2/91 妹之家毛 継而見麻思乎 山跡有
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題詞:近江大津宮御宇天皇代 [天命開別天皇 謚曰天智天皇] / 天皇賜鏡王女御歌一首
題訓:近江の大津の宮に天の下知ろしめしし天皇の代 天皇の鏡女王(かがみのおほきみ)に賜へる御歌(おほみうた)一首
原文:妹之家毛 継而見麻思乎 山跡有 大嶋嶺尓 家母有猿尾 [一云 妹之當 継而毛見武尓] [一云 家居麻之乎]
訓読:妹が家も 継ぎて見ましを 大和なる 大島の嶺に 家もあらましを
仮名:いもがいへも つぎてみましを やまとなる おほしまのねに いへもあらましを
(一云)
原文:妹之當 継而毛見武尓 山跡有 大嶋嶺尓 家居麻之乎
訓読:妹があたり 継ぎても見むに 大和なる 大島の嶺に 家居らましを
仮名:いもがあたり つぎてもみむに やまとなる おほしまのねに いへをらましを
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題詞:鏡王女奉和御歌一首
原文:秋山之 樹下隠 逝水乃 吾許曽益目 御念従者
訓読:秋山の 木の下隠り 行く水の 我れこそ益さめ 御思ひよりは
仮名:あきやまの このしたがくり ゆくみづの あれこそまさめ みおもひよりは
***私的解釈***
原文:秋山 樹下隠 逝水乃 吾許曽益目 御念之従者
訓読:秋山の 木の下隠り 行く水の 吾れこそ益さめ 御思はしよりは
仮名:あきやまの このしたがくり ゆくみづの あれこそまさめ みおもはしよりは
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題詞:内大臣藤原卿娉鏡王女時鏡王女贈内大臣歌一首
題訓:内大臣(うちのおほまへつきみ)藤原の卿(まへつきみ)の、鏡女王を娉(つまど)ひたまふ時、鏡女王の内大臣に贈りたまへる歌一首
原文:玉匣 覆乎安美 開而行者 君名者雖有 吾名之惜<裳>
訓読:玉櫛笥 覆ふを安み 明けていなば 君が名はあれど 吾が名し惜しも
仮名:たまくしげ おほふをやすみ あけていなば きみがなはあれど あがなしをしも
校異:毛→裳 [元][金][紀]
***私的解釈***
訓読:玉櫛笥 覆ふを安み 開けていなば 君が名はあれど 吾名惜しくしも
仮名:たまくしげ おほふをやすみ あけていなば きみがなはあれど あなをしくしも
(別の読み)
訓読:君名はあれども 吾名惜しくし
仮名:きみなはあれども あなあたらしくし
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題詞:内大臣藤原卿報贈鏡王女歌一首
題訓:内大臣藤原の卿の、鏡女王に報贈こたへたまへる歌一首
原文:玉匣 将見圓山乃 狭名葛 佐不寐者遂尓 有勝麻之<自> [玉匣 三室戸山乃]
訓読:玉櫛笥 みむろの山の さな葛 さ寝ずはつひに 有りかつましじ
仮名:たまくしげ みむろのやまの さなかづら さねずはつひに ありかつましじ
校異:目→自 [元][類]
(一云)
原文:玉匣 三室戸山乃 狭名葛 佐不寐者遂尓 有勝麻之<自>
訓読:玉櫛笥 三室戸山の さな葛 さ寝ずはつひに 有りかつましじ
仮名:たまくしげ みむろとやまの さなかづら さねずはつひに ありかつましじ
***私的解釈***
訓読:玉櫛笥 みむまろ山の さ名葛 つひにさ寝ずは 有りかつまじし
仮名:たまくしげ みむまろやまの さなかづら つひにさねずは ありかつまじし
山に生えるという葛(=さね葛)の名前の様に、共寝しない事はあってはならない。
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題詞:内大臣藤原卿娶釆女安見<兒>時作歌一首
題訓:内大臣藤原の卿の釆女(うねべ)安見児(やすみこ)を娶えたる時よみたまへる歌一首
原文:吾者毛也 安見兒得有 皆人乃 得難尓為云 安見兒衣多利
訓読:吾れはもうや 安見児得たり 皆人の 得かてにすとふ 安見児得たり
仮名:あれはもうや やすみこえたり みなひとの えかてにすとふ やすみこえたり
***メモ***
原文:吾者毛也 安見兒得有 皆人乃 得難尓為云 安見兒衣多利
訓読:吾はもうや 安見児得たり 皆人の 得かてにすといふ 安見児得たり
仮名:あはもうや やすみこえたり みなひとの えかてにすといふ やすみこえたり
安見兒衣多利の衣を「着」と意読すると「安見児来たり(やすみこきたり)」とも読めるか。