小話12 盤上遊戯3
随分、長々となってしまいました。盤上遊戯後編です。
初老の紳士は、再びズタ袋の中から物を取り出す。
それは赤・青・黄・緑の色のついたカードと、対応する小指サイズのコマ。そして。
「こちらの黒と白のカードとコマ、敵側のものだ。カードをしばらく持っていると、カードに個人の能力を加味した体力と魔力が数字で現れる」
そう言って冒険者の男にモンスターの爪を借り、黒のカードに当てた。触れた先から小さな魔法陣が展開して、カードに体力と魔力の数字が刻まれる。
「「 おー!! 」」
客達の中で歓声が上がり、期待に目を輝かす冒険者達。紳士は、次にコマを盤上に置く。すると、コマに覆いかぶさるようにモンスターの姿が出て、自由に動き始めた。その動きはまさにモンスターの動きそのもの。縦横無尽に盤上を動き回っている。
「敵側は自動的に攻守を行うが、基本、カードを所持する者が声に出して命令するだけで動く。どうかね? おもしろ」
「何だよこれ!? 面白そうだ」
「早速、反省点も踏まえてやらしてくれ!」
「はいはい! 俺、赤がいい!」
初老の紳士が何かを言う前に、人が殺到して来た。遠目で見るだけだった他の客達も、いつの間にか盤を囲んでいる。人盛りが出来た光景に、初老の紳士は、穏やかな笑みを浮かべた。
「酒と料理だ」
そこへ注文を運ぶマスターが声をかけてきた。初老の紳士は駆け寄ると、帽子を取り丁寧に一礼。
「申し訳ありません、マスター。店を騒がしくしまいました」
「別にいい」
マスターは、近くのテーブル席に料理と酒を置き、楽しそうに笑い合う客達の姿を見つめる。その間に初老の紳士は席に腰を下ろし、苦笑をこぼす。
「そう言って頂けると、助かります」
彼は感謝を述べて、ナイフをフォークを手にする。しかし、料理に向かう途中で手を止め、諦めた様にそっと食器を戻す。
「……1つ、お聞きしてもよろしいでしょうか?」
「なんだ?」
唐突な質問に、マスターが了承を返す。
「噂で聞きました。この酒場では暴力沙汰は、御法度だと」
「あぁ」
「通常、こういった店は酒で酔う者も多い。だから、酔った上での乱闘騒ぎだってあるでしょう」
初老の紳士は、目を細めて真剣な眼差しをマスターに向けた。その眼差しは年月を重ねた者特有の、威圧感を放つ。
「ならば何故、”酒場を経営している”のでしょうか?」
「 …… 」
マスターは無言を返した。店に響いていた人のざわめきも遠のき、2人の間には沈黙が降りる。互いの交錯する視線。不穏な空気が流れる中、空気を断ち切ったのは初老の紳士だ。
「これは失敬。過去の追求も御法度ですね。私もまだまだ未熟者の様だ」
「 ……応えられず、すまない」
「気にする事ありません。ただの興味本意でしたので」
初老の紳士は、微笑むと器に酒を注ぐ。そして、酒を注いだ器を持った。
「では、あなたの酒と料理を美味しく頂きます」
ーーその後。
彼の制作した遊戯は、貿易都市を始まりに世界へ広がった。やがて遊戯に利用していた魔法のいくつかは、冒険者ギルドに請われ、冒険者カードの歴史を変えた。そして多くの冒険者達の命を、救う事になる。




