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令和百物語  作者: みるみる
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第十二夜 始発電車



朝五時二十三分発の始発電車がやってきた。


僕は、毎日この電車に乗って高校へ通学している。


冬の朝は暗くて寒い。じっとしていると寒いので、手を擦り合わせ足踏みをしながら、電車の扉が開くのを待つ。


プシューッ。


扉が開いた。中にはすでに乗客が二人乗っていた。入り口付近におばあさんが一人、奥にサラリーマンが一人乗っていた。いつもの見慣れた乗客だった。


「村田君、おはようさん。今朝も冷えるねぇ。」


「幸江さん、おはよう。今日も旦那さんのお見舞い?」 


「ああ、街の病院までね。遠くて嫌になるけど、しょうがないわ。」  


おばあさんは、旦那さんが街の病院でずっと入院している為、毎日病院まで通っていた。   


始発から、夜五時ぐらいまでずっと旦那さんについているそうだ。完全看護の病院なのでお世話は要らないのだが、行かないと旦那が機嫌を悪くするそうだ。


「幸江さん、滝口さんの顔色悪くない?今日何か話した?」


「さあね。私がこの電車乗った時からずっとあの調子だ。おかげで挨拶もまだしとらん。」


「そうだね、体調悪いのかな。そっとしておいてあげようか。」


滝口さんとは、奥のサラリーマンの事だ。だいたい五十代か六十代くらいの大柄な男性だ。


滝口さんは、幸江さんよりも前の駅からいつもこの電車に乗っていた。


僕たち三人は、この電車で毎日三年近く通っていた。最初はお互いに何となく挨拶を交わすだけだったが、いつしか三人で近くに座り、話し合う間柄になった。


「幸江さん、足を怪我したの?血が出てるよ。」 


「おや、気が付かんかった。いつの間に‥‥。歳とると痛みもかんじなくなってねぇ。」


「そういう村田君こそ、顔が傷だらけだ。‥‥かまいたちの仕業かねぇ。」 


「かまいたちというのは、妖怪だよ。いつの間に現れて人を斬り付けるんだ。けど、知らぬ間に鋭い傷を付けられた当の本人は、痛みもなく、またどこで切った傷なのか分からないんだ。」


「そんな妖怪がいるんだ。かまいたち、かぁ。」


幸江さんは、物知りだった。だから、電車で幸江さんと話すようになって嬉しかった。祖母は僕が生まれる前に亡くなっていたので、僕はおばあちゃんという存在に憧れていたのかもしれない。



ガクンッ。



「幸江さん!大丈夫?」


急に幸江さんが座ったまま、気を失って倒れた。


「たっ滝口さん!どうしよう、車掌さんに言って、次の駅で降りて救急車を呼んだ方が‥‥。滝口さん?」



滝口さんが真っ青な顔で、手で頭を掻き毟りながらこっちにやって来た。



「‥‥、おい、お前ら いつまでそんな事を続けるんだ。もういい加減やめたらどうだ。幸江さんは‥‥救急車なんか呼ばなくていい。もう助からないから。お前も知ってるんだろう?‥‥村田君、いい加減に気付けよ。」



「滝口さん!急がないと、幸江さんを助けないと!」



「だから!村田君、君は幸江さんを助けて死んだんだ。‥‥頼むから、思い出せ、もう二人共死んだんだよ。‥‥頼むから、成仏してくれ!」


そう言って、滝口さんは泣き崩れてしまいました。




僕は死んだ?


幸江さんを助けて?




‥‥ああ、思い出した。そうだ、あの日始発電車に乗ろうとしたら、幸江さんが滝口さんに支えられて駅のホームへ降りて来たんだ。


体調の悪い幸江さんを介抱しながら、僕はいつもの始発電車に乗るのをやめて、電車に戻るように滝口さんに言ったんだ。


「幸江さんは、大丈夫ですよ。僕が救急車を呼んで、救急隊が来るまでついてます。」


そう、僕は救急車を呼ぼうとしたんだ。電車は僕と幸江さんをホームに残し、行ってしまった。滝口さんは電車の窓から心配そうに、僕らを見ていたな‥‥。


幸江さんをホームの椅子に寝かせて、携帯電話で救急車を呼ぼうとしたら、幸江さんが急に起き上がり、僕を止めたんだ。


「救急車は、呼ばなくて良いの!それよりも、旦那の所へ行かないと!」


幸江さんはそう言って立ち上がり、ホームの白線近くまでフラフラと歩いていった。すると、線路の方へ前のめりに倒れて落ちてしまった。


「幸江さん!」


僕は、慌てて線路へ降りて幸江さんを引きずって助けようとしたが、幸江さんはまた意識を失い、体もとても重かった。


無情にも、すぐそばに貨物列車が迫ってきた。


僕と幸江さんは、貨物列車に轢かれて死んだのだった。




「‥‥思い出した。」




僕は幸江さんを抱き抱えながら、やっと死を受け入れた。すると、すぐに体が軽くなり上昇し始めた。


「滝口さん、今までありがとう。今度こそもう大丈夫です。さようなら。」


滝口さんは、相変わらず泣き崩れていた。僕の声は届かなかったかもしれない。


それでも、良かった。何もかもがもうどうでも良く思えた。



心も体も軽くて、もう心地良さ以外何も感じられなくなっていた。



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