小話⑥マスターとメイド2
酒場に突然現れた謎メイド。彼女は店に入ると共に、マスターへ2本のナイフを投げつける。空を裂いて一直線にマスターを狙う。予想を超える事態に、周囲はまるで動けない。そして。
「ここで物を投げないでほしい」
冷静なマスターの声が、静寂に響く。最悪を想像して思わず目を瞑ってしまった客達は、恐る恐る目を開き、マスターの左手を見る。そこには指の間に挟まれた2本のナイフ。ちょうど刃の中腹で受け止められていた。驚愕の真実にポカリと開いた口が塞がらない。それを見て謎メイドは、口元にわずかな笑みを浮かべた。
「相変わらず、腕は鈍ってないようで」
「元冒険者で、幻惑魔法使いが何を言う?」
素っ気ない口調でマスターが言うと、マスターの手に握られていたナイフが姿を変えていく。しばらくして現れたのは、この世界の通貨である銀貨2枚。ナイフだと思い込んでいた誰もが、息を呑む。
幻惑魔法とは、4つある魔法属性のうち「水」と「風」属性を掛け合わした魔法だ。その使い手が今、目の前にいるのだが、何故メイドをしているのか? 不思議でならない。
「今は、ある方に仕える者。その銀貨で購入できるお酒を1本」
謎のメイドがカウンターに近づくにつれ、客達が避ける様に道を開けた。それは仕方ない事だ。何せ、店に入ってすぐ攻撃を仕掛けてきたのだから。しかしそう考えると、謎メイドの存在も危険には変わらないが、その攻撃を受け止めたマスターは一体、何者なのだろうか?
マスターの未知の正体に、戦慄する一同であった。
ーーその後。
「ところで、何故”死んでください”なんて、物騒な事を?」
マスターの何気ない質問に、謎メイドも何気なく答えた。
「ノリ……ですかね? その方が面白いかと」
『 …… 』
謎メイドの返答に、再び酒場では沈黙が降りたのだった。




