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さいごのたび  作者: チル
オーヤ編
14/22

オーヤ 観光名所

ここまでのあらすじ

アカリ(ハイエナ)はアンド(緑色の謎の子)に出会い滅びかけの世界を旅してる

世界中にいる僅かな“子どもたち”と呼ばれるほとんど生まれなくなってしまった僅かな子たちに会いに行くために

オーヤという人が鎖国してる国から手招きしたのでやってきてなんやかんやあって今日から会いに行く

 ドタバタとしながらも国の中を少し分かり夜を越えまた朝日がのぼる。

 はずだった。

「暗いな……」

 朝日が差し込むはずの窓からは光が入らずアカリは窓を除きこむ。

 そこに広がる景色は昨日とはまるで違うものだった。

 昨日までは茶や緑や白や青がそこそこ色づいていた。

 今日の景色はただただ白。

「アンド!ちょっと見てみなって。」

 眠い目を擦りながらアンドも窓から覗く。

 ゆっくりと目を見開きわぁと感嘆が漏れる。

「まっ白です!雪ですか!?」

 アンドのはじめての積雪だ。


 外に出てすぐに感じた事は昨日よりも激しさを増す寒さと未だに途切れることなく降る雪。

 そしてその積雪量の多さだ。

 一晩で驚くほど降ったらしくすでに玄関の外が雪で埋もれそうになっていた。

 扉は機械で動くようモードを変えボタンを押して無理矢理扉を開いた。

 雪を押し退ける時扉からミシミシと不穏な音がしたので対策を考えておいた方が良いとアカリは断定した。

 外では昨日とはまるで違う光景が広がっていた。

 何もかもを埋め尽くしそうな、白。

 風は強くないが雪が猛烈な勢いで降っていてただ立ってるだけでも雪に埋もれてしまいそうだ。

 雪がこのように降る土地というだけあって対策はいくつもされているようであらゆる家に施された天井がわりの透明エネルギーシールドが雪を積もらせずそのまま下へ落ちている。

 家から下に落ちた雪は少し積もると自動で動いている顔の書かれた地面を走る小さめのロボットのようなものが高速で走り大口を開けて飲み込んでいる。

 おそらくロボットの口の中からワープさせてどこかへ飛ばしているようだが専用の処理場があるのだろう。

 後で手に入れないと、とアカリは考え昨日は見なかったものたちに尻尾をふってアンドは興奮していた。

 車道も少しすると大型車がまるで滑るように雪道を通り大量の雪をものともせず正面から飲み込んでいった。

 そしてこれだけ雪が除けられるのにあちらこちらはっきりと見える白銀の世界。

 大昔、人間はスコップと除雪車という名の雪を押し退けるだけの車だけで対処していたというがにわかには信じられなかった。

 掃除している間に自分がいるところごと埋もれてしまうのではないだろうかとアカリは目の前の光景にそう感じずにはいられなかった。

 アンドはというと空き地にたっぷりとある雪に埋もれて中からぶわっと勢いよく飛び出し雪を散らせて楽しんでいた。

 アカリから見ると上から降ってくる雪の量の方が多そうで何がしたいのかよくはわからなかったが本人はキュイキュイと喜び駆け回っていたので無粋な事を言うのはやめておいた。

 アカリとしてはとにかく寒いということにつきた。

 格好が格好なだけに雪の冷たさがダイレクトに来る。

 コスモスの体温維持能力は極端な低温に対して寒いとさせずに暖まる力はない。

 あくまで死なないように管理する以上の事はしないためアカリは改めて家の事以外にも自分の保温対策も考える事になった。

 今日はまずはその対策のために買い出しだ。

 アンドが雪を手袋をした手で固めて丸めていた時に一日の始まりを告げる時報が響いた。


 店が開くまでアンドは雪遊び、アカリは雪かきに精を出した。

 スコップとかバケツとか怪力腕輪とか使えそうなものをひたととおり出しアカリが怪力腕輪を着けて大型スコップで足も使って一気に雪を掘り出し家を掘り出しアンドはその雪を小さなスコップで雪山づくり遊びをする。

 アカリがスコップで雪に足ごと深く入れて持ち上げて捨てアンドがその雪で雪だるまをつくる。

 アカリがスコップで雪に深くスコップを差し込んで持ち上げアンドがその雪を使って雪の城を作る。

 アカリがスコップで雪にスコップを下ろして…… 

 おかしい。

 雪の中汗だくになりながら雪を掘ってる自分自信も少し変だがそういう事ではなくまるでループしているようだった。

 一時間ほど掘ったはずだがなぜ未だ家(型のテントだが)の周りの雪を掘っているのか。

 屋根も登って雪を落としているがそれも何回かやってる気がする。

 アカリが掘ったであろう自分の後ろを見るとそんなアカリをあざわらうかのように順調に積もっていく雪の層が見えた。

 軽く目眩。

 アカリはやはり昔の人間がスコップだけで雪を退かしていたのは嘘だろうと思った。

 その後もひたすらせめて玄関周りだけでもと雪を掘り玄関から空き地までの道を確保したがアカリは疲労困憊しアンドは遊び疲れて眠くなってきていた。

 ただこのまま家に帰ればおそらくまた家が雪に埋もれてしまうだけだろう。

 なえて弱った気持ちを無理矢理奮い立たせつつ店が開く時間になったので買い物へと赴いた。


 買い物自体はわりとすんなりと終わった。

 主な道の雪は片付けられているし店の中は暖かい。

 行ってしまえば天国のようなものだった。

 これから帰るところは雪地獄だが。

「うーん、暖かいって最高だなあ!」

 とりあえずアカリは自身の防寒対策に体を暖める力のあるカイロスタンプというポンとからだの一部に押すだけでしばらくポカポカするスタンプを購入し使った。

 内側から全身に不思議と暖かくなっていく。

 複雑な事はわからないがラルコン能力として守るシールドのように暖かい熱エネルギーが体をしっかり包むようになるのだそうだ。

 アカリがすっかり暖まったところで次は家の雪だ。

 雪の中すごく薄着なせいで行き交う時に視線を感じつつ家のある空き地とつく。

「……」

「……家がないのです!?」

 正確に言えばある。

 ただそれが白い雪の塊にしか見えないというだけで。

 雪かきした跡はわずかにしか残っておらず早速買ってきた[ゴミパクパクくん~雪対応バージョン~]を動かした。

 これは他の家も使ってる例のロボットだ。

 カラーはかわいらしい赤。

 自動掃除機だがこれは豪雪地に対応して雪モードというのがある。

 食べた雪は街の指定転送先まで自動転送され処分される。

 店で聞いたらオススメ商品として売られていたものを買った。

 お値段1金9銀8銅。

 ちなみに雪モードから自宅掃除モードに切り替えればちゃんと自動ゴミ掃除機として使える。

 スイッチをいれると早速大口を開けて空き地内の雪を吸い込むように飲み込んでいく。

 雪かきの速度なんて目ではないほどに道ができてゆく。

 数分で家までたどり着くと自動で方向を変え家の周りの雪を吸い込み始めた。

 大量の雪はロボットに任せてアカリたちは一度家の中へと戻った。

「ふぅー。やっぱり家が一番だな!」

「でもやっぱり雪でもっと遊びたいのです!」

 ふたりの意見は食い違うがこの後の事のために二人とも体についた雪を落とし少しだけ休んだ。

 このあとの予定のために家で過ごすことも雪で遊ぶことも後回しにすることにしたのだ。

 再度身支度をして家を出るとすっかり空き地に積もった雪はどこかへと消えていたがせっせと新たに積もる雪をまだロボットが飲み込んでいた。

 任せておけば安心だろうとアカリは感じた。

 ちなみにアンドが作った雪だるまは飲み込まれてなかったあたりちゃんと同じ雪でも判別しているようだ。

 すっかり歩きやすくなった玄関先から道へと出て目的地へと向かった。

 目標は黒い塔。

 この国へと招き入れたオーヤへと会いにいくためだ。

 情報には今日辺りから黒い塔の中へと入れてアカリたちと合流したいとのことが書かれていた。

 合流して何をするかまでは書かれていなかったが。

 そのため万が一のことを想定してアカリはいつものラフな布面積の少ない服を着て発光が使えるようにしアンドもすぐにエネルギーシールドをつくる笛杖が出せるようにコスモスを準備させておいてある。

 雪が降るなかなので視界は悪いものの黒く目立つ塔まではまよわず歩いてたどり着けた。

 近くで改めてみるとやはりこの建物だけ異様だ。

 壁の質感ひとつとってみても周りの竹編み土壁に比べると無機質で硬質で非常に頑強そうだ。

 入り口も変わっていて扉に触れるとそこから脈打つように光が拡がって行き幾何学模様を描いて光が行き渡るとゆっくりと大がかりに開いて行く。

 機械的だがその巨大さ故に息をのむような迫力が感じられ扉ひとつでもその異質さが肌に感じられた。

 中はかなり広く天井も5メートルほど高く作られていた。

 黒い外観と違って一階は清楚で神秘さを感じるような白。

 暖かい空気が中から勢いよく漏れだし二人の来訪を歓迎していた。

 中へと足を踏み入れ二人が完全に中に入ると自動的に扉は閉じた。

「さて、ここからどうしようか。情報にはここに来いとは書いてあったが細かい場所指定がなかったんだよね。少し探索しよう。」

 アカリの判断にアンドは同意して二人で広すぎる空間を探索することにした。

 一階は広くかつシンプルだ。

 人が多く集まれるように機材はほぼ置かれず床は礼拝のポーズしても体が冷えないように暖かくしてある。

 一面白の一番奥で唯一といって良いほどに目を引くものがある。

 黒い曲がりくねった大樹のシンボルだ。

 よくみるとこの塔の外壁と同じような深みの黒色をしており壁に彫られた大樹は青々とした葉をつけている。

 どこかの星にあるという世界樹。

 そしてその樹に宿るとされているのがこの宗教最大の力をもつと言われている神に祈るための場所だそうだ。

 塔案内情報にそう書いてあった。

 一般解放される曜日が決まっていてその日の夜に熱心な信者が集まって祈るそうだ。

 今はまだ昼間なので人はほとんどいない。

 一階はこの部屋のみで側面にある階移動ワープ機で上へとのぼっていけるそうだ。

 ワープ機は四角く縁取られた枠内に入り空間に浮かんだウインドウに階数を入力すれば安全を自動確認した後に光で包み光が消えると指定の階に一瞬で移動しているタイプのようだ。

 古いのだと体をなぜか回転させたり一瞬意識ごと暗転させて人によっては気持ち悪くなるのもあったのでアカリはいつも少し警戒してしまう。

 とりあえず二階に来たがここは夜の祈りを済ました信者たちが一同に食事を行う場所らしい。

 先ほどとはうってかわって多くの机とテーブルが置いてある。

 この宗教では肉食を強く推していて菜食をあまり推薦していない。

 草木が信仰対象なので当然と言えば当然だ。

 このテーブルに乗る料理は99%肉で穀物もほとんど置かれないとか。

 宗教的な面が強いこの場所ならではあるが健康面を考え普段はそれなりに穀物や菜食を取ることは信者の間では常識らしい。

 ただそれらもルールがあって食べるときはそれぞれの神に祈り許しを乞うのだとか。

 アカリとしてはあまりにも面倒くさすぎてアホらしいとも思ってしまうのだが自分はその宗教には加入していないからわざわざ言う必要はないなと口に出すことは無かった。

 一般エリアはここまででここからは普通の人は入れないらしい。

 しかしアカリたちは情報と共にこれより上にいくためのキーとも言えるデータを貰ってコスモスにいれていたためさらに上へと行ける。

 つまりここからがオーヤ探索の本番になるのだろう。

 階数に3と入力してアカリたちは光の中へ消えた。


 ワープ先に移動し終え光が消える。

 目に飛び込んだ景色は部屋の内部よりも先に目の前の人間だった。

 アカリはこの人間を知っている。

 正確には昨日会っただけだがその分かりやすい風貌を忘れるはずがなかった。

 狼の風貌に右目が白左目が青ずんだ白の彼。

 銀白の毛並みと白のたてがみが美しく今日もまたずいぶんと高そうななおかつ落ち着いた服を着込んでいる。

 ゴーレムを呼び出したあの青年だ。

 改めてよくみてみると2メートルほどある身長は他の狼の血を引く人間もそうだとは言えやはりまだまだ慣れない。

 と同時に顔はどこかにまだ幼さを感じさせる。

「また会いましたね、アカリさん、アンドさん。」

 あっけにとられ観察しているかのように見回していると向こうから声をかけてきた。

 本当はわずか数秒のことだったのかも知れないがアカリとアンドにとっては驚きで時間の感覚が止まっていた。

 声をかけられ再び時計は動きだし口が動き出す。

「確か昨日の……」

「覚えていてくれましたか!ええ、その時の者です。」

 にこやかにアカリの言葉に返す青年。

 徐々にアカリの脳内が動き出していく。

「なんで、私たちの名前を知っているんだ?」

 ふと口にした疑問。

 そうこれは何かおかしいとアカリとアンドはさとった。

 名前を知っていること以外にも気になる点はある。

 この塔の関係者のみが入れる区域にいること。

 まるでアカリたちを待ち構えてたように思える事。

 何から何まで謎で不可思議な青年はその謎に短い言葉で返答した。

「僕が貴女たちを招いた者、オーヤだからです。」

 ああ、とアカリは合点する。

 遅れてアンドも納得した表情を見せた。

 この男が情報譲渡や入国手続きなどをしてまでアカリたちを招いたオーヤらしい。

 もちろん偽物という可能性もあったが直後にオーヤが上着のポケットを叩くとウィンドウが出てきてそこに個人IDタグとも言うべきこの塔3階以上に入るためのデータが表示されていた。

 ポケットに入っているのはオーヤのコスモスだろう。

「さて、挨拶が済んだ所で散策とでも行きませんか?僕が分かるところは案内しますから。」

 オーヤの提案にアンドもアカリもう、うんとかあ、ああとか曖昧な返答を返した。

 行動や思考が先読みされつつこちらに主導権を握らせないかのごとく矢継ぎ早に展開していく。

 アカリは詐欺の手法か何かかと頭の隅で疑ってみたが次の展開でその考えは打ち砕かれた。

 こちらに道を譲り先を歩かせた。

 本当に散策はこちら任せで半歩下がった位置で解説に徹するらしい。

 もはや何が狙いでここまで呼びそしてなぜ合流してこんなことをしてるのかさっぱりわからなかったがうやむやなまま三人で散策することとなった。


 3階はまず廊下になっていた。

 先ほどまでの宗教的部分の強さは薄まり代わりに番号が書かれた多くのドアが落ち着いた淡い緑色の空間となっていた。

「ここは生活用の階なんですよ。住み込みでここで働く人たちは各々の部屋を持つんですがここから7階まではもっとも一般的な階級の人たちが住む部屋ですね。光景としてはほとんど同じだと思います。」

 オーヤがスラスラと解説し空き部屋があるからと言って中も見せてくれた。

 思ったより広く確保されており電車と同じように空間を広くする技術が使われているらしい。

 一人暮らしには快適そうでちょっとしたマンションの一室のようだ。

「ん?あれ、ここ宗教の施設だよね?宗教的なものが何もないみたいなんだけど。」

 アカリがふと疑問を感じ口にする。

 見た目的にはこれといった特徴がないが快適といったぐらいで宗教の中のものにしては凄く普通すぎた。

「それは僕たちの宗教の性質のせいですね。世界樹のシンボルはごく特定された所でないと印すのは許されていないし大まかな流れは世界樹の神バンラ様を頂点にひとくくりされていますがたくさんの神がいますからそれぞれ支える神が違います。なのでそれぞれがそれぞれの祈りを捧げるための道具を持ち込んで支え信じる神に祈りを捧げるんです。」

 オーヤの話はとにかくよく言葉が出てくる。

 さすがに一度ではついていけないアンドに繰り返し説明しながら部屋をあとにした。


 4から7階までは同じ構成なので一気に飛ばし8階へ。

 8階は先ほどまでの生活感ある空間から一気に変わり本物の植物に覆われた部屋だった。

「ここはいわゆる屋内菜園です。といっても野菜を育てていただくのではなく育てて供え物にしたり採取せず愛でて愛でられたりします。神々との交流場とも言えるので我々はここを第二礼拝堂と呼んでいます。」

 第一礼拝堂は一階の所のことを指すそうだ。

 見渡す限りの草木に流水。

 それにじわりとするような湿度ある暑さが先ほどまでとは異空間としか思えない光景にアカリたちは圧巻された。

 この塔の中はアカリたちの想像を越えている。

 管理された草木の空間というより蔦も花も延び放題の咲き放題でもう少しでジャングルと化してしまうのではないかと思ってしまうほどだ。

 流石にそこまではさせるつもりがないのか人が歩いて通れるスペースは必ずある。

 草木が生えないよう地面に加工してあるようだ。

「くれぐれも折ったりちぎったり踏みつけたりしないでくださいね?その草木の信仰が厚い者たちにハンゴロシにされますから。」

 ハンゴロシ。

 唐突に出てきた物騒な単語。

 半殺しだと認識したとたん背筋にぞわりと悪寒が走った。

 アカリはその言葉ですっかり萎えてしまいかなり慎重に歩いたがアンドはそれでも好奇心が勝って絵本の中のような360度草木に覆われた空間に舞い上がり花のかおりを楽しんだり蔓の艶々具合をさわったり木の息遣いを感じたりと楽しんだ。

  草木を縫うように歩いて案内されるがままのアカリは徐々に不安な気持ちが強まっていた。

 先ほどのにこやかに言われた半殺しがきっかけではあるが宗教に深くない自分がその奥へ奥へとただ一人さまよって踏み込みすぎているような錯覚に襲われた。

 はっきりと言葉にできないだが確かな不安。

 言ってしまえばアカリのカンが危険が待ち受けていることを知らせていた。

 しかしここで慌てて不自然に引き返すにもどこかの草花を踏んでしまいそうでカンが外れている事を祈りながら既に引き返せない場所にいる事に気づかないふりをしながら。

 その手はできるだけ予備動作無しで銃を呼び出し撃てるように胸の前で軽く構えていた。

 気分を変えるために口先に任せて質問をする。

「そういえばオーヤはなぜ昨日あの場所にいたんだ?」

 街ギリギリ端で待っていて野生種とセイメイを退治し消えるように去ったたオーヤ。

 偶然と言うよりかはそこで待ち構えていたようにしかアカリには思えなかった。

 一拍間を置いてからオーヤが答えた。

「はい、それはですね。二つの要因が絡んでいるんですよ。まず一つ目は事前にアカリさんたちが逃げてくる場所を予測していました。その詳細はご容赦ください。そして二つ目なんですが僕はこの街からちょっとした理由で出ることが出来ないんです。僕のいるところまで逃げ切れる事アカリさんたちの実力なら信じていましたから範囲ギリギリで待たせていただきました。」

 なんとも質問に答えつつもどこかはぐらかしているような言い回しだ。

 不安を紛らわすための言葉が不安に繋がってしまった。

 気分転換としては失敗だ。

 そもそもこの言い方だとやはり助けに来てくれたそうだがなぜ助けに来てくれたのかが不明だ。

 意図的に隠しているようにアカリは感じた。

「その、一つ目は言えないならともかく二つ目は、この街から出れない何なんだ?」

 植物とアンドの行動に気をつけながらゆっくりと歩いていく。

 一番後ろにいるオーヤは今度はすぐに答えた。

「それは宗教的理由です。僕はこの地で奉仕することを命じられているため離れる事は出来ないのです。」

 アカリは昔々の頃には特定の地から離れる事を許されずその地で宗教的活動をしつづけたりそもそもいることがその地にとっての大黒柱として必要な存在という人がいるという話を思い出した。

 宗教は人を見えない縛りで大地に縛り付けるらしい。

 おそらくその鎖から逃れてしまうとひどいことがあるのだろう。

 先ほどの半殺しのような制裁を食らってまた鎖に戻されたりまたはもっとおぞましい事も。

 アカリは軽く想像しただけでより嫌悪感と不安感が増してしまった。

 宗教というものの外から見てるだけではわからない怖さの氷山の一角を見てしまったような気分になり軽く礼を言って口を閉ざすことにした。


 一周してワープ装置へと戻ってきてほっと胸を撫で下ろす。

 アンドが草木を壊すことも自分がうっかり花を踏んづけてしまうこともなくすませれた。

 アンドはまだどこかに一年前の事を抱えているのか元々むやみやたらに花をちぎったりはしなかったので頭では大丈夫だとは思っていたが子どもなので心配していたが杞憂だったようだとアカリは思った。


 8階を抜け9階へ行くとこれまた光景が大きく変わった。

 たくさんの肉、肉、肉!

「っさ、寒っ!」

 先ほどの階がじんわりとした暑さならこの階は透き通るような寒さがある。

 吊るされたりビニール袋に入れられた肉塊たちを保存するための冷たさだろう。

「ここは昔ながらの食料庫ですね。コスモス等にデータとして物を入れておけるようになる前からあり、現在もこうして使われています。僕としてはデータ化してしまっておけば便利だと思うのですが、まあ昔からの慣習だと言うこともあり、調理のこだわりとして未だ使われています。」

 あらゆる科学技術などが進歩しても人はその最先端のみを追いかけることをよしとするのは少ない。

 結果大昔の環境や技術がそのまま保存される事も少なくはない。

 結果最新技術と伝統部分が歪にまたは溶け込む形でまざりあってそこにあるのはよくあることだ。

 少し違うがアカリ自身も身に憶えがある。

 アカリの大きめの腕輪型コスモスはもはや型落ち品で旧式とも言える品だが愛着があってなかなか変える気はおきない。

 だが使う武器や服それにコスモスに入れておくアプリケーションは最新の物を常に揃えたい衝動にかられる。

 もちろん要予算相談だが。

 個人レベルでもそうなのだから大きな団体や社会になるとそれらも、大きく現れてくるのは仕方ないことなのかもしれないなとアカリは考えにふけった。

 オーヤは追加の説明をつらつらと話アンドは話を理解しているようなしていないようなだが必死にかじりつくように耳を傾けていた。

 この階はどこまでも肉が広がるばかりでさすが肉食派宗教らしい光景になっている。

 この塔全員の人数分の肉を保存するにはこのぐらいは必要なんだとか。

 さらに今夜は集会で一般人も消費するため下手すると一階分の食料がその日に消化されるらしい。

 調理係に任命されたものは担当の曜日が集会の日と被ると悲惨なのだと実体験を交えて語ってくれた。


 そんな調理場のある10階。

 移動をしてきたアカリたちを刺激したのは腹が空くような香り良い油と香辛料のにおいだった。

 10階は調理場と塔の中に住む人間たちの食事場だ。

 食堂側へとワープ装置はつながっていてお昼時の今は塔の中の人間でごったがえしていた。

 今までのところに人がほぼいなかったのはどうやら全員ここに集まっていたからなようだ。

 そして食事を受け取るカウンターの先。

 キッチンというよりかは本格的な厨房という雰囲気のそこには数人が目まぐるしく働いていた。

「調理係は一人の料理長とその日その日入れ替わりで塔の中の人間たちが行います。なので塔の人間は一通りの肉料理が作れることは先ほどの階で話しましたね。」

 さっきはアカリは話半分で聞いていたが一応うなずいておいた。

「とりあえず厨房の中を見てみてください。料理長が誰かおそらく一発でわかると思いますよ!」

 邪魔にならないように気をつけながらカウンターの向こう側を覗いてみる。

 中は一言で表すなら戦場だった。

 自動化や機械化されて人の手が加わる事はある程度少ないはずなのだが掛け声と人と機械のたてる物音。

 慌ただしく動く狼族の調理係たちは明らかに素人であるのははたからみてももたついたりしているのでよくわかる。

 具材カットマシンの適切な選択に手間取ったり焼き上がってマシンが加熱をやめているのになかなか取りにきていなかったり。

 機械ひとつとってみても個人により扱える度合いが違うのは目に見えてわかった。

 そしてその中の1人に明らかに狼族でも素人でもいない者がいた。

 その1人だけで他の素人5人10人分手際よく動いている。

 小さな背丈に縦に長い帽子。

 ブロンズと黒の混じった毛並みは顔からも体からもスラリと伸びて地面に付きそうなほど長い。

 確かヨークシャーテリアという犬種の血筋はそのような体つきになると聞いていた。

 その彼女は大柄な男たちに的確に指示を出し自身も料理を作っている。

 そして度々吠えるような怒号。

「火でもはきそうなくらいすごいハクリョクです……」

 そんな彼女は古い型の鉄鍋を持ち材料と油を放り込んだ。

 ぼうっ!

 彼女の口から炎が飛び出て鉄鍋を焦がす勢いで熱しだした。

「そう、彼女が料理長。本当に口から火が飛び出ますよ。」

 本当に出るとは……とアンドたちは衝撃のあまり曖昧に返事してしまった。

 料理長は炎のラルコンを得意としているそうだ。

「さあ、僕達も食事にしましょう。塔内の食事は実質無料なのでアカリさんとアンドさんも気にせずどうぞ。」

 そう言って手のひらを盆皿の方へとさし向ける。

 促されるままアカリたちは好意に甘えることにして盆皿を手にとった。

 木目が描かれたプラスチックでできているようだ。

 配給システムは単純で空中ウインドウ画面に表示されているメニュー一覧から欲しい料理を選んで画面をタッチすれば番号が盆皿に表示され一旦カウンターに盆を置きに行く。


 選択情報が厨房に届き番号通りに作られ盆に乗せられるのでそれを取ってから机に戻る仕組みだ。

 早速メニューを確認する。

「Aランチセット.Bランチセット、リョウリチョーのきまぐれ、うちゅううしのステーキ、こドラゴンヒツジのソテー……」

 アンドが順に読み上げていくが絵のない料理長のきまぐれ以外すべてこれでもかと肉づくしの料理が揃っている。

 とは言っても付け合せ程度に盛られていたりランチなどは小さなパンも付くらしい。

 さらに肉は肉でも魚肉や変わった虫肉のものもあってラインナップは豊富だ。

 見ているだけで胃もたれしてしまうまえにアカリたちは注文を済ませ盆を届ける。

「おや、新入りかい!?若い子なんて珍しいじゃないの!」

 料理長が調理の手を止めず叫ぶようにこちらにたずねてきた。

 元気でハツラツとした声でかつ若干歳の入った少しにごった声でまさに強そうなおばちゃんだ。

「いや。ちょっとオーヤに連れられて来ただけで入信とかじゃあ……」

「ええ!!もしかして思ったけれど!オーヤちゃんが女のコ連れてくるなんて!」

 アカリが言い切る前に被せるように料理長が声をとばした。

 厨房中に響き渡る声は当然否応なく働いていた料理係たちにも聴こえる。

 ざわりざわり。

 オーヤ様の彼女?とかガールハントしてきたの?とか子連れ?とかまで聴こえてくる。

 料理長が「手が止まってるよ!」と一喝したら収まったが話の種をまいた本人はけろりと話を続ける。

「それで、どうなの?どこまで行ったの?」

 アンドはよくわからずアカリとオーヤの顔を交互に見ている。

 アカリは自分の顔が熱くなっていくのを感じていた。

 他人の話なら良いが自分がそう見られるのはなかなか耐えにくいものだとアカリは思った。

「いや、だから別にそういう仲じゃあ……」

「料理長、彼女困ってるじゃないですか。駄目ですよ初対面でそんなにいじめちゃあ。」

 今度はオーヤがアカリの言葉に被せた。

 ただし擁護のためだが。

 オーヤはアカリとは対照的にすずしい顔をして対処する。

 彼にとっては料理長の相手は日常なんだろう。

「アラアラ、ごめんねついクセで!アハハハハ!!」

 豪快に笑い飛ばす料理長は顔は上向きで手元なんて見ていないのに一切手元が狂うことなく調理し続けている。

 恐ろしく器用だ。

 オーヤが適当に料理長の話の相手をしアンドは横でよくは分からないが笑ってる間に頼んだ料理が出てきた。

 盆皿に乗った料理を回収して話を終え机へと運んだ。

 座椅子は机の側面をタッチすると自動的にその人の種族にあった椅子が光で出来た軌跡によって作られる。

 ただの光ではなく触ると少し柔らかい感触の椅子が出来ていて苦なく座ることが出来た。

 アンドの椅子は子供用に高く転落防止柵もちゃんとついている。

 食事はアカリがBセットでアンドがAセットにオーヤが料理長の気まぐれを頼んでいてそれぞれほぼ肉料理だが細かい内容は異なる。

 アカリのは鶏肉をメインに据えた他に比べると野菜が多い食材だ。

 香辛料も植物由来のがあるらしく祈るべき神一覧表がなかなか長い。

 アンドのは王道に豚肉がたくさん使われていて緑らしい色はほぼない。

 オーヤは今日の気まぐれは魚は魚でもぬるりとした長い体を持つような魚が選ばれたらしくその体は見事に捌かれていて蒲焼きになっていてすっかり原型はない。

 さあ早速食べよう。

 とした時に周囲の視線。

 それもそうだ。

 オーヤ自身がただでさえなんだか目立つ「オーヤ様」呼ばわりの人間にも関わらずそれにつきそって見知らぬ若い半裸の女と厚着の子どもがいるのだ。

 さらに先ほどの料理長騒ぎ。

 目立たないはずがなかった。

 何か向こうから言ってくることはなくひそひそとそれぞれのグループで話しているだけだが全体的に悪意がある内容ではなさそうだ。

 それどころか。

「あの娘?オーヤ様のカノジョって。」

「やべー、子連れハントかこのご時世に珍しい若い人間同士惹かれ合うのかな。」

「なんであんな寒そうな格好なんだ?オーヤ様の趣味か?」

「むしろ子どもが厚すぎでしょ、ここ室内よ。」

「結婚式はいつかなー。」

 ……なんだか多大な誤解が広がっているようだとアカリは肉で反論しそうな口を抑えつつ聞き流した。

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