31.処刑場まで全力で走って、そのままの勢いでぶん殴る。
◇処刑場まで全力で走って、そのままの勢いでぶん殴る。
ビステッカのぶちかましで、ただの木片になった牢の格子が足元に散らばってる。
こう、何度か体当たりして、ミシミシミシ、って感じで壊れるのかと思ってた。
ただの一撃で、吹き飛んだ。
……熊か、お前は?
「ちょっと、アタシが処刑されるってどういうこと?」
「そのまんまの意味だよ。コンフィの策略なんだ。お前を脱獄犯に仕立てて、処刑する」
「え? 脱獄……しちゃったけど?」
「それはこっちの計画だからいいんだ。ビステッカが、何も知らないまま中央広場まで行っちゃうのが問題だったからな」
それにしても……ここまで派手に牢屋をぶち壊したのに、誰も降りてこない。警備が手薄なのは想定してたけど、もぬけの殻か……ってことは、コンフィの戦力は全部中央広場だな。
「全然わからないわ……大体、アナタが来なかったら脱獄してないわよ?」
「ん? 何言ってんだ。実演したじゃねーか」
「え……?」
「俺だって嫌だったんだぞ、ツキシオが大怪我した、とか嘘つくの。でもあれがコンフィの私兵でも、お前は脱獄しただろ。ツキシオの護衛なんだし、看守もいないんだぞ?」
「ああ……したわね」
ビステッカのこういう性格すらも利用してるコンフィには、マジでムカっ腹が立つ。
ビステッカへの怒りがすっきりしたもんで、余計にだ。
ぶん殴ってやりたい。
これから行くんだがな!
「とりあえず、上に行こう。ツキシオとタルトが待ってるから」
「え? 二人も来てるの?」
「別行動だけどな。俺一人で乗り込むのは、どうしても許可が下りなかったんだよ……」
まぁ、ツキシオの支援もないと、俺一人じゃ裏から潜入も無理だったしな。
そのままビステッカを連れて、地上階へ。
地上階の出口には、なぜかビステッカの鎧を着こんだツキシオが待ち構えていた。
盾と剣はタルトが持ってる。
……新鮮な絵面ですね?
「お、ちゃんとビステッカさん連れてきたわね! 迷わなかった?」
「ツキシオが残してくれた暗号のおかげでな。装備回収、ありがとう」
「シオンちゃん、タルトちゃん!」
「おかえりなさい、ビステッカ隊長。重いです」
「ビステッカさん、おかえり!」
「ツキシオ……シーフ装備の上からその鎧着られちゃったのか?」
「うん。デカいわ! こっちの方が運ぶのに楽だったの」
そのまま、ガシャガシャと銀鎧を脱いでいくツキシオ。
すごいな、本当に鎧の中からいつものツキシオが出てきた。
「なんか、装備まで……ありがとうね、二人とも」
「ビステッカさんは、その鎧を着ていてこそ、ですから!」
「ああ……そうだな」
手慣れた動きでその鎧を着こんでいくビステッカ。
うん、やっぱり……ビステッカには、この銀が似合うな。
よし、これで……パーティーが揃った!
「そろそろ聞かせてちょうだい、リクトちゃん」
「ああ……説明することが多すぎるな。何から聞きたい?」
「そうね……とりあえずアタシは、なにしたらいいかしら?」
ふむ。それは……一番単純なやつだな。
「この屋敷の入口で、陽動のためにガレットがコンフィの私兵と揉めてる。とりあえずそいつら全員、ぶっ飛ばしてくれ」
◇
「ふぅ……はい、ぶっ飛ばしたわよ?」
お約束のようにパン、パン、と、埃でも落とすように両手を叩き合わせるビステッカ。
足元に、のびた私兵が八人。十人くらいは広場の方へ逃げた。
ビステッカは、帯剣したまま、拳で全員殴り飛ばした。
マスクが拳の形にめっこり凹んでるんだが?
……熊なんだな? お前。
「ビステッカ」
「う……ガレット……」
そしてその熊は、ガレットに睨まれると一回り小さくなった。
フロランタンの様子から、ガレットも元々知り合いっぽいな、とは思ってたけど……どういう関係なんだ?
「言いたいことは色々あります。が、ここはリクト様の顔を立てましょう。働きで返しなさい、ビステッカ」
「え、ええ……? リクトちゃんアナタ……ガレットに認められたの?!」
「え? いや、ガレットには助けられっぱなしだけど……」
なんせ、こっちの陣営の主力選手だからな。コンフィに狙われるわけだ。
さて……ここからだ。
何人か逃がしちゃったし、ここからはスピード勝負。
「とりあえずは、予定通りだな。ツキシオ、フロンを頼む。ガレット不在の穴はデカいはずだ」
「うん! 貴族たち、とっちめてくる!」
「タルト、ガレット。援護よろしく」
「はい」
「かしこまりました、リクト様」
まだいまいちついていけない、ビステッカに向き直る。
太陽に反射する、トレードマークの銀。
「ん? アタシは、どうしたらいい?」
堂々とした姿勢、うっすらと浮かんでいる強者の笑み。シンポジオに到着した時とは別人みたいで……そして、俺の知ってるビステッカだ。
残された最大の懸念点……コンフィの、謎の自信。世界樹との関係。
だが……うん。
打開策どころか、それはなんなのかも判明しなかった。
なら、あと俺に出来るのは……この男にオールベットだ。
「ビステッカ、ここから世界樹の塔に行くためには必ず中央広場を通るだろ? そこで、コンフィがお前を捕らえるために軍事練習をやってる」
「なるほど……それがコンフィのシナリオってわけ。で、そのシナリオの裏をかくのね?」
「いや……そのシナリオに乗る」
「え?」
時間が、足りなかった。
現在進行形で、まだコンフィの悪事の裏取りに走っている人がいる。集まった資料はまだハッタリみたいなもんだし、調査を続けるなら危険はつきまとう。逃げた私兵からコンフィに情報も入るし、広場にいるのは私兵じゃなくて軍隊だ。
先手を取らなければ、最悪は内戦になる。
でも、出来る準備はやった。賭けるものも賭けた。
勝負だ、コンフィ。
……くそ、足、笑ってる。
「リクト」
「……タルト?」
それ以上は何も言わず、ただタルトは俺の目を見ていた。
柔らかい眼差しで。
そうだ……怖がって、いい。震えたままでいい。
でも、足は止めねぇ!
「このまま、中央広場まで突っ走る! 先頭は頼んだ、ビステッカ!」
「……三日見ぬ剣は、昨日の剣にあらず、ねぇ。行くわ、リクトちゃん!」
◇
「来たぞ、ビステッカだ……! 止まれ! 止ま……え? ……え? うわー?!」
派手な音と共に、まず一人目の黒鎧がビステッカに轢かれた。
吹っ飛んだそいつは後続二人を巻き込み、そのまま動かなくなる。
……はい?
「バカね。アタシを止めたいならチャリオットでも持ってらっしゃいな。さ、行くわよ!」
「……除雪車か?」
予想通り、進路にはシンポジオ防衛軍が足止めに立ち塞がった。
立ち塞がるだけだが。ビステッカがまったく止まらない。
この街は、樹木の上に作られた構造上、基本的に道が狭い。
「数の利が、まったく活かせてませんね、防衛軍は」
「以前にビステッカが大暴れした時も、これが原因で止められませんでしたから」
徐々に、撤退を始める防衛軍。
だよな、広場で数の利を活かした方が有利だもんな。
好都合だ。
ビステッカの活躍もあり、中央広場にはすぐに到着した。
巨大樹木の枝に作られた区画から伸びた街道が、何本も集まり広場になっている宙に浮かんだ場所。
運動公園くらいの広さはあるその場所には、広場を囲うようにたくさんの飲食店も併設され、長年の増築改築を重ねられた床の隙間から新たな木々すら自生してる。
ここの住民の憩いの場であり、そして……今そこには、シンポジオ防衛軍が既に布陣していた。
奥に見えるイベント用ステージのような場所に、軍服の小柄なエルフ。
……コンフィ。
「大罪人、ビステッカよ! まさか牢を破壊し、脱獄するとは! だが、貴様の無法もここまでだ! 我らがシンポジオ防衛軍は、過ちは繰り返さぬ! 街を破壊し、国民を恐怖に陥れた……」
「タルト!」
「はい! ”ホワイト・アロー”!」
事前の打ち合わせ通り、タルトから放たれた無数の光弾が、シンポジオ防衛軍の盾兵に襲い掛かる。
出力を調整してもらったから、派手なのは音と光だけだけどな。
だが、機先は制した。ハトが豆鉄砲を食らったような顔で立ち尽くしているコンフィ。
無法者? 望むところだ。
俺が今一番ムカついてるのは、お前だ、コンフィ!
次話 策謀家の貴族VS異世界から来た営業




