14 点と点
ミランダーはいつものように見下ろすように目を細めて目の前にいる少女を見ると、少しの沈黙を挟んだ後「なるほど」と呟いた。そして一息ついてから、「はじめまして、アヤ。私はパウラ・ミランダー。あなたに会いに来た理由は、とある人物の失踪事件を追っている途中であなたの名前があがったからなの」
「失踪?」
「ええ、ドクター・ホルヘ・ヴェガという人物よ」
ミランダーがそう言ってUNIで写真を見せた。
「さあ、知らない人だわ。けれど、彼が『私』のことを知っているかもしれない」
アヤがそう言うとミランダーは不思議そうな顔をした。
「それは、どういう意味かしら?」
「私、目覚めてからこの体の記憶に全くアクセスできないの。つまり、この少女のことを何も知らないの」「では、意識の統合は?」「それは完了しているわ。明らかにダウンロードされた人物と今の私の意識は別物だから」
「とても、興味深いわね」
ミランダーの表情がわずかに変わった。
少し沈黙のあと、アヤは何かを思いついた表情を見せた。
「そうか、彼が言っていたのはこの事だったのね」
「彼?」
「ええ、妙な能力を持つリローデットの男に少し前に言われたの。『ある女性のリローデットが訪ねてくる』と」
ミランダーは思い当たるような表情になり、さらに眉間にシワをよせた。
「アフメドね……」
ミランダーはそう言ってため息をついた。
「ええ。彼を知っているのね」
「あのクソガキ……失礼、アフメドはあなたになんて言ってたのかしら?」
アヤは自分と同じ様に、彼に対しての嫌悪感を持った人物に出会えて妙に嬉しくなった。
「『彼女との出会いが未来を決める』とかそんな言い方だったわね。具体的なことは何一つ言わずに。あの男、いちいち傲慢で──」
「──不快」
ふたりは同時にそう言った。
コルドバ・タウン
ミッドタウン住宅街
「……ただいま」
リゲルは恐る恐る玄関のドアを開けて小さめの声でそう言って、忍び足で二階に上がろうとしたところで「こら待て!」とウェンが腕組みをしてキッチンから出てきた。
「ごめんなさい、ちょっと友達と一緒で──」
「ガハハハ、冗談だって。そんなビクつくなよ」
そう言ってウェンはリゲルの頭をガシガシとやった。
「『ガハハハ』じゃないでしょう! 全く。リゲル、遅くなる時は必ず連絡するようにって約束したわよね?」
エイカがしかめっ面でキッチンから顔を出した。
「ああ、あの。ごめんなさい。実は失踪事件……かもしれないことを調べてて、手がかりを探しにいってたの……友達と」
「なんだって?」「それは詳しく聞きたいわ。でも、夕飯の後でね」
リゲルたちは食事を済ませると、リビングに移動した。
「そういえばジスはいないの?」
リゲルがそう言うとお風呂から出てきたウェンがソファーにどっしりと座って「ああ、なんかあんまり家に入り浸っているのが周りに知られるのもよくないって、しばらくは自宅に居るってよ」
「そっか、ちょっとさみしいね」
リゲルがそう言うとウェンはブンブンと首を横に振った。
エイカもキッチンを片付けると、リビングのソファに腰を下ろしてくつろいだ。ふと今日のアーロンとの出来事が頭をよぎった。しかし、ほんの数秒ウェンとリゲルを見ているだけで、どうでもいいことだと思えてしまう。11年前のあの日にした選択は間違いではなかった。それを今というこの時が証明しているような気がして心から安堵した。
「今日、突然クラスの子が家族と一緒にいなくなっちゃったんだ」
リゲルはオリビア・フォーゲルとその家族、彼女と親しかったエミリーのこと、そしてご近所のイリーナ・ニューマン宅でのことをウェンとエイカに話した。
「フォーゲル家はともかく、一ヶ月前に引っ越したとされるバーク家の情報はエクレシアの資料に出てこなかったわね。どちらも新しい情報だから当然だけど」とエイカがUNIで確認しながらそう言った。
「唯一の目撃情報が、そのイリーナおばさんが聞いた噂の『黒いトラック』だけど……それだけじゃ、なんとも言えねぇよな」
ウェンが「う〜ん」と唸り声をあげて話しだした。「ここもそうだけど、モンテ・シルヴァ鉱山やその関連企業で働く人間が優先的に格安で住宅地に住めるって仕組みだろ?」
「そう、ミューズ・ゼネコープが不動産から労働保険まで管理しているわね」
「俺達はエクレシアの作った『硬い』偽IDで登録できたんだけど、実際はどうなんだろうな?」「え? どういうこと?」とリゲルが不思議そうな顔をした。
「俺が見た感じだと、あそこの作業員って結構な『ワケアリ』でここに来たって連中が多いんだよな」
「ワケアリ?」
リゲルの顔にますますクエスチョンマークが広がる。
「ええとね、例えば借金とか犯罪の前科があったりすると、なかなか仕事が見つけられないでしょ? そういう複雑な問題を抱えている人が作業員に多いのかもしれない、ってこと」
エイカがわかりやすく説明した。
「じゃあ、ここではどんな人でも働けるってこと? それっていいことでしょ?」とリゲル。
「ああ、まあそうなんだけども。そういうトラブルを抱えた人は……なんちゅーか、突然フッといなくなる事が多いわけよ」
ウェンはざっくりと説明したが、リゲルは余計に混乱してしまった。
「きっとそういう事情もあって、ここでは失踪自体が『大事』にならないんじゃないかしら」
リゲルは納得いかないのか首をまだ傾げている。
それを見かねてウェンは「よっし! わかった。さっき言ってたワンコが入院しているであろう動物病院、明日にでもエイカと俺で調べておくからよ。だからさリギー、お前はおとなしく……じゃなくて、学校でしっかり聞き取り調査だ。いいな?」
そう言って、エイカに目で合図すると彼女が「そうよ、それがいいわ。後でちゃんとジスにもこの話を伝えておくから。でも、くれぐれも危ないことはしないで、お願いだから」としっかりと念を押してくれた。
「うーん……わかった」
リゲルはそう呟いて、なんだか大人に上手く言いくるめられたような気分だったが、眠気もありトボトボと二階の寝室へ上がって行った。
エイカはリゲルが寝室のドアを閉めた音を確認してから
「ちょっと気になることがあるのよね。ここマークした失踪者のリスト見て」
ウェンがUNIを覗き込む。
「子供連れ? しかも、みんな十代前半か。これは嫌な感じだな」
「私の考えすぎかもしれないけれど、あの子がいたラボの話とどうしても重なるのよ」
エイカが囁くように言うと、ウェンは黙って静かに頷いた。




