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令和百物語  作者: みるみる
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第八十夜 百鬼夜行


深夜に徘徊する鬼や妖怪の群れを百鬼夜行といいます。


古来から日本の説話などにも登場し、平安から室町の貴族達も、夜中に百鬼夜行にあうのを避けて出歩かない事もあったと言います。


万が一百鬼夜行にあってしまっても、お経を唱えて難を逃れた話がいくつか説話で残っているそうです。


そんな百鬼夜行の一員の妖怪で有名な地の、まわりを田んぼと畑に囲まれた田舎の集落に、僕は住んでいました。年老いた祖母と遠距離トラックの運転手をしている父との三人暮らしです。


僕はこの家の北向きの玄関が苦手でした。何故なら、毎晩十一時になるとお化けが沢山でるからです。



「‥ばあちゃん、玄関にいっぱい来てるよ。ガラス戸越しに見えるんだ。‥人間じゃない形してるのが沢山いるよ。」


「‥大丈夫、大丈夫。ばあちゃんがついとる。」


「‥目が光ってる!」


「‥大丈夫。」


僕は毎晩十一時になると、玄関を怖がりました。その為、玄関を上がった所にある廊下に長い暖簾がかけられました。


これでもう玄関のガラス戸越しにお化け達を見なくて住むと思ったのに、布団に入った僕は、夢なのか現実なのか、いつの間にか外にいました。


僕の体は布団の中にいるのに、視界だけが外にある不思議な感覚でした。


夜に外から見る家の玄関はこんな感じなのかと、じっくりと外から玄関を見ていると、父が帰って来ました。父は、誰かと喋っています。髪の長い女の人?が三人いました。


僕は女の人達にうしろから近づきました。どんな人か顔を見たかったのです。


すると、バッと急に女の人達の首が真後ろにまわり、僕を見てニカッと笑いました。


「坊や、もう寝る時間だよ。布団にお戻りよ。」


うわぁっ!


びっくりして悲鳴をあげて目を覚ますと、僕はやっぱり布団の中にいました。


まだ心臓がドキドキいっています。


玄関から声がします。


僕は部屋の引戸をそっと開けて、玄関の方を覗き見ました。暖簾の向こうに、祖母と父と女の人達が見えました。


「こんばんは。またこの人私の店でベロンベロンに酔っちゃったの。飲み代とタクシー代貰いますね。」


「毎晩すみません。これ、代金です。」


「明美〜、咲子〜、美春〜、気をつけて帰れよ〜。」


「はーい。じゃあね、たけちゃん。またね。」


女の人達は帰って行きました。


「これ、たけし!あんた、前の奥さんに酒が原因で捨てられたのに、毎晩飲み歩いて!」


「うるさいなぁ。飲んで何が悪い!」


「はぁ、お前は酒さえ飲まなければ良い人間なのに‥‥。」


「うるせーぞ、ばばぁ。あっち行ってろ。」


そう言って、玄関で寝てしまった父の顔が一瞬、奇妙な笑みを浮かべてこっちを見ました。そして‥


「坊や、駄目だよ。扉を閉めて布団にお戻りなさい。他の仲間達がもうじきやって来るよ。早く部屋に戻らないと、連れられて行ってしまうよ。」


そう言い終えると、またいつものだらしない父の寝顔に戻りました。


「これ、たけし!布団に入って寝なさいって。」


ぐーっ、ぐーっ。


「ったく、しょうがないねぇ。」


祖母はそう言って、玄関で寝てる父に布団をかけると自分の部屋に戻って行きました。


僕は玄関の父が心配で、しばらく玄関を見ていました。


はっ!


僕は急いで部屋の引戸を閉めて部屋の布団に潜りました。


玄関のガラス戸越しにお化け達の姿が透けて見えたのです。


布団の中で震えながら寝てしまったようで、気付くと朝でした。


父も祖母も何事も無かったかのように、朝食を食べて僕の起きるのを待っていました。


その日の晩から父はお酒を飲んで遅く帰る事が一切なくなりました。それに、休みの日には、一緒に公園で遊んでくれるようになりました。


お化け達も、夜になっても玄関に来なくなりました。


本物の酒飲みだった父は百鬼夜行の妖怪達に連れられて行ってしまって、ここにいる父は実は偽物なんじゃないか、と疑ってしまう僕がいます。


それでも、今の父の方が大好きなので、酒飲みだった父が妖怪達に連れられて行ってしまって良かったなぁ、なんて思ってしまうのでした。


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