第七夜 憎たらしい孫
夫が他界して、寂しいけれどこれから一人で、のんびりと老後を過ごそうと考えていたところ、次女が二人目の出産を機に、我が家にきて一緒に住むことになりました。
次女がアパートから家族四人でうちへ越してきた日から、我が家の二階は次女家族に占拠されてしまいました。
お風呂の時間や、ご飯の時間が被らないように気をつけて生活をしていた為、とても精神的にストレスを感じる毎日になりました。
おまけに次女夫婦が仕事をしてる日中は、私が孫達の面倒を見ていました。
もう七十歳を越えている私は、料理が面倒で、おにぎりかレトルトカレー、そうめんしか作れません。孫達には、時々冷蔵庫にあるレトルトのピザが一番のごちそうです。
足が悪いので、二階から孫たちを一階へ呼んで、私の目の届く所で一日中過ごさせました。目が届かないところで怪我をされると大変ですので。
こんなに気を遣って生活をしてるのに、何故孫に嫌われなきゃならないのでしょうか。
次女の下の子、麻実は本当にわがままで、私を目の敵にしていました。
「おばあちゃん、しゃべらないで!唾が飛ぶから。あと、こっち見てうんうんって頷かないで!」
「二階へ行きたい!あと、私のノートをいちいち覗かないで!」
「おばあちゃんのトイレの後、くっさい!」
と、もう言いたい放題です。
「怒ったな!お母さんに言ってやる!お父さんのところのおばあちゃんは、何しても怒らなかったよ!料理だって上手だし!」
向こうのおばあさんと比べられて、しかも、気にしていた料理の事を言われて、さすがに頭にきた私は、麻実につい強い口調で怒ってしまいました。
「悪かったな!そうか、私が全部悪いんだな!お前が我がままなのも、お前たち家族が威張っているのも!ここは、私の家だ!!嫌なら出て行け!」
麻美は、唇を噛み締めて涙を堪えながらも、体をプルプル震わせて、
「…そこまでは言ってないじゃん。おばあちゃんが私にばっかり煩いからじゃん。」
まだ口答えをしてきます。あともう少し言ってやらないと気が済まない気がしてきました。
「お前が!お前達がおらんかったら、私だっていつでも畑仕事へ行けたし、老人会の集まりだって行けたんだ!なんでも出来たのに!私の家や私の事が嫌なら、お前達が早く出てけ!」
私が怒ってしまった事で、堪えきれなくなった涙が流れ、麻実は思いっきり泣いてしまいました。
それが原因かどうか分かりませんが、次女家族は我が家から出て行きました。
市営住宅に入居ができたんだそうです。これで、やっと我が家で誰に遠慮する事もなく、自由に過ごせます。
娘や孫なんて、時々会うだけだから良いんです。一緒に暮らすなんて、もう二度としません。
なのに、何故か心にぽっかり穴が空いたようで、私はしばらくは何も出来ずに、ぼーっと過ごしていました。
ある日の明け方、私は急に胸が痛くなり、枕元の舌下錠を飲む為に流しへ向かう途中、倒れてしまいました。
倒れたはずなのに、なぜか私は天井から、床に倒れている自分をしばらく眺めていました。
そして、走馬灯のようにこれまでの人生が目の前に現れました。
走馬灯の中の色々なシーンが私の視点ではなく、相手の視点からも見られたのは、意外でした。
あっ、麻実。昔の麻実です。
「これね、おばあちゃんにあげるの。いつもおにぎりを握ってくれるから。」
「これね、おばあちゃんの為にお祈りしたの。おばあちゃんが、トイレが怖い時についてきてくれたから、おばあちゃんがお化けに会いませんようにって。」
「このお菓子、おばあちゃんの分ね。お母さんからあげておいてね。」
麻実‥‥。
「もう、本当に麻実は素直じゃないね。もっとおばあちゃんにも素直になればよかったのに。」
麻実‥‥今頃どうしてるだろうか。
場面が、今の麻実に変わった。
へぇ~、ここがあの子達の今住んでる所か。お父さんは仕事でいないのかな、お母さんはお姉ちゃんのお迎えかな。
麻実はひとりぼっちで平気だろうか、虫が出たり、暗闇を怖がってないだろうか‥‥
麻実がいた。
絵と手紙を書いている。
「おばあちゃんへ
いつもわるぐちをいっててごめんなさい。
まだおこってるだろうけど、なかなおりしようね。
いっしょに、おばあちゃんのはたけのきゅうりを、とりにいこうね。
つぎは、いつあえるの?
またいっしょにすもうね。
おばあちゃんの絵をかいたよ。あげるね。
またね。あさみより。」
麻実!おばあちゃんも麻実に会いたい!
はっと気付くと、私は病院のベッドの上でした。老人会のお知らせを持ってきてくれた友人が私に気付いて、すぐに救急車を呼んでくれたようです。
ベッドの横には、次女と麻実がいました。
「おばあちゃん!私、病院嫌いなのに、本当は来たくなかったのに来たんだよ。倒れてごめんって言って!ビックリさせてごめんなさいをして!」
麻実は、相変わらずです。あんなに目に涙を溜めながらも、すごい勢いで私に怒ってきます。
「こら!麻実!おばあちゃん病気なんだから、大声出さないの!‥‥お母さんごめんね。この子、おばあちゃんの事が心配で、学校を休んでここに来ちゃったの。もう!連れてこなきゃ良かった。」
「違う!私が学校を休んでたら、お母さんがここへ勝手に連れて来たんだもん!来たくなかったもん!」
ああ、本当に素直じゃない。なんて、憎たらしい孫なんでしょう。
でも、こんなに麻実が愛おしくて幸せな気分になれるのは、何故でしょうね。




