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令和百物語  作者: みるみる
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第六十六夜 吊られた人


家の仏間には、昨日から天井から吊られてる人がいます。僕が仏間に入ると毎回睨んできます。       


「お父さん、仏間に人がいる。」


「お客さんか誰かきてるのか?」       


「えーとね、天井からね、ぶら下がってる人。」     


「まーた、そういう事言って。」


「‥本当だって。」    


僕はお父さんを仏間に連れて行きました。お父さんが来ると、吊られた人は畳の上に降り立ち、ニヤニヤしながらお父さんに近づいて来ました。


僕はお父さんの身の危険を感じて、仏間にせっかく連れてきたものの、すぐにお父さんを引っ張って仏間から出ました。


「ごめん、お父さん。僕の勘違いだった。」


「‥ふぅ〜ん、まぁいいや。」


お父さんは特に気にする様子もなく、面倒くさそうにリビングへ戻って行きました。


そして、また新聞紙を読みながら、ニュースを見ています。


朝食の後片付けをしていたお母さんは、そんなお父さんを呆れた顔で見ていました。


「あなた、きっと孝はあなたに遊んで欲しいのよ。かまって欲しいのよ。せっかくの日曜日なんだから、公園にでも連れて行ってあげたら。」


「え〜っ‥面倒くさいなぁ。‥孝、本当に外へ行きたい?外は暑いぞ〜。」


「行く行く!暑かったら、お父さんにジュース買ってもらうから平気だよ。」


「‥しょうがないなぁ、行くかっ。孝、帽子かぶって来いよ。」


「はーい。」


僕はお父さんと公園でキャッチボールがしたかったので、喜んで公園へ行きました。


いざ公園へ来てみると、お父さんの方が僕とのキャッチボールにはしゃいでしまい、いつまでも僕とキャッチボールをしたがりました。


「‥お父さん、もうジュース買って家に帰ろうよ。」


「え〜、なんだよ孝は体力ないなぁ。」


お父さんはそう言いながらも、ハアハアと苦しそうに肩で息をして、心臓を押さえながら自動販売機までやって来ました。


「‥お父さん、大丈夫?日陰で休憩しようか。ジュース飲んでゆっくりしようよ。」


僕はお父さんを屋根付きのベンチへと連れて行き、ベンチに横になるように促しました。自分もベンチに腰掛けると、大好きな炭酸ジュースのシュワシュワに癒されていました。


そんな時、ふと視線を感じて上を見ると、鬼の形相をしたお婆さんが屋根からぶら下がっているのを発見してしまいました。お婆さんはこっちを睨んで見ていました。


「ケケケケッ、ぶーらぶーら、ケケケケッ。」


そう言いながら、体を振り子のように揺らしています。


僕は恐怖のあまり逃げだそうとしましたが、お父さんを置いていく訳には行かず、逃げ出すのを我慢しました。


そして、お父さんのポケットから携帯電話を取り出してお母さんに電話をしました。


プルルル、プルルル、


「あっお母さん、お父さんが体調悪くてベンチで寝てるんだ。すぐに来て!」


僕はお母さんを電話で呼んだ後、お婆さんの恐怖に耐えながらも、お父さんを一生懸命に守りました。


何となくこのお婆さんも、お父さんに何かをしたがっているように感じたからです。


お母さんを待つ間もお婆さんは‥


「ケケケケッ、ぶーらぶーら、ケケケケッ。」


僕とお父さんを睨みながら、ぶーらぶーらと揺れ続けていました。


「孝ー!大丈夫?お父さんは?」


お母さんが僕の所まで走って来ました。お父さんも少し体を起こして落ち着いた様子でした。


「ああ、熱中症起こしたのかな?俺も帽子を被って来るべきだったな‥‥。」


「‥人騒がせね。車で来たから、歩けそうなら車に乗って帰ろうか。」


お父さんとお母さんはそんな会話をしながら、車に向かい歩き出しました。


僕もベンチ上の屋根でぶーらぶーらと揺れるお婆さんを警戒しながら、車へ向かいました。


そして家に帰ると、リビングに今朝仏間にいたお爺さんを発見しました。


お爺さんは、お父さんの姿を見ると舌打ちをして、また仏間に入っていきました。


プルルル、プルルル、


「‥はい。えっ、‥分かりました。」


「あなた、仕事?」


「‥ああ、融資を断った工場の社長夫婦が心中したらしい。‥二人共自宅で首吊ったんだって。今日がお通夜らしいから、夜行って来るよ。」


お父さんはそう言って、携帯電話をテーブルに置いて喪服を用意すると、仏間に御数珠を取りに行ってしまいました。


「あっ、お父さん駄目‥‥。」


仏間に入ったお父さんを追いかけて行った僕は、見てしまいました。


仏壇の引き出しから御数珠を取り出すお父さんを、天井から吊られた状態で睨み付ける老夫婦の姿を‥‥。



その後お父さんがお通夜やお葬式へ行き、しばらくすると老夫婦の姿は見なくなりました。


僕はと言えば、この事があって以来どこへ行っても上を見上げる癖がついてしまいました。


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