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11-10 弱き人間

 ガブリイルが襲われている間に、オットーは逃げる隙を得た。


 肩を庇いながら、生産ラインから駆け出す。背後から無数の鳴き声が追いかけてきた。


 何なんだよ、これ……!?まさか、これが「暴走」!?


 再び廊下に出ると、吹き抜けになっている頭上から、上階の様々な鳴き声や爆発音が聞こえてきた。どうやら、あちこちで同じことが起きているらしい。


 化け物たちの足は早く、もうオットーのすぐ後ろまで追いついてきていた。


 走れ!とにかくできる限り走って……!


 ……だが、走って逃げたところで、いったい誰に助けを求めればいいのだろうか。


 施設から逃げたところで、政府軍には勝てない。この先に、もう希望なんて――


 そんなオットーの不安が呼び込んだかのように、彼の正面に巨大な白い鳥人間が現れる――完全な、挟み撃ち。


 ……ああっ、なんだよもう…………みんな、こうやって死ぬのか。


 デイビッドも、ガブリイルも、エリック達も、みんな同じように――願いなんて果たせないまま、ただ無意味に死んでいく。


 オットーは観念して、足を止めた……目の前に、両手のかぎづめを開いた白い鳥が、迫ってくる。


 オットーは目を閉じた。


 すさまじい風と共に、体がさらわれるのを感じる…………。


 ……あれ、痛く、無い?


 恐る恐る目を開けると、オットーは鳥人間に抱きかかえられ、空を飛んでいるところだった。 

 眼下には、獲物を取り逃して怒り狂う化け物たちが群れている。


 こいつ、どういうつもりだ……?


 オットーは鳥人間の顔を見た――その毛でおおわれた顔には、見覚えのある傷跡がある。


「もしかして…………ハンナか?」



**************************************



 コハルは右に左に身をくねらせながら、ネールの電気鞭を避ける。当たったら行動を封じられてしまうことは、本能的にわかっていた。

 エリーがネールの後方からスライムの破片を投げるが、ネールはまるで背中に目が付いているかのように、それらを鞭で弾きながらコハルへの攻撃を続行する。


 コハルは接近するのをあきらめたのか、後方に引いて無数の火の玉を撃つ。


「無駄ですよ……!」


 ネールは火の玉をすべて、一振りの鞭で切り裂く。空中で火の玉が爆ぜ、黒煙が辺りを満たす。

 ネールはそれを鞭で払いながら、コハルの方に駆け寄る――だが、煙の向こうに彼女はいない。


 逃げた……?いや、まさか……!


 ネールは背後を仰ぎ見る。桃色の怪物はその体躯を大きくひねりながら、上空を舞っていた――それはかつて人間の形だった頃に覚えた、走り高跳びと同じ動き。


 鞭の軌道から外れたネールの頭頂部に、火の雨が降り注がれる。


「っ~~……!!!」


 ネールは常人離れした体さばきで火の玉を避けながら、強引に鞭の軌道を変えて防御も行う。そしてそのまま、着地したコハルを狙う。


 コハルも鞭をぎりぎりでかわし、再び同じように宙を舞って鞭を避ける。


 同じ手に二度かからないよう、ネールはコハルの進路を次々と阻んでいく。


 ……待て。エリーはどこに行った?


 そう気づいた時にはもう、ネールの両足は水色のスライムに覆われていた。


 しまったっ……!上に注意をひかれている内にっ!


 ネールはまさか、こんな見てくれの怪物たちに、知性があるとは思っていなかった。その上、彼は気づいていないが、今のドール達は互いにテレパシーで交信していたのだ。


 ネールの脚が、激痛と共に溶けていく。


「ああああぁぁっ……!!クソッ、化け物共がぁっ――」


 更に胴体にも、コハルが放った火球が命中した。



 ……………………倒れ伏したネールの上に、のそのそとコハルが覆いかぶさってくる。


 仮面が割れたネールは、彼女と直に目と目を合わせた。


 その黒い大きな瞳からは、人間の表情は読み取れない。だが、明らかに一種の冷淡さを帯びていた。


「……自分たちに、未来があるとでも、思うのか……?誰も、化け物のことなど愛してはくれないぞ……?ハハハッ……!」


 薄れゆく意識の中で、ネールは確かに返事を聞いた――




『――人間おまえたちの愛なんて、もう必要ない』、と。

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