11-10 弱き人間
ガブリイルが襲われている間に、オットーは逃げる隙を得た。
肩を庇いながら、生産ラインから駆け出す。背後から無数の鳴き声が追いかけてきた。
何なんだよ、これ……!?まさか、これが「暴走」!?
再び廊下に出ると、吹き抜けになっている頭上から、上階の様々な鳴き声や爆発音が聞こえてきた。どうやら、あちこちで同じことが起きているらしい。
化け物たちの足は早く、もうオットーのすぐ後ろまで追いついてきていた。
走れ!とにかくできる限り走って……!
……だが、走って逃げたところで、いったい誰に助けを求めればいいのだろうか。
施設から逃げたところで、政府軍には勝てない。この先に、もう希望なんて――
そんなオットーの不安が呼び込んだかのように、彼の正面に巨大な白い鳥人間が現れる――完全な、挟み撃ち。
……ああっ、なんだよもう…………みんな、こうやって死ぬのか。
デイビッドも、ガブリイルも、エリック達も、みんな同じように――願いなんて果たせないまま、ただ無意味に死んでいく。
オットーは観念して、足を止めた……目の前に、両手のかぎづめを開いた白い鳥が、迫ってくる。
オットーは目を閉じた。
すさまじい風と共に、体がさらわれるのを感じる…………。
……あれ、痛く、無い?
恐る恐る目を開けると、オットーは鳥人間に抱きかかえられ、空を飛んでいるところだった。
眼下には、獲物を取り逃して怒り狂う化け物たちが群れている。
こいつ、どういうつもりだ……?
オットーは鳥人間の顔を見た――その毛でおおわれた顔には、見覚えのある傷跡がある。
「もしかして…………ハンナか?」
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コハルは右に左に身をくねらせながら、ネールの電気鞭を避ける。当たったら行動を封じられてしまうことは、本能的にわかっていた。
エリーがネールの後方からスライムの破片を投げるが、ネールはまるで背中に目が付いているかのように、それらを鞭で弾きながらコハルへの攻撃を続行する。
コハルは接近するのをあきらめたのか、後方に引いて無数の火の玉を撃つ。
「無駄ですよ……!」
ネールは火の玉をすべて、一振りの鞭で切り裂く。空中で火の玉が爆ぜ、黒煙が辺りを満たす。
ネールはそれを鞭で払いながら、コハルの方に駆け寄る――だが、煙の向こうに彼女はいない。
逃げた……?いや、まさか……!
ネールは背後を仰ぎ見る。桃色の怪物はその体躯を大きくひねりながら、上空を舞っていた――それはかつて人間の形だった頃に覚えた、走り高跳びと同じ動き。
鞭の軌道から外れたネールの頭頂部に、火の雨が降り注がれる。
「っ~~……!!!」
ネールは常人離れした体さばきで火の玉を避けながら、強引に鞭の軌道を変えて防御も行う。そしてそのまま、着地したコハルを狙う。
コハルも鞭をぎりぎりでかわし、再び同じように宙を舞って鞭を避ける。
同じ手に二度かからないよう、ネールはコハルの進路を次々と阻んでいく。
……待て。エリーはどこに行った?
そう気づいた時にはもう、ネールの両足は水色のスライムに覆われていた。
しまったっ……!上に注意をひかれている内にっ!
ネールはまさか、こんな見てくれの怪物たちに、知性があるとは思っていなかった。その上、彼は気づいていないが、今のドール達は互いにテレパシーで交信していたのだ。
ネールの脚が、激痛と共に溶けていく。
「ああああぁぁっ……!!クソッ、化け物共がぁっ――」
更に胴体にも、コハルが放った火球が命中した。
……………………倒れ伏したネールの上に、のそのそとコハルが覆いかぶさってくる。
仮面が割れたネールは、彼女と直に目と目を合わせた。
その黒い大きな瞳からは、人間の表情は読み取れない。だが、明らかに一種の冷淡さを帯びていた。
「……自分たちに、未来があるとでも、思うのか……?誰も、化け物のことなど愛してはくれないぞ……?ハハハッ……!」
薄れゆく意識の中で、ネールは確かに返事を聞いた――
『――人間の愛なんて、もう必要ない』、と。




