初恋とチョコレート5
微妙な気持ちでもその日はやってきた。
黒塗りの車を市場から離れたところに着けると庶民的衣装でトマコとウルフが降りた。モチロン、そんな恰好が似合うのはトマコだけで他の皆は浮きまくりだった。
「なんか……。」
「なんだ?」
「なんでもありません……。」
軍服でないウルフを見るのは初めてだが、普通の筈の服が高級に見えるのが不思議だ。美人は凄い。そしてズルいとトマコは思った。
「う、う、ウルフ様!お、お、おはようございます!!!」
そこで待ち合わせていたアランとヘレナと合流した。トマコは一緒に出たかったが、ウルフと一緒に車に乗せるなんてとモリスンが憤慨し、アランとヘレナは恐縮して断った。ヘレナなんてウルフの視界にすら入るなとモリスンから言われている。なんなのさ、とトマコは思うが仕方ない。
目立たない様にってもう無理さ。とやさぐれながらもキラキラの御一行様をロマとの打ち合わせの時計台の下に先導する。可愛さが隠せないヘレナと男4人としか見えないだろう。しかも色違いだというのにアランの方がトマコよりずっと女性的で美しい。
「あっ、ロマ先輩!!」
時計台の下にはロマがもう待っていた。実は30分も前から待っているロマ。そりゃそうだ。王様の親衛隊の一人が婚約者を連れて来るのだ、遅れたらどうなるのか考えただけで怖い。そんなロマの気持ちを他所にトマコは心底安堵のため息をつく。ロマもどこからどう見ても庶民だった。
「ウルフィファル様、おはようございます!!」
ウルフはロマの方をちらりと見るだけで、何も言わなかった。ふん、こいつが。みたいな。同じ無視され様でもアランは何とも思わなかったが、ロマのは「感じわるっ」とトマコは思った。
「先輩、おはようございます。」
「プライベートは初めてですね、よろしくお願いします。」
学園では先輩なのでアランはロマに丁寧。よしよし合格とトマコ。お前は何様だ。
「うん、トマちゃんもアラン君もおはよう……あ、トマちゃん、…ヘレナ様も?…。」
「うん、来てくれてるよ?」
「そそそそそそそうですか!!!おはようございます!」
ここでちょっと、ん!?とトマコは何やら引っかかった。ロマの顔は真っ赤だし、ヘレナに釘づけ……。なにか大事なものを無くした気がする……。ドンマイ、トマコ。グッバイ初恋。トマコが女嫌いのウルフを連れてくるのでヘレナは来ないだろうと思っていたロマは頭が真っ白だ。実際、男ばかりの生活で現れた美少女にココロ揺れ動くのは仕方ない。
「おい、さっさと案内しろ。」
ここで空気を読まないウルフが口火を切った。その声でロマが桃色の意識から自分を取り戻した。
「ウルフィファル様!本日は……。」
「口上はいいから早くしろ。」
「はい!こ、こ光栄であります!!」
最高礼をしたロマにウルフは先を促した。
先頭はロマ。その後ろにウルフとトマコ。その後ろがアランとヘレナとモリスンだった。
市場に着くとロマはお菓子のことで頭がいっぱいになったのか、必死でトマコと会話しながらアーダコーダと後ろを向きながら歩いた。
「色はこんな感じなんだけどなあ……。」
「じゃあ、こっちは?」
「コッチの方が匂いが似てる。」
「じゃあ、これと、これと……。」
ふと気づくとロマとトマコが先頭になっている。二人の平凡の後ろになりながらウルフはそのつむじをどうしてやろうとトマコの頭を呪うように眺めていた。明らかにトマコはロマに懐いている。あんな顔俺に見せたことあるのか?渋った顔と怯えた顔と、そして決心した顔……まあ、悪くはないがあんなだらしない顔は見たことがない。ふつふつっとウルフにモヤモヤ感が溜まっていく。
と、目の前でトマコが人の波に弾かれた。
「およっ」
ぐらりと後ろにふらついたが何か固いものが肩に手を置いて体を支えてくれた。
「まさか。」とトマコは体が固まった、いやいや、そんな筈はない。もしもウルフが後ろなら間違いなく除けるはすだ!断言できる!と非常に失礼だが的確な予想で上を仰ぎ見た。が、後悔した。
「あ……ありがとうございます。」
頭上で自分を見るウルフの目は不機嫌だった。ひーっつ。取りあえずお礼は言ってみる。すると、ウルフは何を思ったのかトマコの手を掴んだ。
「え!!」
これにはその場の皆が凍った。あの、ウルフィファルが公衆の面前でトマコの手を握っているのだ。これにはトマコは意識が遠のきそうだった。理解不能、計測不可能、ピコピコピー、ボカン。トマコにはウルフがなにをしたいのかさっぱりわからなかった。
「ご、ごめんなさい!!」
取りあえず謝っておこう……っておいおい。その勢いで軽くつながれた手を払うように振ってみたがウルフは方眉をピクリと上げた。「ひぃいいいいい。」と声のない悲鳴を上げて手を払うことを諦めてウルフの隣へ移動した。
「世話をかけるな。」
慌てふためくトマコを見てウルフは先ほどまでの不快感が納まった。自分の手に小さなトマコの手がすっぽりと入っていることがなんだか思っていたよりいい感触だったからかもしれない。




