いざ学園へ6
何てことは無い。施錠なんてしっかりしてない車のつくりにトマコの体重が勝ってしまったのだ。「それもこれも最近太ったせいだーっ」と考える間もなくトマコは車外に放り出された。
「うぎゃー!しぬぅうううう!」
あわや顔面から落ちて大惨事になりかけたトマコを救ったのは一本のガッシリとした腕だった。いや、隣に座ってたのだからウルフのなんだけどね。危機一髪トマコは数秒地面ににらめっこして冷や汗垂らしただけで車内に引き戻された。
「ふーっ。ふーっ。」
トマコは恐怖で言葉も出ない。そんなトマコを座らせるとウルフはトマコの腰の隣に手をついてトマコを覆う様に身体を寄せてトマコ側のドアを閉めた。
バタン
これでトマコは車から落ちる心配は無くなったのだがウルフはトマコの顔面蒼白なのを見て取るとトマコを自分の方に寄せた。トマコは落ち着くことで精一杯。縋れるのならば丸太だろうが何だろうがこの際贅沢なんて言ってられないと自分の腰を引き寄せるウルフの腕にしがみついた。
「く、車がこんなに怖いものだとは思わなかった。」
いまだふうふう言っているトマコは馬鹿正直に感想を述べる。しかも腕には縋りついているくせに顔は窓の外に向かっていた。助けてもらっても「ありがとうございます。ウルフ様。(ハート)」とはならない。「ヒー危なかった!助かったぜぃ」それがトマコ。
そんなトマコを面白そうにウルフは見ながら「サルもかわいいもんだな。」とハタと思って思わずトマコの頭に伸びてしまった手をひっこめた。
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なぜか車を降りるとご機嫌のウルフにトマコはまたウルフの笑いのツボを押したのではないかと推測した。あれだ、きっと車に落ちかけた私の顔が相当間抜けだったに違いないとトマコは確信した。が、一部始終をバックミラーで見ていた黒服二人は顔を見合わせる。彼らは突然後部座席のドアが開いて数秒、ウルフがトマコを助けてドアを閉めるまで見守った。一瞬のことで車を止めることも出来なかった。いや、車は止めようと思えば止めれた。しかし、ウルフがトマコに覆いかぶさって……彼らには抱擁して口付けでもしているかのように見えた。彼らにはトマコにウルフが迫ったので扉が開いたように見えたのだ。そんなことが行われているのに車を止めることが出来ようか!しかも、あんなに不機嫌だったのにウルフが超ご機嫌なのである。驚きすぎる。怖すぎる。この後、二人の報告を聞いたモリスンはカレンダーにハートマークを書いた。
「ここかぁ。」
トマコは車から出ると仁王立ちしてセリベート学園を見上げた。もちろんウルフは先にさっさと車から出ていて、トマコに手を貸す訳もなかった。まあ、トマコもそんなことは望んじゃいない。セリベート学園は歴史有る煉瓦仕立ての校舎だった。正面の時計塔のついた建物にはツタが生え、赤い屋根が美しい。3階建てほどだが横に広く、中央には噴水のある庭園が造られていた。
「あっちがお前の住む寮だ。」
ウルフが指をさした方向を見るとそこは校舎とは違った白い壁の建物が有った。そちらは5階建てほど有って校舎よりは近代的に見える。石畳の道をまだひんやりと感じながら、やっぱり歩調を合そうとしないウルフにトマコは小走りでついて行った。
そうして10分ほど歩いてから長い廊下をわたってやっとウルフは足を止めてくれた。ウルフがゲシゲシと重厚なドアを叩くと慌てて女の人がドアを開けてくれた。
「これはこれはウルフィファル君。お久しぶりだね。」
「元気そうだな。校長。」
親しげに正面の机から立ち上がってきたカーネル〇ンダースに似た髭のオジサマがウルフに握手を求めて
ウルフもそれを受けた。トマコはその様子を「ふはあ」と呆けて見ていた。
「こちらがトマコ=カドーレ嬢だね?きみのフィアンセの。」
「いえ!滅相もありません!」
トマコが力いっぱい答えると頭をウルフに張り倒された。うえーん、涙目のトマコ。
「世話になる。」
そう言ってドカリと偉そうに校長先生より先にソファに身を沈めたウルフをトマコは立ったまま唖然と見ていて、一方校長は面白そうに二人の様子を見ていた。




