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トマコと帝国の魔法使い  作者: ちくわ犬
三章

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初恋とチョコレート6

よくわからないが、なんだろうこの羞恥プレイ。後ろにチラリと見えたモリスンがガッツポーズしている気がするのは気のせいか。なにも大好きなロマ先輩の前でしなくたっていいのにとは思うが、じわじわと握力が増していくウルフの手を感じながらトマコは仕方なしに歩いた。糖分が必要なんだ。きっと。そして糖分が補給できない時、自分の手は砕かれるのであろうとトマコは予想した。まあ、トマコには他の理由でウルフがこんなことするとは想像もつかない。


「ロマ先輩、この近くにケーキの美味しいところは無いですか?そろそろ休憩を入れたいです。」


ケーキという単語にウルフの大きな手がかすかにピクリと反応した。やっぱりな、とトマコは確信する……まあ、そう思うのも仕方ない。


「最近噂の店があって。もう予約してるんだ。」


「さ、流石!!ロマ先輩!!」


ロマを褒めると手が締まる……なんでだ。と流石に痛くなってきた左手をウルフの手と一緒に引っ張った。少し斜めになったウルフにトマコはこそこそと告げる。


「ちゃんとウルフ様の分も注文するように頑張りますから!間違ったふりして砂糖もいれます。頑張るので、手を緩めてもらえませんか?」


ウルフとの取引が上手くなりつつあるトマコはそうウルフに囁いた。その時、ウルフの顔が少しだけ緩む。


端から見ると恋人同士さながらのソレを見せつけられた一同は再び固まる。

しかし、力は緩んだが今度はトマコの子供のような手の感触を何気に気に入ったウルフに左手をフニフ二されて「そこまでうれしいのか」と呆れたトマコはされるがままに気にすることを放棄するしかなかった。



********


おしゃれなカフェとは言えないがこじんまりとしていて清潔感のある店内に案内された。

勿論ビップ扱いで他の客などいない。トマコとウルフは同席し、アランとヘレナ、ロマ。そしてカフェの給仕がいるにも関わらず、モリスンはウルフの給仕を買って出ていた。


トマコ的にはモリスンのせいでミッションの遂行が難しい。

ロマはウルフが少し高級とはいえ、こんな庶民的な店に案内したのを気にしていたようだが、任務中結構抜け出すウルフは別段気にしてはいなかった。


「わあ、おいしそう!!」


並べられた数種類のケーキにわざとらしくトマコは大きな声を上げた。かわいそうにみせの隅っこに座らされたヘレナもトマコを盗み見ると僅かに同意と頷いてくれた。


さて、ケーキは全種類頼んでテーブルにスタンバイオッケーだ。後はウルフの紅茶に砂糖を入れたらいいのだが、奴の好みはあま~いミルクティである。モリスンが横を向いている間に砂糖を入れれるか?……いや、無理だ。仕方なくトマコは作戦を変えることにする。たっぷりとお砂糖とミルクを入れたカップをモリスンのいる前でウルフに差し出した。


「ウルフ様、こうすると美味しいんですよ!?」


あはは~あははははは。と自棄になるトマコ。


「お前がどうしてもというなら飲んでやってもいい。」


「トマコ様!!ウルフ様が甘いものは苦手だと知っているでしょう!!」


怒るモリスンにウルフが大人な感じで手で制する。


「モリスン、このくらい飲めないこともない。騒ぐな。」


なんだろう、この茶番とトマコは心の中でため息。しかし、ここで失敗するわけにはいかない。


「ごめんなさい。ウルフ様にもこんなにおいしいものを召し上がってほしくて。」


「そうはいっても、我儘が過ぎますよ、ウルフ様の分は私がお注ぎします。」


「モリスン!」


「は、はい。」


「俺はそんなに度量の狭い男ではない。」


いえいえ、むっちゃ狭いッス。とトマコは出そうになった言葉を飲み込んだ。そうして手に入れた甘々ミルクティーをさもなんでもないように無表情で飲むウルフは筋金入りである。


と、ここで次の指令が下った。奴の目がトマコの銀フォークから動かない。


「……。」


まさか、それは勘弁して下さい。とピエロパーティのことを思い浮かべる。ぶんぶんと首を振ってトマコはウルフに無言で訴える。


「う、ウルフ様、今日はケーキも食べてみましょうよ!?少しづつなら平気じゃないですかねえ、あは、あははははは。」


「トマコ様、少し、我儘が過ぎますよ。匂いだけでも我慢ならないというのに。」


半分、自分の事も含めてモリスンが文句をいう。甘いものが本当に苦手なモリスンは頭の中は乙女チックなのに残念ながら舌は辛口らしい。


素知らぬ顔で激甘ミルクティーを飲んでいるウルフの視線が冷たい。


「最近はわ…僕の作ったケーキなんかは食べてもらってるし、ほら、他のケーキも知っておいてもらわないと、比較っていうか、上達なんか分からないかもで!!」


色々と言いまくって回避しようとするトマコだが、その時間が長いほど、みんなの注目を浴びていることに気付いた……。ハッとするとトマコのザ平凡王子であるロマが見ている。これには、訳がああ、とトマコはムンクのように心の中で叫ぶ。他の二人もちらちらと、しかしあからさまにウルフとトマコを見ていた。


ロマの方を見て青冷めているトマコの足をウルフが踏んづけた。


「んぎゃ!」


いくら平服でも靴は安全靴みたいなウルフの靴の破壊力ったらない。ウルフにしたら軽くしたのだろうが、ちょっとでも痛いものは痛いのだ。視線を戻してウルフを仰ぎ見るとウルフがまたトマコのフォークを見ている。トマコの羞恥心と恋心は天に召されていった。


「と、トマコ様!」


モリスンが「そんなことしたら殺されますよ!」とばかりに叫んだ。

意を決してトマコはもう投げやりで目の前のケーキをフォークでぶっ刺してウルフに向けた。それだけでは足りないのかウルフはじっとしている。仕方なしに口元へ運ぶとケーキはウルフの口の中に消えて行った。


これで満足か!とトマコは半泣き。トマコの泣きそうな顔と美味しいケーキにウルフは思わず微笑んだ。


「「「「「「え……。」」」」」」


トマコは目の前の美丈夫が微笑もうが知ったことではない。勝手にしろってなものだ。

しかし、モリスンをはじめ、ほかの3人までもが顔を真っ赤にしてウルフに魅了された。盗みしていた店の従業員なんかは鼻血が出たのか床がエライことになっていた。


あまりの衝撃にモリスンがしゃがみ込み、向こうのテーブルの3人が下を向いて悶えている隙に、トマコはウルフの口にせっせとケーキを詰め込むことが出来た。


もー、最悪。と、トマコ。もう絶対にウルフとはお出かけしたくない。そうは思っても、トマコにはどうにもならんのだが。



……その喫茶店で天下の親衛隊ウルフィファル=アーキンスが婚約者にケーキを「アーン」してもらっていたと町中で噂になった。またもやトマコは着々とウルフの婚約者の座を揺るぎないものとしてしまったようだ。









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