王冠を抱いて
王宮に着くと、レイラはまっすぐにシーリア皇妃の部屋に向かった。
「お母様 !」
飛びついて泣き出した娘を抱きしめて、レイラは泣いた。
「置いていって、ごめんなさい」
「お帰りなさい、母上」
二人の前に立つのは息子のローゼスだ。
「もっと遅くなるかと思ってました。父上の執念は凄いですね」
レイラが手を広げると、ローゼスも身体を寄せて来た。
大人ぽい事を言っても、まだ5歳の子供である。
子供二人を抱きしめて、レイラは戻ってきたと実感した。
程なくして、レイラに家庭教師が決まり、勉強がスタートした。
ところが、すぐに十分な知識があるので勉強は不必要と判断され、レイラが希望する公務をすることになった。
その公務を十分にこなすレイラを見て、側近のリアムはジェラルドに言った。
「ジェラルドは女性登用に力を入れたが、レイラこそ最優先に登用すべきであった。
王妃教育を受ける程の女性の優秀さを、レイラは証明してみせた」
ジェラルドの方は、レイラを探す間、執務に穴を開けたわけだが、リヒトールと側近達が処理をしていたおかげで、問題はなかった。
マクレンジー家において、妻は何より最優先事項であるからだ。
「そう」
レイラは報告書を読みながら、一言呟いた。
それは、オルコットの報告書である。
皇太子妃の座を狙い、皇太子執務室政務官の役を利用して悪意ある噂を流した、としてジェラルドに手討ちにされたと報告されていた。
ただし、皇太子の私財から遺族に見舞金が払われている。
レイラにとって、オルコットはジェラルドの浮気相手であり、憎むべき存在だ。好きではない、嫌いである。
それでも、一方的にジェラルドが斬った事に憤りを感じる。
オルコットを哀れに思った。
オルコットは、低位貴族の女性だ。皇太子にかまわれたなら、期待するだろう。
富や地位を夢見るのは、当然のことだ。
女性登用の政務官として、頭角を現した一人だったのだろう。
ジェラルドが手出ししなければ、何年か後に、優秀な政務官として実力で皇太子執務室の政務官になったかもしれない。
それを、まるでオルコットだけが悪いかのように、有無を言わさず斬り捨てた。
皇太子の権力だけではない、マクレンジーという血が妻以外を無価値とさせるのだ。
女性の存在がまだ軽んじられているのも、一因であるとレイラは考えていた。
結婚も本人の意思ではなく、父親が決めることが多いのだ。
結婚すれば、夫が妻の全てを決める。
このままではいけない、と考えていた時、皇太子妃の執務室の扉がノックされ、花束を抱えたジェラルドが入って来た。
「レイラ、テラスに茶を用意させた。少し休憩にしてはどうだろうか」
レイラとジェラルドのアフタヌーンティーは、王宮に戻ってから恒例になっていて、レイラもそろそろ時間だと思っていた。
ジェラルドは花束を差し出すと、レイラの手を取る。
「今日の君も美しい」
そう言いながら、ジェラルドはレイラに男の影がないかと、チェックするのも恒例になっている。
レイラが公務をするようになり、誇らしく思うと同時に不安で仕方ないのだ。
その日は晴れ渡り、王都の鐘が打ち鳴らされた。
リヒトールからジェラルドに帝位が譲渡され、ジェラルド皇帝が誕生した。
そして、レイラ帝妃の誕生でもある。
若く美しい皇帝夫妻が、王宮のバルコニーに姿を現すと、集まった人々は歓声をあげた。
リヒトールが創った帝国は、穏やかな形で2代目に移った。
これからの長い安定を表すような、皇帝夫妻の笑顔。
レイラは、皇妃となって取り組んだのが、最高学府となる大学の設立だ。
そこは、男女共学での学びの場として開放された。
セルジオ王国の公爵令嬢など、マクレンジー帝国にとって利にはならない。
ならば、自分の価値を高めて必要な人間になろう、とレイラは思ったのだ。
それだけでなく、女性の地位を高める為の教育の場も欲しかった。
ジェラルドの愛だけのもろさを、レイラは知った。
そして、自分自身の愛ゆえの弱さも。
これから、ジェラルドと長い人生を共にする為に、お互いが必要な存在でありたい。
コンコン。
聞こえてきたノックの音に、レイラは振り返った。
お茶の時間だ、ジェラルドが花束を持って扉を開けるだろう、と笑顔になった。
番外編 帝妃レイラ 完結です。
ジェラルドが悪い、それは間違いないのです。
父親のリヒトールを反面教師にしたのに、いろいろな面でリヒトールに似ています。
そしてレイラは、ジェラルドと共にあることを選びました。
壊れかけた信頼を取り戻すのは簡単ではありませんが、新しく作りたいと願ったのです。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
たくさんの感謝を込めて!
violet




