愛の解剖教室
王都は、巨大な臓物の中に飲み込まれたかのようだった。
空を覆うのはドス黒い瘴気の雲。石畳は、タカシの体から溢れ出る黄色い膿と、アサルトリリーの劇薬が混ざり合った、ヌルヌルとした粘液に覆われている。
その粘液に触れた民衆は、皮膚がただれ、肉が溶け落ち、あるいは奇妙な腫瘍が急速に肥大化して、人間の形を保てずに悶え苦しんでいた。
「あガ……アアア……ッ!」
勇者レオンは、ひしゃげた聖鎧の中で、己の骨が数本折れているのを自覚した。
口の中は血と泥の味がする。かつて称賛を浴びたその端正な顔は、タカシの一撃で歪み、腫れ上がっていた。
目の前では、折れた聖剣が、汚物に塗れて転がっている。
『フヒッ……レオン、まだ動けるの? すごいねぇ……。でも、お遊戯は、あっちが先だから……』
タカシの肉塊から、無数の脈動する、紫色の静脈が浮き出た触手が伸びる。
その先には、女騎士とシスターが、手足を拘束され、空中に吊るされていた。
『まずは……俺を蹴っ飛ばした、お姉さん(女騎士)から……。その綺麗な脚、もっと、機能的にしてあげる……』
「や、やめろ……! 触るな、汚物があアアアアッッ!!」
女騎士の絶叫。
タカシの触手が、彼女の白銀の具足を、メキメキと音を立てて引き剥がす。
露わになった、鍛え上げられた美しい脚。
そこに、タカシの別の触手が、鋭利な注射針のように変形して突き刺さった。
ブチュゥゥゥゥッ!
触手から、緑色の、不気味に発光する液体が彼女の体内に注入される。
アサルトリリーの地下室にあった、『肉体を強制変異させる劇薬』だ。
「アガ、ガガガガガッ!! 熱、あ、アアアアアッッ!!」
女騎士の脚が、異常な速度で膨張を始めた。皮膚が裂け、真っ赤な肉が剥き出しになる。
骨が砕け、再構築される、嫌な音が響く。
彼女の美しい脚は、数秒のうちに、人間の構造を無視した、巨大な昆虫のような、節くれ立った甲殻に覆われた異形の肢体へと変貌した。
鋭利なカギ爪が、宙を虚しくかきむしる。
『フヒヒッ! すごい! 攻撃力が上がったよ! これで俺を、もっと強く蹴っ飛ばせるねぇ!』
「ヒィ……ヒ、ヒあアあ……ッ」
誇り高き騎士の精神は、己の肉体が化け物へと作り変えられる恐怖と激痛で、完全に崩壊した。口からは涎が垂れ、目は焦点が合わず、ただ獣のような呻き声を上げるだけの存在と化した。
『次は……シスターさん……。神様より、俺の愛のほうが、ずっと温かいって……教えてあげる……』
「いや、いやあああッ! 神よ、どうか、この穢れを……!」
シスターが泣き叫び、祈りを捧げる。
タカシの触手が、彼女の修道服を引き裂き、その白い肌に這い寄る。
そして、触手の先端が、彼女の口内に強引にねじ込まれた。
『んぐっ、んんぅぅぅッ!!』
ドボドボドボッ!!
タカシの体内で生成された、ドブと、排泄物と、腐敗した肉、そして『精神を汚染する魔法薬』が混ざり合った、最悪の汚泥が、シスターの体内に直接流し込まれる。
『んぐ、おえっ、げほっ……アガ……』
彼女のお腹が、異様に膨れ上がる。
体内から溶かされ、汚泥と混ざり合う、内臓の焼ける匂い。
彼女の目は、恐怖から、次第に陶酔と狂気へと染まっていく。
薬物によって脳内のドーパミンが異常分泌され、激痛が至高の快楽へと変換されているのだ。
「あ……アァ……神、様……ちがう、タカシ、様……。温かい……俺、汚れて……気持ち、いい……」
シスターの口から、聖歌ではなく、魔王への愛の告白が、ドロドロの汚泥と共に溢れ出る。
信仰は、汚物と快楽によって完全に塗りつぶされた。
『フヒッ、フヒヒヒヒヒ! ほら、みんな、幸せそうだよ! レオン、お前も……俺の、この、最高の愛を……受け取ってよぉ……ッ!』
タカシの巨大な、無数の顔が集まったかのような肉塊の腕が、ゆっくりと、地面を這うレオンへと振り下ろされる。
目の前で、愛する仲間たちが、肉体的・精神的に完全に蹂躙され、化け物と狂信者へと変えられた。
勇者レオンにとって、死すら生温い、永遠に続く絶望の淵。
『さぁ……解剖を、始めようか……。俺の、全てを……お前に、注ぎ込んであげるからねぇ……ッ!!』
王都に、レオンの、骨が砕ける音と、魂が引き裂かれるような絶望の絶叫が、いつまでも、いつまでも響き渡った。




