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愛していると言うのなら  作者: いち
4/4

ペットボトルは洗って捨てろ

前世も今世も、私は特別にキレイ好きというわけではない。

ある程度以上の乱雑さには目をつぶれるし、床は足の踏み場があって虫がわかないならオッケーだと思っている。

だから、これもまた私の許容範囲が狭いとか狭くないとかいう問題ではないと声高に主張したいのだが…


ぺットボトルを机の上のみならず、廊下や寝室果ては玄関にまで転がして放置するのはやめてくれませんか


と思っていたわけだ。

百歩譲って、転がすのは許そう。

仕事で疲れて片付けとかしたくない気持ちはわかる。

何も今すぐ片付けて、とは言うまい。休みの日にやってくれれば文句はない。

そんな気持ちすら裏切られ続けて、結局私が片付ける羽目になったのはもう予定調和で。

せめて、片付けてくれてありがとうとか、ごめんねとか言えよ…!と。それだけでなんだか許してしまいそうだった私の寛大さに拍手。

同時に、今でも同じように思ってしまいそうな私に、呆れた溜め息。


そして今、チリひとつ落ちていない室内に、この楽園を維持してくれている使用人さんたちに、敬礼。




旦那様がおかしい。

何がおかしいって、最近よく私の所に来るのだ。

何しに来た?と思いながら笑顔で出迎えるのはなかなか面倒くさいが、それだけだ。

あの、腹の底から立ち上るようなふつふつとした感情は沸いてこない。


旦那様が訪れる時間はまちまちで、朝食後に部屋で本を読む私に『女が賢しらに書物など』云々、仕事に行ったと思ったら昼前に帰ってきて庭でお茶をする私に『外で飲食をするのは汚ならしい』、刺繍をする私の手元を見て鼻で笑い『見れたものではない』3時のお茶に乱入されるのが一番多くて、何回目だったか『お前は食べてばかりだな。見苦しく肥え太ったら離縁だ』とのたまわれた時は、じゃあ今すぐ別れてやるよビア樽が!と心の中で絶縁状を叩きつけた。

実際には『申し訳ございません。気を付けます』と口にした私は、仕事では上司にの指示にとりあえず『はい』と言っておくタイプだ。

指示を実行するか、するならいつするかは指示の内容と勤務時間に寄るけどね、と思いながらのいいお返事は定時に帰るコツだ。


で、何が言いたいかって。

私はこのビア樽、もとい、旦那様を仕事の上司みたいなものだと思っている、と言うことだ。

家族ではない。

たとえ世間的には妻という家族であれ、そして仮に旦那様が私を妻として扱っていたとしても。

私にとってこの結婚はある種の就職で、旦那様とは課長と係長(ただし部長の娘)な関係。

そこに変な、例えば愛だとか恋だとか好きとか嫌いとか、男女間でもて余される感情の付け入る余地はない、と断言しよう。

そうでなければまずそもそもこの結婚自体成立しなかっただろう。

何度も言うが、私の好みは細マッチョだ。ビア樽はおよびでない。色恋を挟むなら伯爵家のプレイボーイ(笑)を選んでいたに決まっている。


そうしてまた前世の繰り返しに絶望するのだ。

冗談じゃない。


旦那様はイヤミな肉襦袢だが、だからこそいい結婚相手だ。

少しも好みじゃないから、恋する気持ちは微塵もわかない。

旦那様が何をしても、イラっ、ともしない。


旦那様が私の部屋の本棚をひっくり返しても。

茶請けに手を伸ばして、菓子くずをボロボロこぼしても。

椅子に腰掛ける時、上着を床に投げ捨てても。

それこそ、ペットボトルを放置されても、怒りはわかないだろう。

使用人さんが片付けてくれるから、というのもあるが、私自身が今の自分の立場を『そういうもの』と思っているから。




ま、つまりは。


ペットボトルは洗って捨てろ。

愛していると言うのなら。


ペットボトルくらい洗って捨てよう。

愛が無くても良いのなら。


ってことです。

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