表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
令和百物語  作者: みるみる
15/100

第十五夜 夏の夜



夏休みに私は田舎で一週間、祖母の家で過ごすことになった。


田舎だから娯楽施設はないから、ずっと祖母の家でタブレットをいじっていよう、母と違って祖母は怒らないから、と思ってほくそ笑んだ。


祖母の家のまわりは田んぼと畑ばかりで、コンビニはない。だから、お菓子やジュースは忘れずに旅行バッグいっぱいに詰め込んだ。


ゲーム機とタブレットは、財布と一緒にリュックに入れた。


「夢華、お母さん達も冬馬の部活の試合が終わったら、おばあちゃんちに行くからね。一人で大丈夫ね。」


「もう、六年生だよ。大丈夫だって。それより、来る時おやつやジュースをたくさん持ってきてよ。おばあちゃん家ってお菓子がないんだもん。」


「スイカや水羊羹出してくれてたじゃん。」


「え~そういうのじゃないんだけどな。クッキーやポテトチップスがいいのに。」


そんな事を母と話してるうちに、車が新幹線の駅に着いた。切符はもう買ってある。


「行ってきます!」


「行ってらっしゃい。気をつけてね。」


こうして、私は初めて一人で乗る新幹線や、駅弁にワクワクしながら、祖母の住む田舎へ向かった。


新幹線を降りてバスに乗り継ぐと、バス停で祖母が待っていた。


「おばあちゃん、来たよ。早くお家に行こう!」


「夢華はせっかちだなぁ、ハハハッ。」


祖母の家は、バス停からすぐだった。大きな平家の家で、庭には大きな納戸や倉庫、農機具置き場があった。


「アハハ、本当に田んぼと畑しかないや。おばあちゃん、買い物どうしてるの?」


「軽トラで大きいスーパーだって、映画館だって行けるぞ。スーパー銭湯もあったな。今晩行くか?」


「行くー!スーパー銭湯の帰りに、スーパー寄ってアイス買おうよ!」


「アハハ、夢華はよくばりだなぁ。」


祖母が言うには、この辺も最近になって道が整備されて大型のスーパーや施設が出来てきたようだ。おまけに新興住宅地もできて、住人も増えたらしい。


家に着いてから、夕方まではタブレットで動画を楽しみ、その後は祖母の軽トラでスーパー銭湯へ行った。お風呂を楽しみ、そこの食堂で刺身定食を食べて、帰りはスーパーでアイスを買って帰った。


「おばあちゃん、楽しかったね~。あとは寝るだけだね。一緒に寝ようね。あと、トイレもついてきてね。」


「分かっとるよ。夢華は怖がりだからなぁ。」


そう言って、祖母は二人分の布団の上に、大きな蚊帳を吊るした。窓や縁側の引き戸は開いたままだった。


「おばあちゃん、変な人や泥棒が来たらどうするの!閉めないとダメ!」


「大丈夫だって。今までもこうして寝てたし、それにばあちゃんは強いからな。アハハ。」


「アハハじゃないって!もう。」


結局扉も窓も開け放して寝ることになった。


布団の中で動画を見たり、ゲームをしてウトウトしていると、



アーアーウーアー、アー、アー



外から呻めき声がした。



ウアーウー、アー、アー


ガリガリ、ガリガリ


アーアーウーウー、アー



「おばあちゃん、おばあちゃん、起きて!誰かいる。おばあちゃん!」


「んあ?」


「アーアー言っとる。外で誰かの呻めき声がする!」


「あぁ、牛蛙だなぁ、きっと。」


「牛蛙?あっ、また寝ちゃった。」


祖母は結局朝まで目覚めなかった。私は朝の新聞配達の人が来るまで起きていた。



「おばあちゃん、昨日ガリガリとかアーアーとか一晩中音がしてて怖かったんだよ!起こしたのに!」


「だから牛蛙だろ?」


「本当に!?」


「ああ、そうだ。眠たかったら、もう少し寝とくと良い。布団はまだ敷いとくでな。」


そう言って、祖母は庭の隅をずっと見つめていた。庭の隅に何かあるんだろうか?


私は祖母が朝ごはんを用意している間に、こっそりその庭の隅を見に行った。


お墓?小さな盛り上がりがあった。その盛り上がりは比較的新しいもののように思えた。


その横には、お饅頭の様な物がお供えしてあった。それと、血?小さな血痕があった。


そう言えば、母がよく言っていた。この辺は昔は土葬が主流で、人が亡くなると棺桶に入れて深く掘った穴に埋めたらしい。


埋めたはずの人が、棺桶を突き割り、棺桶の上にいた事もあったとか。まさか、あの夜中の呻めき声は、昔の土葬された人の幽霊の声?



「こんにちは。鷹野さん、いますか?」


近所の人だろうか。


「はい、こんにちは。」


「あっ、お孫さんかしら。おばあちゃんは?」


「今ご飯の支度をしています。」


「そう、あの‥‥うちの猫がいなくなってしまってね。今探してるんだけど‥真っ黒な雌猫なんだけど‥‥。また見かけたら教えて下さいって伝えて頂ける?」


「分かりました。」


「すいません。お願いします。」


そう言って近所の人らしき人は去って行った。うっかり名前を聞き忘れたが、黒猫の飼い主だって言えば分かるだろう。


猫‥‥何かひっかかる。


あの盛り上がりは新しかったし、饅頭は本当にお供え物なんだろうか?


以前、祖母は猫の糞害で困っていた。猫よけの忌避剤もよく買っていたという。


もし、猫よけの有害な饅頭を庭に置いてて、それを猫が食べて死んじゃったら?


もし死んだ事を隠す為に土に埋めていたら?土の中で、死んだと思った猫が実はまだ生きていたとしたら?


だとしたら、きっと土の中で一晩中もがいていたのかもしれない。そう考えると、全ての辻褄が合う。


もし、本当にそうなのだとしても、私は祖母を責めはしない。きっと仕方のない事なのだ。自分でも同じ事をしたかもしれない。


全部私の憶測に過ぎないが‥‥。



次の晩からは、あのウーアーの呻めき声と、ガリガリという音はもう聞こえてこなかった。


本当に牛蛙の鳴き声だったのか、猫が苦しんで呻めいた声だったのかは分からない。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ