第九十夜 秘境の村人
俺は、某有名番組のディレクターをするようになり三年目を迎えていた。
その番組は、毎回山奥の人気のない所に建つ家の住人を、探し出しては取材をするという内容のものだったが、それが人気を博し、今や週末のゴールデンタイムの目玉番組となっていた。
今回も、番組のネタになるような秘境の村に住む人を探して、山奥まで来たのだが‥‥当初の予測よりもはるかに荒れた山道で、俺は途方に暮れていた。
道が舗装されてないのはもとより、草も人の背丈ほどまで伸びて生い茂っており、まるでここから先に人が入ってくるのを拒むかのようだった。
‥この番組の取材で、車幅すれすれの山道を車で通ったり、壊れかけの橋を渡ったり、結構な危険な目にあうのは慣れていたつもりだったが‥‥
今回ばかりは、先を進む事を断念せざるを得ないか、と諦めかけていた。
だがその時、荒れた山道の上方から背負子を背負って、草木をかきわけてやってくるお婆さんを発見して、俺は慌てて駆け寄って行った。
「すみません。テレビ関東ですが、この写真のお屋敷を探しているんです。このお屋敷まではどうやって行けばいいですかね。」
お婆さんは一見小柄で優しそうな雰囲気の人だったが、俺がテレビ局の者だと知ると、途端に表情を強張らせた。
「‥テレビ関東?‥何を調べに来たんだ。帰れ!」
「‥えっ、いや、僕はただ山奥のお屋敷を取材したかっただけなんです。決して怪しい者じゃないです。」
俺はそう言って、お婆さんを安心させる為に名刺を渡そうとした。だが、それすら許されなかった。
なぜならお婆さんが腰にぶら下げていた草刈り鎌で、俺に飛びかかって来たからだ。
「‥帰れ!二度と来るな!」
そう言って俺を走って追いかけてくるお婆さんは、まるで昔話の鬼婆のようだった。
俺は息をきらせて車に乗り込み、車のエンジンをかけた。
ドン、ガタガタ、ドン、ガタガタ、
何かが車の横からぶつかって来た。恐る恐るサイドミラーで確認すると、どこから現れたのか、数人のお爺さん達が車に体当たりをしていた。
「うわぁ、やめてくれ!頼む!落ちるから‥。」
俺は懇願するようにそう叫んだが、彼らは変わらず俺の車に体当たりをし続けていた。
と、その時一人のお爺さんが鎌の柄で車の窓ガラスを割ってきた。そして他のお爺さん達が腕を伸ばして、車の中にあった俺のバッグや機材などを全て奪っていった。
俺はとうとう、ズボンのポケットにある携帯電話以外を全て失ってしまった。
‥なのに、彼らは相変わらず俺の車に体当たりをし続けた。
「もう、勘弁してくれ!俺が何をしたって言うんだ!頼む!命だけは助けてくれ!」
そんな俺の願いも虚しく、俺は山道の斜面へ車ごと落とされてしまった。
「初江さん、あんたが勇気を出してあの男に立ち向かってくれたおかげで、また私らの平和は保たれたよ。ありがとう。」
「私も必死だったからね。まぁ、何にしても、あの男が村に入って来なくて良かった。何しろあの男‥‥屋敷の事を随分と気にしていたからな。きっと屋敷の例の物を狙って来たに違いない。」
山奥の村長のお宅では、数人の村人が集まって会合を開いていた。
室町時代の武将が残した埋蔵金が隠されていた古いお屋敷を、先祖代々守ってきたのがこの数人の老人達であった。
老人達は、この埋蔵金を守る為だけに、他の家族達と離れてこの秘境の村に住んでいたのだった。
「‥‥私らの後は、どうする?これを後の代の奴らに教えるのか?」
「‥いや、奴らの事は誰一人信用できん。これを渡した途端、私らやこの村を見捨ててしまうだろう。」
「‥ならいっその事‥私らの代で使い切ってしまおうか。」
「‥そうだな。」
そうしてこの日の会合は終わった。
それから何ヶ月か後、数人のお年寄りが高級有料老人ホームに入居した。彼らは、そこで生涯贅沢をして楽しく暮らし続けたと言う。
結局彼ら以外の人間が室町時代の埋蔵金の存在や、彼らの住んでいた村に向かう山道の斜面の下に、何台もの車の残骸や、何人もの白骨化した遺体がある事など、知る由もなかった。
こうして室町時代の埋蔵金の伝説は、誰一人真相を知る事なく、単なる都市伝説として人々に語り継がれていったのだった。




