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令和百物語  作者: みるみる
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第十八夜 お隣さん


ピンポーン


「はい。」


「あっ、隣に越して来ました。武田です。宜しくお願いします。これ、つまらない物ですが。」


「まぁ、ご丁寧に。こちらこそ、宜しくお願いしますね。」


我が家の隣に若夫婦が越してきました。礼儀正しい方達です。良かったです。


私は、この家で主人と二人で住んでいますが、この隣家はずっと空き家だったので、防犯上や衛生面でも色々心配していたのです。


「あら、あなた、起きてらしたの?今のはお隣さんよ。良い感じの人でしょ。」


「母さん、今度はもう隣をあんまり構うなよ。」


「あら、そんなに構ってたかしら?気を付けるわね。若い人達は特にそういうの嫌うらしいし。」



ピンポーン



「はい。あら、こんにちは。昨日はどうも。武田さんどうしました?」


「すみません。ちょっと留守にするので、この子を預かってもらえませんか?」


「えっと‥お子さんいらしたの?この子はおいくつ?」


「あっ、すみません。急いでいるので、よろしくお願いします。」


「えっ、あっ‥いつ迎えに来るのかしら。」


お隣さんは、お子さんがいたようです。私はこの子の名前も、年も知りません。


「えっと、お名前は?おいくつ?」


「由麻里です。八歳です。」


「お母さん、いつ迎えに来るのかしら?」


由麻里ちゃんは、黙って首を振るだけです。


「とりあえず、おばあちゃんのお家入ろうか。」


そう言って、私は由麻里ちゃんを居間へ連れて行き、麦茶と最中をあげて、武田さんのお迎えを待ちました。


ガラガラ、


夫が帰って来ました。


「母さん、小さい子の靴があるけど‥。」


「あっ、はい。武田さんが預かってって。」


「いつ迎えに来る?もう夜の七時だぞ。」


「‥‥聞いてないの、急いで行っちゃったから。」


「俺が隣へ帰しに行く。」


そう言って、主人はお隣へ由麻里ちゃんを連れて行きました。何分かすると帰って来ました。


「あなた、どうでした?」


「隣のやつ、俺たちにあの子を預けておきながら、この時間まで居させておいてご飯も食べさせてないのかって怒って来やがった!


奥さんも、迎えに行くのを忘れてたらしくて、こっちにもっと早く送ってきてくれれば良かったのに、だってさ!


もう二度と預かるなよ!」


「分かりました。すみません。」


そんな事があってから、一週間後の事です。

老人会の集まりの為に出掛けようとして、玄関へ出ると由麻里ちゃんがいました。


「由麻里ちゃん、どうしたの?お母さんは?」


由麻里ちゃんは、黙って首を振るばかりでした。私は、出かけなくてはならないので、お隣の家へ由麻里ちゃんを連れて行きました。


ピンポーン


「おはようございます!武田さん!」


ガチャガチャ、


チャイムを鳴らして、呼んでみても返答がありませんでした。鍵もかかっています。


「困ったわ。老人会へ一緒に連れていく訳にも行かないし。」


私はお友達に電話をして、老人会へ行けない事と、お隣のお子さんの事を話しました。


「ねぇ、それってわざと置いてったんじゃないの?お隣さんの奥さん、浮気してんじゃないの?大丈夫?子どもは警察へ連れていったら?」


「でもお隣さんだし、あまり事を大きくして揉めたくないのよ。」


「じゃあ、今回だけ預かって、次からは警察へ連れて行くってお隣さんに言っておきなさいね。」


「分かったわ。ありがとう。」


そう言って、私は結局由麻里ちゃんを預かりました。


夕方由麻里ちゃんを連れて、武田さんのお宅を訪ねると、何やら揉める声がしました。


「お前が浮気してんのは分かってるんだぞ、出て行け!由麻里は俺が育てる!俺のお母さんにここへ来てもらう!」


「浮気じゃないし!もう会わないし!由麻里は私が産んだんだから!!離婚もしないし、ここに居させてよ!」


「お前、由麻里を放っておいてよく言うよ!由麻里は今どこだ!」


「お隣さんが遊んであげるって言うから、遊びに行かせてるだけよ!今迎えに行くところなの!」


ガラガラ、


「あっ、武田さん‥‥。」


「あんたが由麻里を連れ回すから悪いのよ!早く返しなさいよ!由麻里、おいで!」


玄関で立ち尽くす私の後ろで、由麻里ちゃんは私にしがみついて離れません。


「あんた、早く由麻里を返しなさいよ!何手懐けてんのよ!あげないわよ!寂しそうなばあさんだから、ちょっと由麻里を貸してやっただけなのに、調子に乗んな!」


「武田さん、落ち着いて下さい。あっ、ちょっと、やめて下さい!!」


武田さんが私に向かって来て、肩を掴んで叩いてきました。


すると、武田さんを誰かが押さえてくれました。よく見ると、警察官の格好をしています。


「お取り込み中、失礼します。中川署の者です。こちらで、トラブルがあったとご近所から通報がありましたので、お邪魔しました。」


「くそっ!お前が呼んだんだろ!お前のせいだからな!」


武田さんはまだ興奮していました。奥で武田さんの旦那さんが、携帯電話を持って立っています。そして、茫然とした様子でこちらを見ています。


「すみません。僕が通報しました。妻が興奮して、僕じゃどうにもならなくて。あと‥‥すみませんが家に上がって貰えますか?奥の部屋で妻が‥。その、僕も今日問い詰めて分かったんですが‥。」


「ちょっと、やめてよ!何、勝手に!」


興奮する武田さんを警察官がずっと押さえている為、もう一人の警察官が奥へと入って行きました。


「あの、私はどうしたら‥。」


「あとで、事情を詳しく聞かせて貰いますので。」


その後パトカーの中で、私は事情聴取を受けました。これまでの事、由麻里ちゃんの事を包み隠さず全て話しました。


由麻里ちゃんは、お父さんと手を繋いで、警察官を不安気に見ています。


とりあえず、私は自宅へ帰り、主人のご飯の支度に取り掛かりました。とても遅い夜ご飯となりましたが。




あれから、お隣の武田さんは、押し入れで大麻を隠して育てようとした罪と、浮気相手と大麻を使用していた件で警察へ連行された後、尿検査を受けて陽性が出た為、今は拘置所にいるそうです。


武田さんの旦那さんと由麻里ちゃんは、旦那さんの実家へ行ったようです。旦那さんも検査を受けましたが、勿論陰性でした。



結局またお隣は空き家となってしまいました。おまけに曰く付きなので、当分空き家のままでしょう。それでも、やはり空き家のままでは心配なので、次こそは良い方達に来て貰いたいと願う日々です。



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