小話16 「涼」を求めて3
「おー、焦った焦った。危うく死にかけたわい」
バリンッと氷の結晶が砕け、その場に1人の老婆が姿を現す。光を反射して虹色に輝く氷片。空間全体に広がり、幻想的な光景が生み出されている中。場にそぐわぬ黒い衣服に、ツバの広い三角帽をを被った老婆。常連客達は理解する事を放棄して、ポカーンと立ち尽くす。
「やはり間違えてしもうたか。仕方ない、もう一度……ん?」
周囲が見えていなかったのか、ようやく常連客達の存在に気づく老婆。
「お主ら、誰だ?」
「「それは、こちらのセリフだぁぁ!!」」
老婆の問いに、全員がツッコむ。髪は白く、目尻にシワを寄せた老婆はそっと嘆息すると彼らに向き直る。
「ワシはマスターに請われてここにおる。この暑さ対策にな」
老婆はそう言って、魔法陣を展開。宙から一本の杖を取り出す。
「お主ら、少しは暑さが和らいだであろう?」
「そ、そういえば」
街中を歩くだけも大量の汗を掻いたと言うのに、嫌なベタつきも無く爽快そのものだ。驚きの表情で確かめる。
「ワシもこの暑さには辟易しておる……早急に奴を討たねば」
「やつ?」
「あぁ、すまん。こちらの話だ」
不穏な呟きに質問したが、老婆は答えをはぐらかす。老婆は一度咳払いをすると、マスターに呼びかけた。
「ここの用は済んだ。失礼するぞ、マスター!」
「あぁ」
背を向けて返事するマスターに、老婆は苦笑しながら酒場を出て行く。
『え?』
後に残ったのは、状況から取り残された常連客達の姿だけだった。
ーー数日後。
ある噂が流れた。猛暑の原因たる、巨悪モンスターの討伐に成功。勇ましき冒険者達によって、事態は収束へ向かう。しかしその討伐戦には、冒険者では無い「もう1人」の活躍があった。黒い服につばのついた帽子を被った女性。その存在がなければ、討伐も難しかったと語る。その女性は「魔女」と名乗ったと言う。




