初恋とチョコレート4
さて、日曜日も近づくと思いもよらないところから呼び出しがある。呼ばれたのはシドの私室で、目の前のテーブルの上にはビー玉くらいのぴかぴかと輝く石が10個ほど乗っていた。
「え、と?」
「少し、作るのに手間取っていたので。これは、守り石です。」
「守り石。」
「そう。毎週、ウルフィファルのところへ行っているでしょう?危なくなったらこの石が守ってくれます。」
「うん。まあ、でも危険なことは無いけど?お屋敷には護衛の人もたくさんいるし。」
「今まではネズミに見張らせているだけでいいと思っていたのですが、もしかの為に持っていてください。この石をぶつけられると最低でも30秒は動きが止まります。逃げるのならそのくらいあればトマコなら楽勝でしょう?」
「????まあ、くれるというなら貰っておくけど。」
「この袋に入れましょう。」
「へえ、可愛い!!」
石より、濃紺のビロードに小さな花の刺繍がある袋を気に入ったトマコがはしゃぎながらそう言った。女子の間でポケットに匂い袋を入れることが最近流行っていて密かに憧れていたのだ。もちろんシドは匂い袋と思わせるためにこの袋を選んでいる。
「咄嗟の時は袋ごとなげなさい。貴方の腕なら大丈夫です。」
「うん。」
何をそんなに念を押すのか分からないトマコだが、守ろうとしてくれているシドの気持ちが嬉しかった。トマコは立場上、ウルフの婚約者なので心配してくれているのかな、と思っているがシドは違う。最近やたらとトマコに構うウルフがトマコに不埒な真似をしないか危惧いているのだ。トマコを元の世界に返してやると思ってからというものの、シドはトマコがウルフィファルのところへ通うのが嫌で仕方がない。……すべて自分の目的の為だと分かっているのに。
「……。」
嬉しそうなトマコにシドは複雑な気持ちだ。謝ることが出来たらどんなにいいだろう。自分の都合だけトマコに押しつけて、もう引き返すことも出来ない。カドーレとの繋がりはシドにとってもう手放せない。トマコがウルフィファルに気に入られてトントン拍子にことが進んだ時はこんな気持ちになるなんて思ってもみなかった。憎むべき軍人の元へトマコを行かせることがこんなに苦痛に感じるなんて。
もしもやり直せるなら、初めからトマコをサーカスになんてやらずにニールズホンネットに行かせていた。……しかし、それは叶わないことなんだと分かっている。王家に復讐し、トマコを元の場所に返す。そのためならなんだってする。その気持ちが揺らくことは無いのだから。
「ありがとう!!シドお兄ちゃん!!」
そのトマコの笑顔がまぶしい。この頃はトマコとビオラが重なって見えて仕方なかった。かわいそうな妹ビオラ。生きていたらこんな風に笑いかけてくれたのだろうか。
「一つ投げて試してみましょう。石がはじけるイメージをしてください。トマコの感情に反応するようにしていますから。」
「へぇ~。あ、でも動くものにぶつけないと練習にならないね……。」
「それなら、ほら、良い標的がちょろちょろしていますよ。」
「え……!?おれぇ!???」
……
その剛腕で投げられた石が当たった時、すでに失神したのに動けないかどうかなんて確認できないと語るのはいつもちょろちょろ、ネズミだ。やりすぎだと怒るネズミにトマコは数日は枕元で寝ていいと提案して機嫌を取るのだが、やっぱり臭いと毎晩洗面器で洗われる羽目になったのは言うまでもない。




