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Code:107 闇を知る第三者

 ヴァラムにとっては、予想より早い返答だった。


「使うんでしょ、これ」


 ミラフィスは右手首を持ち上げる。黒い鎖が鈍く光る。


「ウチがギルドに紛れ込んだスパイかどうか、確かめるために」


 鋭い洞察に、ヴァラムは感心したように口笛を吹いた。


「話が早くて助かる」


 歩を進め、ミラフィスの正面に立つ。


「では、訊かせてもらおう」


 低く、重い声。空気が張り詰める。


「君は、僕たちの味方になってくれるかい?」


 鎖に黒いエネルギーが集まる。

 闇が濃縮され、蛇のように()い上がる。


 嘘を吐けば、即座に暴かれる。

 ミラフィスは、迷わなかった。


「そうしてあげる、特別に」


 澄んだ声が響く。

 鎖は、黒いままだ。

 

 真実。一片の偽りもない。

 ヴァラムがニヤリと笑う。


「歓迎するよ」


 だが、ミラフィスは差し伸べられた手を無視して言い放つ。


「別にアンタのためじゃない」


 きっぱりとした口調。だが、その頬はほんのりと赤い。


「ウチの大好きな人に、ちょっとでも近づくための手段ってだけ」


 素直すぎる告白。先ほどまでの羞恥はどこへやら、最早開き直りの境地。

 ヴァラムが呆れたように首を振る。


「結構、見かけによらず欲望に正直なことだ」


 皮肉めいた嫌味。ミラフィスも負けじと不敵に笑う。


「ふふっ、ま、下心ってやつ?」


 肩をすくめる仕草が、妙に色っぽい。


「否定はしないよ」


 開き直った女は強い。その笑顔には、もはや迷いの色はなかった。


「これは、恐れ入った」


 ヴァラムが苦笑し、指を鳴らす。

 鎖が砂のように崩れ落ちた。黒い粒子となって宙に舞い、消滅する。

 

 ミラフィスが手首をさすりながら、ほっと息を()く。

 これで、一幕の密談は終わり——そうなるはずだった。

 

 黒い霧が、突如として(ゆが)み始めるまでは。

 

 空間に亀裂が入るような、不自然な現象だった。

 闇が引き裂かれ、その中心から人影が現れる。

 

 ミラフィスは即座に身構え、ヴァラムの方を見た。

 そして、彼の表情から、これが想定外であることを察して瞬時に戦闘態勢に切り替える。

 

 だが、現れた人物を見て、二人は息を()んだ。

 紫の髪。優雅な仕草。女性的な物腰——


「失礼するわよ、お二人さん」

 

 それは第七部隊のメンバーの一人、ジェイミー・ヴァレリア・ブラッドリーだった。

 

 彼は闇から生まれたかのように、音もなくそこに立っていた。

 いつもと変わらぬ悠々とした様子で、(うやうや)しくお辞儀をする。


「ジェイミー!?」


 ミラフィスが驚愕(きょうがく)の声を上げる。


 「何でアンタがここに——」


 だが、言葉が途中で止まった。ジェイミーの瞳を見たからだ。

 いつもの澄んだ紫色ではない。黒く濁り、底なしの沼のような色をしている。

 光を吸い込むような、人ならざる何かが宿っているかのような——

 

 見入る間もなく、ヴァラムが動いた。


「——《彼岸の呪鎖エクイノクシャルチェーン》」


 複数の鎖が四方八方から現れ、ジェイミーを捕縛する。

 手首、足首、胴体——完全な拘束。


「あら」


 しかし、ジェイミーは動じない。


「乱暴ね」


 むしろ楽しそうにさえ感じる。


「そういうのも、嫌いじゃないわ」


 (なま)めかしい笑み。対するヴァラムには、珍しく焦りの色が見える。

 額に汗が浮かび、表情が硬い。何かを警戒している——いや、恐れているのかもしれない。


「そんなに警戒しないで」


 ジェイミーが首を(かし)げる。


「アナタたちの敵じゃないわ」


 鎖が反応しない。赤く光らない。真実だ。

 そして、次の瞬間——

 

 バキバキバキッ、と鋭い音。

 ジェイミーが軽く手を動かすと、鎖が紙細工のように千切れ飛んだ。


「そういうことか、恐れ入ったね」


 ヴァラムはジェイミーの正体を察したようだった。

 だが、それを口にすることはない。

 

 ミラフィスは二人の間で視線を行き来させる。

 何が起きているのか、理解できない。


 ジェイミーは彼らの反応を見て、優雅に一礼する。


「話は聞いていたわ」

 

 そして、顔を上げる。黒い瞳が、(あや)しく光る。


「アタシも仲間にいれて頂戴」


 唐突な申し出。だが、その声には確信が満ちている。


「役に立つと思うわよ。アタシ、結構強いし」

 

 先ほどの鎖を破壊した光景を見れば、それはわざわざ言葉にせずとも明白であった。


「まあ、良いだろう」


 あっさりとした承諾。まるで、最初から予想していたかのような反応。

 ミラフィスが声を上げる。


「ちょっと待って! 何なのこの展開1?」


 怒涛の展開に、完全に置いてけぼりになっている。


「はぁ……何なのよ、このギルド……」


 深い溜息(ためいき)と共に、ミラフィスは額に手を当てるのだった。


「ああ、そうそう」


 その時、ジェイミーが思い出したかのように言い、手をひらひらと振る。

 その仕草はいつも通りなのに、黒く濁った瞳と相まって、どこか不気味さを醸し出していた。


「早速だけど、あなたたちに一つ」


 間を置く。計算された沈黙。


「耳より情報を教えてあげる」


 ヴァラムとミラフィスの視線が、同時にジェイミーへと向けられる。緊張感がさらに濃密になっていく。

 紫髪の美青年は言葉を慎重に選ぶように、ゆっくりと口を開いた。


「仮面の連中が動いたわ」


 その名前だけで、闇がさらに深くなったような錯覚を覚える。

 ジェイミーは二人の反応を確認するように一瞬視線を巡らせ、そして続けた。


「奴らの次の実験場所は——」

 

 言葉が、黒い霧の中に響き渡った。

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