第七十七夜 変なおばさん
うちの近所には変なおばさんがいた。おばさんは、自分が未来から来た未来人だと言って、いつも僕達に色々な予言と警告をしてくるのだ。今日だって僕達の通学路に立ち、不気味な予言をしてきた。
「おい、お前たち明日地震が来るぞ!今日の内にしっかり準備をしておけよ。」
「うるせー。嘘つき婆あ!」
「おい孝、やめとけって。」
「‥‥婆あだと!私はまだ若いんだよ!」
おばさんはそう言うと、すぐに別の子供達に予言と警告をしに行った。
このおばさん、予言や警告はするものの実は一度もその予言が当たった事は無かった。
その為、大人達はおばさんの事を虚言癖のある怪しい人と認識していた。僕達の親も、僕達におばさんとは話すなと言っていた。
そんなおばさんだが、子供達には馬鹿にされつつも何故か好かれていた。
学校帰りにトイレに行きたくて困ってる子がいれば、トイレを快く貸してくれたし、いじめられている小さい子がいれば、助けてやっていたのだ。
おばさんは、悪い人ではなかったのだ。
ある日の夕方、遊んでいて帰りが遅くなった僕達が、不良に絡まれてお金を取られようとした時も、おばさんが機転を聞かせて助けてくれたのだった。
「警察が来たぞー!みんな警察だぞー!」
おばさんがそう叫ぶと、不良達は慌てて立ち去っていった。僕達は、おばさんのおかげでお金を不良達に取られる事なく無事に帰宅できたのだった。
そんなある日の事だった。おばさんの様子がいつもと違ってやたらと暗かったのだ。
僕達は、おばさんを心配して声をかけた。
「おい嘘つき婆あ、元気がないな。風邪でもひいたのか?」
僕達がからかい半分でそう言うと、おばさんは悲しそうな辛そうな顔をして、また予言を言った。
「‥‥お前たち、今晩地震は来ない。今晩地震は来ないんだ。‥‥お前たち、この嘘つき婆あの話は信じるなよ‥。」
「‥何だよ。地震が来ないなら、わざわざと言う事ないだろ?」
「‥地震は来ない。嘘つき婆あの話を信じるな!」
おばさんはそう言って、自分の家に帰って行ってしまった。
残された僕達は、おばさんのただならぬ様子に不安を感じていた。
「‥おばさん、嘘つき婆あって事を否定してなかったよな。」
「ああ。」
「あのおばさんが地震が来るって言っても、地震は来なかったけど‥‥地震が来ないって言ったら、どうなんだろう?逆に地震が起きるって事になるの?」
「‥一応、避難道具見直したり、避難所調べとくか。」
「‥うん。」
その晩9時頃、僕達のいる地域に大きな地震が来た。震度6だった。
この地震により、古い木造の住宅が半壊になったり、建築途中の建物の足場が倒れてきたりと、建物の被害が大きかったものの、亡くなった人は一人もいなかった。数人の軽傷者が出ただけで済んだのだった。
勿論僕達は無事だった。揺れ始める予兆のあった時に、家の扉を開けて逃げ道を確保したり、倒れてくる家具の近くに近寄らないようにしたからだ。
僕達が大きな怪我をしなかったのは、おばさんのおかげかもしれなかった。
翌日おばさんの家の近くに行き、おばさんが無事か確認に行ったが、おばさんの家があった場所は草が生い茂った空き地となっていた。
それに、不思議な事に僕達以外の誰もがおばさんの事を知らないと言うのだった。
僕達の親ですら、そんなおばさんはいなかったと言って譲らなかった。
おばさんはやはり未来人だったのかもしれない。それにおばさんの家はタイムマシンだったのかもしれない。
僕達に嘘を言い続けたのも、未来人なりのルールがあったせいかもしれない。
未来人が過去の人間に、未来に起こる事を言ってならない、といったルールだ。
だとすれば、おばさんの言動の全てに合点が言った。
おばさんが未来に帰って行ったのか、また違う過去に行ったのかは分からないが、僕達がおばさんと会う事はもう二度とないだろうと思えた。




