異世界は絶望だった件
「……くっさ。なんだここ」
目を覚ますと、そこは中世ヨーロッパ風の石畳……ではなく、生ゴミと汚物に塗れた裏路地のドブの中だった。
俺の名前はタカシ。17歳。
幼馴染の美少女に「ずっと前から視界に入るだけで吐き気がしてたの。二度と話しかけないで」と全校生徒の前で公開処刑され、見事な引きこもりへと進化したエリートだ。深夜アニメのグッズを買いに行く途中でトラックに轢かれた記憶があるから、これは間違いなく異世界転生というやつだろう。
「ふひっ、ついに俺の時代が来たか……! 神様からのチート能力で無双して、エルフも姫騎士も俺の奴隷だろ常識的に考えて」
自分の悪臭にまみれたジャージ姿も気にせず、ニチャァと笑みを浮かべる。
しかし、ステータス画面を開こうと「ステータス・オープン!」と何度叫んでも何も起きない。魔法の杖も、伝説の剣も落ちていない。
あるのは、目の前を通り過ぎるドブネズミだけだ。
「おいおい、ふざけんなよ! チュートリアルバグってんじゃねーか! 運営クソだな、これだから異世界の神は無能なんだよ……!」
ブツブツと文句を垂れながらドブを這い上がると、大通りに出た。そこには銀色の鎧に身を包んだ、金髪碧眼の美しい女騎士が歩いていた。
これだ。第一村人ならぬ、第一ヒロイン!
「ヒィーッヒッヒ! お、おっす! 俺は別世界から来た勇者なんだけどさぁ! お姉さん、俺の専属メイドにしてやってもいい……」
鼻息を荒くして、息をハァハァさせながら女騎士の腕を掴もうとした瞬間。
「気安く触れるな、汚物!!」
バキィッ!!
圧倒的な嫌悪感に歪んだ美しい顔。そして、躊躇のないフルスイングの蹴りがタカシの鳩尾にクリーンヒットした。
「ごぶぁっ!?」
そのままゴミ山に吹き飛ばされるタカシ。女騎士は汚いものでも見たかのように腕を払い、軽蔑の眼差しを向けてくる。
「街の治安維持も限界だな……あのような薄汚い変質者が湧くとは。衛兵! その男を地下牢へぶち込んでおけ!」
「は、はいぃぃ!? ちょ、待てよ! 俺は勇者! チートで無双する予定の……!」
衛兵に引きずられながら泣き叫ぶタカシ。だが、そこに一人の可憐な修道女が駆け寄ってきた。
「お待ちください。いくらなんでも、怪我をしている方を乱暴に扱うのは……」
「おお! 天使! やっぱり俺のメインヒロインはお前……」
タカシがシスターの胸元をジロジロと舐め回すように見つめ、ニチャァと笑った瞬間。
シスターの顔からスッと表情が消え去った。
「……あ、いえ。やっぱり連行してください。というか、燃やした方がいいかもしれません。生理的に無理です。神よ、この穢れた魂に浄化の炎を」
「えっ」
ドゴォォォン!!!
シスターが真顔で放った容赦のない上級浄化魔法により、タカシのジャージは丸焦げになり、全身に激痛が走った。
女騎士はゴミを見る目で去り、シスターはドン引きしながら足早に消えていく。
周囲の群衆からは「キモい」「臭い」「死ねばいいのに」という冷たい罵声が降り注ぐ。
「い、痛ぇ……! なんなんだよこのクソゲー! 俺は何も悪くないのに! あいつらが見る目ないだけだろ! 幼馴染と同じだ、女なんて全員クソだああああ!!」
チートなし、金なし、好感度マイナスからのスタート。
誰からも愛されず、己の非を一切認めないキモオタの、果てしなく絶望的な異世界ライフ(地下牢編)が今、幕を開けた。




