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推しアイドルの握手会に参加したら推しアイドルごと異世界へ飛ばされました。異世界でも推しを推してたら、なんか世界を救いそうです! ~推しとラブコメ? それは解釈違い!~  作者: tada
第二章 森林都市シンポジオ編

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29.十年の蓄積

◇十年の蓄積


 タッタッタ、パタパタ。

 いくつもの足音が周りを取り囲む中、俺はもう一度自分で書いた図解を見直した。

 綻びを……探せ。


「リクト様、三日後のコンフィの行動予定がわかりました。中央広場にて定期軍事演習の予定が組まれています」


 ガレットが手渡したメモを、隣のタルトが受け取る。そうしている間にも、バタバタと走り回る足音。


「直近三年の裁判記録はこちらへ!」

「解読班、今の資料は終わりました! 次の資料ください!」

「これ、調査班の報告はここじゃ! ええい、狭い!」


 大量の侍女で埋め尽くされた第二資料室。

 不要な棚は全部撤去。運び込まれた作業机に、メイド服のエルフたちがかじりついている。その隙間を縫うように、資料を持って走り回るメイドエルフたち。


「なんか、部屋の匂いが変わりましたね……いい匂いに」

「言わないでくれ、タルト。意識しないようにしてんだ」

「……すけべ」

「つ、ツキシオ?!」

「う、そ、よ。もう少し肩の力を抜いて。頭、回らなくなるわよ?」

「お、おお……」


 正面に座ったツキシオが、ニッと意地悪く笑う。

 可愛い……いや、癒されてる場合じゃないだろ。

 もう一度だ、もう一度整理しよう。

 やることは二つだ。

 コンフィの悪事を調べ、言い逃れが出来ないくらい固めること。

 そして、ビステッカ処刑計画の全貌を掴むこと。

 出来ることは、仮定の立案、検証、調査、整合、記録、分析。その調査、整合、記録の部分を引き受けているのが、女王権限で動員された国中の侍女や文官たち。

 だが……まだ、時間も証拠も足りない。雑に証拠を消しました、という証拠をいくら集めたところで意味がない。

 考えろ。

 調査班には、コンフィ邸の貴族の出入りや、防衛軍がよく利用する酒場の聞き込みなど、いつコンフィと接触してもおかしくない調査に当たっている人もいる。思考を止めている余裕なんかない。


「リ、ク、ト! 眉間にシワ!」

「あ、ごめん」

「周りが不安になるのよ? ここは貴方のステージでしょ? 必死に足掻く姿は見せちゃだめ。ステージでは堂々とする!」

「ふふっ……要求がどんどん上がっていきますね、リクト」

「俺、ただの営業マンなんだけどなぁ……」

「あら? リクトは普段、商談の席でそんな顔してるの?」

「うっ……してない、です」


 ふぅ……ダメだな。二人が支えてくれないと、普段通りすら出来やしない。

 ん、待て……普段、通り? 商談?

 政治、軍隊……慣れない環境で、俺、ちょっと異世界に囚われ過ぎてないか?

 現実世界なら、悪巧みで一番足がつくのは……終わった事件や裁判の記録じゃないな。

 足がつくもの、本人にたどり着けるもの……金の流れだ!


「ガレット!」

「はい、ガレットでございます」

「この国は、銀行……えっと、通貨の出入りを記録している機関はあるか?」

「換金所が相当しますね」

「そこの記録、押さえられるか?」

「私の管轄です。ちょっと行ってぶん取って来ましょうか?」

「……はい?」


 なんで侍女長が銀行を管理してるんだ?


「コンフィも一部の貴族も仕事をしませんからね。フロランタン様は行政で手一杯ですので、国庫運営を含めた財政金融は私の管轄です」


 この国の経済、侍女長が回してるの? いや、助かるけど。

 ん?

 仕事、しないのか?


「ごめんガレット、もうひとつ。コンフィが仕事してないなら、ここは治安が良すぎないか? 警察……警邏隊はアイツの管轄なんだろ?」

「コンフィの下にも、まともに仕事をしてる人材はいますから。コンフィは権力の座に座って美女を侍らせて、思い通り好き勝手をしたいのですが、民衆からもチヤホヤされたいのです。警邏隊を腐らせたら、民衆は離れますから」


 矛盾、してる。

 まともな仕事を出来るやつがコンフィ陣営にもいるのに、しかも不正を取り締まる側なのに、コンフィに黙って従ってる?

 糸口……見えてきた!


「ガレット、金の流れを押さえたい。コンフィ自身じゃない、疑惑がかかってる貴族、近い商人、コンフィの側近、あとは警邏隊、防衛軍の上層部だ。警邏隊と防衛軍の上層部は、出来れば人の接触も」

「ふむ……コンフィ自身を探るよりは、危険は低いですね。解読班の一部を回しますか?」

「ごめん、適材はガレットの方が詳しい。ジャンジャンやってくれ」

「承知しました。ではジャンジャンいかせて頂きます」


 言うが早いか、颯爽とスカートを翻して去っていくガレット。

 頼もし過ぎる。こっちの陣営はガレットの存在がかなりデカいな。

 でもこれで……ビステッカの方に集中できる。


「フロランタン、こっち来れるか?」

「何度も言わせるでない、お主はフロンと呼べ! 今行く!」


 フロランタン……なんかもう、女王というよりパーティーの一員だ。

 だからこそ、頼らせて貰うが。


「ツキシオ、タルト。力を貸してくれ。コンフィの計画を暴くんだ」


 推しは視線で、タルトはミミで。

 無言の返答が、頼もしい。


◇


「まず、整理しよう。フロン、世界樹の方は?」

「依然として変わらずじゃ。どこかに少しずつ魔力が流れ出ておるが、どこから、がはっきりせぬ。樹木の魔力は長い年月で少しずつ貯まるものじゃ。今はその蓄積よりも消費の方が多い。このままでは世界樹は……」

「あのね、これはもう勘でしかないんだけど……それ、私はやっぱりコンフィの自信に関係してると思う。なんかね……酔ってるみたいだった。コンフィ」

「シオンさんが潜入した時ですか?」

「うん。動きとか、笑い方とか……酔っぱらってる人みたいだった」


 そんな状態でも、軍部はコンフィに従ってるのか。

 結論付けちゃダメだけど、頭には入れておこう。


「俺が気になってるのは、ツキシオが聞いた“止められない”って言い方なんだ。これ、ビステッカが既に大人しくしてない前提じゃないか?」

「言われてみればそうですね。しかも、ビステッカ隊長が以前に脱獄した時は、実際に止められなかったんですよね?」

「うむ……鎖の切れた猛獣のようじゃった。あの時の事は、まだ夢に見る。ビステッカは人にはほとんど手出しをしなかった代わりに、街が半壊した」


 想像つかないな、今のビステッカからは。

 いや……本当に想像つかないぞ。あまりにもかけ離れてる。


「人伝にピアットで今の地位にいると聞いたときは、驚いたものじゃ。言葉遣いも変えての。ああ、ビステッカはもうシンポジオを捨てたんじゃな、と……」

「え? いや、待ってくれ。ビステッカのしゃべり方、今と違うのか?!」

「シンポジオにいた時は、あのようなおかしな言葉遣いではない。むしろ、粗野な男という感じじゃったよ」


 え?

 なんだ、それ。俺はてっきり、あれはビステッカの個性なんだと思ってた。

 待て。話が変わってきた。


——ふふふ……あははは! はー……もう十分よ、二人とも。


 だから……笑ったのか。

 それで十分だったから、アタシは満足よ、なのか。

 誰も……信じなかったから。シンポジオでは、独りだったから。

 救われたんじゃないか、あれだけで。

 ずっと平気そうな顔しやがって……そうか、だからアイツ、牢から出ないのか!


「腹……立ってきた」

「リクト? コンフィへの怒りは、ここにいるみんな、共通です。冷静に……」

「違う、タルト。腹が立ってきたのは、ビステッカにだ!」

「……ええ?」


 ムカついてきた。思えば、今回の件は最初からムカついてるんだった。フロランタンに食ってかかったのも、わざわざ話を聞き直しに行ったのも、全部それだ。

 ムカつく。

 俺、この国、ムカついてきた……!

 ビステッカにも、一言言ってやらないと気が済まねぇ!


「り、リクト……? どうしちゃったの?」


 どうする? どうやって一言言えばいいんだ?

 アイツ、ほっといても牢から出ないぞ。

 こっちから会いに行くしか……あれ?

 本当に自分からは出ないのか、ビステッカは?


「おーい、リクトー?」

「あ、それだ」

「へ?」

「簡単な話だった。脱獄させればいいじゃん。それでビステッカを処刑する大義名分が立つ。コンフィが考えそうな事だった」

「リクト?」

「そうだよ、ビステッカはピアット軍部のトップで、詠唱歌姫の護衛だぞ? 広場で処刑なんか、ビステッカが罪を犯してなければ成立しない。あ、だから広場なのか。ビステッカ、民衆殴れないじゃん。本当にクソだな、コンフィは!」

「リクト、リクト! 待って、誰もついていけてないよ! 何を言ってるの?!」

「ほんっとうにムカついてきた……ビステッカもビステッカだ。なんだこの計画、つけこまれてるじゃないか。そうだよ、簡単に出てくるよ、アイツは! コンフィ……ムカつく! 民衆もムカつく!」

「リクトーーーっ!」

「あ、はい!」


 目の前に、推しの麗しいご尊顔。

 え、あれ?

 全員、驚いた顔してこっちを見てる?


「リクト……シオンさんの声、聞こえてなかったんですか?」

「ご、ごめん……話、聞いてなかった。なんの話をしてた?」

「こっちのセリフじゃ、それは。じゃが……なにか思い付いたみたいじゃな?」


 あ、俺が暴走してたのか。

 思い付いた事……コンフィのビステッカ処刑計画の全貌。これは、あくまで予測……だけど、穴は無い、な。

 というか、三日という短期間でビステッカを広場で処刑するような方法が、もうこれしか道理が通らないと思う。


「うん。ちょっと賭けになるけど……悪くない賭けだ。で、みんなにお願いがあるんだ。その……無茶だって怒られそうなやつ」

「リクト、割と貴方に無茶を押しつけてるのはこちらですよ。でも、事と次第に寄ります」


 推しとタルトが同時に腕を組んでこちらに向き直った。二人には協力して貰わないと、無理だよなぁ。

 わかってはいるんだ。自分が無茶苦茶を言ってる事くらい。どう考えても適任はツキシオだし。俺、鍛冶師だし。ステルスなんか、覚えられねぇ。


「コンフィの策に乗じて、ビステッカを脱獄させる。んでその潜入……俺にやらせてくれないか? ちょっと一言、言わないと気が済まないんだ。お願いします、助けてください!」


 即答は、して貰えなかった。

 ビステッカ……待ってろ。お前には言うことがある。

 とりあえず、ちょっとこの二人を説得する!

 

次話 鞘

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