オーヤ 激走の一日
さて今回の要求に何を返そうかとアカリは考える。
相手の好物と話してきた内容を組み合わせて考える必要がある。
ヘビなので好物は肉などだろう。
ただ相手は水の中に潜み水に棲む生態でなおかつ今回は辛いものを指定されている。
そして悩んだ末一度上に戻って買い物し直ぐに地下に戻って渡した。
激辛エキス漬け1メートルサイズ魚丸ごとだ。
魚の名前はよく知らないがまるまると太く大きい。
渡した時はヘビはあからさまに怯んだ。
理由はわかる。
とんでもなく辛いにおいがプンプンする。
ためらいつつもひとなめしてから一気にくらいつき丸飲みにした。
細身の体より幅が大きいものをアゴを大きくあけて飲み込むのはまさにヘビらしい。
「刺激 頭脳 覚醒ス 呼ブ 頭」
まだ消化途中で魚の形がミズヘビの一部に見える。
満足そうに《いやーマジやパネェ刺激!辛さ!!すっかり頭ピーカン!!!俺っちの頭脳がさえ渡り何かヤバげな力も覚醒……いやこれ身体の中が辛すぎてめっちゃ熱いだけだーッ!!さあ早速燃え上がる頭の中から必要な話呼び出しちゃうよー?》と言ってるようだ。
早速話を聞いて次の場所へと足を運んだ。
慣れない香辛料にあとで胃が大荒れしても恨むなよ、と思いながら。
確実に追いつめているらしいがかなり用意周到らしくまだ追いつかない。
ミズヘビに聞いた通りの所に来たら警察とこの国の一般人がいた。
話を聞いてみると車が一台盗られたらしい。
このご時世車が盗まれるのはかなり珍しい。
盗った相手はほとんど絞れる。
警察には追加で誘拐の件を通報しておきそのまま署まできてもらって話を聞くという所で早めに逃げるように離れる。
アカリは警察は信頼していないわけではないが国によるうえ署でいつまでも話すためにつかまっているわけにはいかないからだ。
車を使ったということは空路を通った可能性が高いということ。
そうすると上空に飛んでいるような野生種鳥をつかまえ話を聞いて貰う必要がある。
幸い空に一羽かなり大きい野生種鳥が飛んでいる。
降りてきてもらうために今度は別の野生種と話す事にした。
今度は綿毛猫に話を聞く事にした。
全身が綿毛のようにふわふわで風に乗り寝ながら自由に低空を移動し続けるかわいらしい猫だ。
野生種のにおいを追っていって針葉樹の上に引っかかるように寝ている所を見つけた。
「ネム」
《眠い》
一蹴である。
緊急事態だと騒いでやっと話を聞いてくれた。
蛇の道は蛇、野生種の事は野生種に聞くのが一番ではあるがこういう欲求がほっとかれる事のタイプはかなり面倒だ。
「アーラス 降リル 条件アリ 交換 人間 シング ネム」
アーラスというのはどうやら上で飛んでる鳥の名前らしい。
そしてさらにやっかいな事に今度はどうやら食べ物の事ではないらしい。
言葉として直すなら《あの鳥、アーラスくんをこっちへ降りてきて貰うにはねー、条件があるのよー。もちろん教えても良いけどでも交換しましょうー?寝具っていうやつ?人間の眠る道具ってのも使ってみたいのよねー。ふああー、眠いから持ってきたら起こしてねぇ。にゃあ。》という感じだろう。
寝具と言えばベッドや枕だが風のゆくまま流されるこの猫にそういう物を利用できるのだろうか。
そこを考えるとあまり大きな物は邪魔だろう。
それらを考えつつアカリは街中へと脚を運んだ。
街で買い物を済ませもとの場所に戻ると既に同じ場所にいなかったため探し回るはめになったがなんとかつむじ風に巻き込まれているところを見つけ渡した。
探せばあるもので空飛ぶ毛布子供サイズだ。
なめらかな肌触りとなぜか低空を飛べる不思議な布で上に乗った者と連動して動いてズレ落ちないようにしてあるハイテクさもある。
値段もそれ相応したが。
「心地良キ マドロム 太陽 空 呼ぶ アーラス」
どうやら気に入ってくれたらしい。
……毛布の入っていた箱を含め。
《みゃあ~、気持ちいい箱とついでに毛布!太陽のにおい!ついつい眠っちゃいそう。寝ちゃう前にお空に飛んでるアーラスくんを呼ぶ方法教えるわねぇ。みゃあ!》ということらしいがなぜか箱の方を気に入ってる気がするのをアカリは気づかないふりをした。
支払った金額的な問題で自身を納得させるために。
アーラスと呼ばれる大きな鳥を呼び寄せるには特定の楽器で特定の音を響かせることだった。
そしてそれを歌として認識した状態でアーラスを呼ぶ意思をこめて奏でる事でアーラスに直接音が届き呼ぶことができるらしい。
儀式めいているが自然が関わるラルコンではこのような自然とのやりとりを行う事もあるというのをアカリは聞いたことがあった。
実際に儀式のようなラルコンを身に付けるのは初めてだが。
使う道具はホイッスル。
それも高音域が出せていくつも音を笛のように切り替えれるタイプ。
人によっては全く聞こえないような音を出す笛だがアカリには聞こえる。
聞こえなかったら音を確認しながら出せないため歌が成立しないらしく運がよかったとしか言えない。
猫が教えてくれた音を便りに笛を吹く。
最初は三つの音を二回。
次に続けて4つの音。
これで呼び出すためのキーとなる。
歌の名は大翼の歌。
歌の音と歌の名前それに呼び出す相手の名前。
それらが成立したことで吹いた時アカリは奇妙な感覚を覚えた。
全身が空を自在に舞うような空気に乗る感覚。
ラルコンの成立を意味していた。
空を見るとみるみる鳥の影が濃く大きくなって行き広めの空き地で呼んだもののそこすら覆い尽くすような影が広がっていく。
その影に飲み込まれながらアカリは綿毛猫の言っていた事を思い出していた。
《アーラスくんはね、知り合い以外に呼ばれるとスッゴクご機嫌ナナメになるからね、さすがに町中でドンパチしないだろうけど覚悟はしてね!ふぁいとぉ~よ!》
アカリはすぐに“先祖がえり”を使って獣化した。
すぐに心の会話をしようとその大きすぎるワシを見ると詳しく見なくてもすぐに分かった。
ジロリとした目がこちらを見据え怒りに満ちていたからだ。
うわっ!と思いつつさっと後ろに飛び退いた。
直後先程いた場所にアーラスの脚が鋭く踏み込まれた。
ちっ、と人間で言うところの舌打ちをアーラスはして今度はゆっくりと着地した。
あの綿毛猫め、何がドンパチしないだいきなり殺す気で来たじゃないか!
そんなアカリの心の内を読み取るかのようにアーラスがギョロリとアカリを睨んだ。
「猫 ヨシ 用件 述ベヨ」
攻撃意志は消えたが相変わらず敵意丸出しのままだ。
《綿毛猫の奴か……まあ良い、ヤツは後で話をつけるとして、お前の用件はなんだ。呼んだからにはそれなりに用があるんだろうな?》と言う感じで話している。
かなりイラついて高圧的な態度だ。
怒らせると余計にややこしくなる可能性を踏まえつつアカリは慎重に用件を伝えた。
「愚カ 一興 努力 ツトメヨ 我ヨリ ハヤク 道 辿レ」
空にいるであろうウォード団の発見とそこまで連れていってもらう事を要求し三人の顔も見せた。
記憶をプリントアウトするコスモスのアプリケーションを使って元々用意しておいたものだ。
そしてその反応は《くだらん、が、わざわざ俺を呼び出してまで頼む事をただ断るのもつまらんな。少し面白い事をするか。早く特定の道筋を通って俺より早くゴールまでたどり着けたら言うこと何でも聞いてやるよ。まあ頑張りまくればお前でも勝てるかもなあ。》とかなり厄介でかつ勝ち前提の態度が非常に鼻につくものだった。
体格差は軽く丸のみできそうなほどにありさらに空も飛べるという所から出てる自信だ。
そんな相手だろうと言うことを聞いてもらうには相手に乗るしかない。
口答えしたいのを我慢して詳しく話を聞くとコースは街を半周しつつ街中央あたりにある黒の塔を目指すというものだった。
飛行のしづらい大きな下水道内の部分や駆けにくい上下差の大きい屋根づたいを半々に渡っていくコースだ。
人が多い地域は事前に避けられ思ったよりきちんと考えられているようだ。
それだけにこの大ワシが知り尽くしているということだろうが話に乗らない選択肢はなかった。
「準備セヨ」
《さあ、レースの準備だ!》
人通りのほぼない住宅街外側の大通りにアカリと大ワシはいた。
正確には計ってないが十数キロある道のりには何ヵ所もチェックポイントがあり赤く塗られたその壁に爪の刻みを入れることでズルを防ぐ手立てだ。
管理は綿毛猫が集めた協力者である街に棲む野生種たちが行いわりと本格的に行われる。
そして最初のスタート合図はその綿毛猫によって行われる事になった。
緊張感の高まっていくアカリと余裕の表情を見せるアーラス。
そしていまいち緩い綿毛猫が声をかける。
「にゃー」
《いちについてー、よーい……》
ぐっと前足後ろ足に力を込める。
「ニャ!」
《ドン!》
ふたりとも一斉に駆け出す。
初速はアカリの方が早い。
そのまま角を曲がって裏通りへ。
上へと足場を使って飛び上がりさらに高く天井まで。
見えないが透明なつるつるとした板のようなバリアが張られていて踏んでも平気なようだ。
このタイミングで空の風に乗ったアーラスが飛んでアカリを抜き去る。
負けじと食らいついて平行しつつ第1チェックポイントへ。
わずかにアーラスの方が早く爪でひっかきその後にアカリ。
第2チェックポイントでは途中までアーラスが意外にも歩かなくては通れない所も軽快に駆けていたが脚を活かせるアカリがわずかに追い抜く。
直後アカリごと爪で切り裂こうとアーラスがしたように見えたが本人は故意ではないと主張した。
腹を立てたアカリが第3チェックポイントで続く地下で天井が高くなった場所でこまめに飛んで速度を上げるアーラスが先についたがアカリが背後から体当たりして吹き飛ばしアカリが先に爪をつけた。
こうなればもう火をみるより明らかだ。
長い長い過程を得て二匹はついにゴール付近へ。
黒い塔付近の上に建物を繋ぐ橋がかかったその下。
先回りしていた綿毛猫がその二匹を見て一言つぶやいた。
《なんで流血沙汰になってるのん?》
レースの最中で激しすぎる戦いがあったであろう跡がふたりの身体に刻まれている。
飛び散る赤い液体は流れ出る汗の代わりのように。
吠え声はゴール前の歓声の代わりに。
頭をぶつけあった後に互いに離れ直線で加速する。
地面に引かれた線にまで互いに負けじと速度を上げ、走り、飛び、その線に頭をねじ込む。
勢いよく地面へと倒れるふたり。
乱れきったふたりの息が響くなか判定が行われた。
判定場所は鼻先。
綿毛猫はのんびりしていても動体視力には自信がある。
脳内写真判定をし決定的瞬間をとらえた映像を脳内で見つけた。
《勝者は……》
猫の言葉にふたりは反応する。
無我夢中の世界から引き戻され勝者は身体を起こそうとする。
ふたりは感覚でどちらが勝ったのか理解していたからだ。
《アカリ!》
アカリはふらつく身体を抑え立ち上がって叫んだ。
ちなみに勝利の雄叫びは図らずも近隣の住民たちを驚かせ後々この街の七不思議のひとつ[塔の近くの影の中には化物がいて近づいた人間に突如この世のものと思えない叫びを浴びせて驚かせてくる]というものになったそうだ。
その後はわりと素直に敗けを認めたアーラスが空へとアカリを連れていってくれた。
レース途中すでに見つけてはいたらしくアカリをつれて追跡し上空へ。
事前の打ち合わせ通り上空から車付近へ落としてもらった。
普通上空からおちたら無事では住まないがアカリは偶然高所から落ちても平気な靴を履いていた。
見た目は普通の靴でも高所から落ちてもそれによる運動エネルギーをすべて別エネルギーへと変換し身体に負担を駆けさせない靴だ。
その運動エネルギーは靴裏へと破壊エネルギーに変換されつつたまっていき本人にはまったくダメージなく着地点だけ破壊エネルギー分吹き飛ばす。
これを利用して危険なセイメイを撃退するわけだが今回はウォード団への奇襲へと使われたわけだ。
そしてアカリが常々感じていたアーラス自体の謎をまとめるとこうだ。
まず種族名ではない名前があること。
考え付く事が獣というよりかは人に近いこと。
凝ったレースごっこなんてまさにそれだ。
そしてアーラスが人間の道具をつかって呼び出せること。
野生種は人にはほとんど飼い慣らせないはずで特にアーラスは少し会話しただけでもプライドの高さがわかる。
それなのにまるで行動の一つ一つが人間に飼われているようだった。
あんな巨大な鳥を一般人が飼おうとする気すらないだろうからよほどの変人かつ強力な力の持ち主だろう。
その疑問は仮定をつけ疑問のままアカリの中しまいこんで。
そんな今日合流するまでの回想をアンドと交わしつつ家で残りの準備を行う。
そうアンドの誕生日会だ。
準備が終わってアンドは机の前に座りアカリは照明を落とす。
昔ながらだがアカリはこの方が好きだ。
ロウソクに疑似炎をポチりとスイッチを押し灯す。
揺らめく炎はほんのりとあたたかい。
一つ点った火に吸い込まれそうな魅力を感じる。
「フッて息を吹き掛けて消すんだ。」
アカリがアンドにそう促す。
火が照らす暗闇の中に映るのはアカリとアンドの顔と台座である小さな白いケーキのみ。
アンドがすうっと息を吸い込んでから息を吹き掛ける。
ゆらっと火が揺れ小さくなる。
……が、消えずまた火は元に戻ってしまった。
「大丈夫、次は消せる!」
アカリがそう声をかけると今度はさらに強く息を吸い込む。
そしてフッと強く吹く。
たちまち火は消えて暗闇に包まれた瞬間部屋の明かりがついて一気に明るくなる。
同時に四方八方から軽い破裂音。 カラフルなテープと紙吹雪が舞いアンドを祝福していた。
「はじめての誕生日おめでとう!アンド!」
少しアンドは驚いたがすぐに笑顔になる。
「キュキューイ!!」
そしてアカリはコスモスから包装された箱を出しアンドに差し出した。
アンドが不思議そうにして受けとる。
ずいぶん小さく軽いものの用だ。
「アンドの欲しかったものの他にもう一つ私からプレゼント。武器しか上げられないのも何だかなって思ってね。」
アカリの許可をとってからアンドは包装紙を破り箱を開ける。
「キュー!きれいです!」
中には大きめの真珠が入っていた。
白くて丸い真珠もアンドにとってははじめて見たものだった。
特に飾るためのなにかがあるわけではなく単体で真珠が入っていて「自由にしていいよ」とアカリは言った。
すぐにどうこうは思い付かないのでアンドは自分のコスモスに大事にしまった。
「色々とありがとうございますなのです!アカリ!」
気分良く二人はその後も誕生日会を楽しみケーキに舌鼓を打った。
真珠に込めたアカリの気持ちはアカリからは伝えないまま。
真珠の石言葉、意味は……
夜は一見静かに見えてもその内で騒ぐ人々は少なくない。
アカリたちもそのひとつだが別の場所でもまたひとつ。
黒い塔の中にある巨大すぎる鳥籠。
その中にいるおぞましいほど巨大でかつ獰猛な大ワシの顔を撫でる人間。
彼らもまたこの夜に騒いでいた。
物理的に表に出して騒ぐのではなく心の内側で。
「今日は機嫌が悪いねアーラス。」
そう呼ばれた大ワシは撫でられるために下げてた顔を起こしけたたましくグァグァグァグァと鳴いた。
飼い主の預かりしらぬところで飼い主以外に負けてしまった事が彼の穏やかではない心中だった。
「けど僕は機嫌が良いんだ。だから、分かち合おう!」
その飼い主である人間は左右違う色の目を閉じすっと腕をアーラスへ向けた。
ふたりの中に通じる不思議なものを感じるために。
目には見えないそれを介して会話するかのように。
ふたりの間に風が通り抜けた気がした。
まだ続きますがまた少しお待ちください




