しかも、何者かに追われている。そうでなければ、背後を執拗に警戒しないだろう。冒険者の男は、話を促しつつ少女の片耳ピアスをみた。
「その途中でこの酒場が目に入った。最近、ロクに酒も料理も口してなくて」
「なるほどね。マスター、ちょっといいか?」
ひと通り話を聞き終えた冒険者の男は、マスターを呼び耳打ち。それから、マスターは外へと出て行く。不安そうに見送った2人に、冒険者の男はにかっと笑う。
「大丈夫だ。安心しろ! お前ら、ゆっくりメシくえるぞ?」
『へっ!?』
その返答に、全員が驚く。
それから数分後。
マスターは、戻ってくるとすぐに酒と料理を準備して、2人の前に出す。驚く2人に、冒険者の男は料理を示した。
「さ、大丈夫だ。食っとけ!」
勧められ、言われるがまま料理を口に運ぶ。一口味を知ると、どんどん食べるペースが早くなって行く。その姿を眺めながら、全員が心の内で叫ぶ。
『マスター、一体何をしたんだぁ!?』と。
ーー
「マスター。あの2人、やっぱ例の奴か?」
冒険者の男が小声で尋ねる。質問に、マスターはコクリと頷いた。
「なるほどなぁ。あの子が、この都市の"次期当主様"か。追っ手をかわし、この酒場まで旅をさせるっていう。もうイジメだろう」
「ここは、貿易都市。色んな奴がいる」
マスターの言葉に、冒険者の男はマスターを盗み見る。
「ははっ。確かに」
冒険者の男は、言葉を切って酒を飲み始めのだった。




