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開花
夏。蝉の合唱で起こされ、うだるような暑さをエアコンでかわしながら寝る、そんな季節急に暑くなりすぎやしないかと思いつつ私は鼻の頭に浮かんだ汗を仕切りに服の袖でぬぐって、ぼんやりと木の天井を見つめていた。
「…どこだここ」
目覚めたばかりの怠い体を布団からゆっくり起こす。何回か欠伸を繰り返すうちに意識がはっきりしてきて、ようやく思いあたる。ここは私たちの新居だ。某県の某山の麓、車を使えばスーパーや駅はあるのでそこまで田舎というわけでもない、住みやすい場所を選んだのだ。しかし、なんだろうか。なにか忘れてるような気がしなくもない。うーんと首をひねっていると、急にすーっと襖が開いた。襖を開けた主は、最近彼女から婚約者とジョブチェンジを果たした沙羅。彼女も起きたばかりなのか、なかなか芸術的な寝癖がついている。心の中で十点、とつぶやく。
「おはよう」
次の瞬間。彼女は凍りついた。ピシッと音が聞こえてきそうなほど綺麗に固まったのである。そしてわなわなと身体を震わせて叫んだ。
「ぎゃああああ」
我が婚約者ながら素晴らしい音量である。開けた襖をそのまますぱーんと閉め、ばたばたと奥へ逃げてしまった。驚いたのか、蝉の合唱は止んでしまった。




