↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界酒場小話集  作者: 愛組
PR
23/345

小話⑨ずぶ濡れの少女3

 雨で冷えきっていた体が、ぽかぽかと温まっていく。味が美味しいのはもちろんなのだが、それ以上にマスターの優しさを感じられた。少女がこの酒場に来た理由も聞かないし、追い出す事もしない。無関心なのかと思えば、体を拭く布を貸したり、飲み物を出したりと。


「……っ!」


 不意に目頭が熱くなった。

 どこか張り詰めていた心が、緩んでいく。嬉しくて嬉しくて。次々と溢れ出す涙が、感情が止まらない。両の手の甲で涙を拭うと、少女はカウンター越しにマスターの背を見つめた。その大きくがっしりとした背は、少女に安心を抱かせる。


「あのっ」


 緊張の中、勇気を振り絞って声を上げる。少女自身も驚くほど小さなその声に、しかし、マスターは気づく。せわしなく動かしていた手を止めて。少女は恥ずかしさのあまり、顔を真っ赤に染めながら、言葉を告げる。



「あ、あり……がと」



 ただ一言。それだけ。

 本当はもっと何か言おうとしていた。けれども無数に浮かんだ言葉の中で、この言葉だけが確かな力を持っている様に思えたのだ。この言葉が1番、自分が言いたい事なのだと。



「……支払いはいい。また、来い」

「うん!!」



 マスターの提案に、心が躍った。

 また来ていいと。気づけば少女の虚ろな瞳に、光が宿る。暗く沈んでいた表情は消え去り、花の様な満面の笑顔がそこにあった。

 少女は勢いよく椅子から飛び降りると、借りていた布をたたんでテーブルの上に置く。



「おじさん、またね」



 そう言葉を残して、少女はバタバタと酒場を出て行った。開け放たれた扉の先で、少女の走っていく姿が見える。マスターは扉を閉めに出入り口に行くと夜空を見上げた。


「 …… 」





 いつの間にか雨は上がっていたらしい。

 満点の星空が、広がっていたのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。