いざ学園へ4
「ちょー不安なんですけど。」
ベッドに仰向けになりながらトマコはつぶやく。大の字で嘆いている姿はとても男らしい。
「まあ、頑張れよ。」
「ちょっと!見捨てる気?付いて来てくれるよね?」
「ああ?俺様は忙しいんだよ!」
「お願い!」
ガバリとベッドの上で起き上がってネズミにお願いするトマコ。ネズミはもちろんついて行くつもりだったくせにトマコに「付いて来て」と言って欲しくてワザと遠回りな言い方をする。ウザイ。が、それがネズミ。
「しょ~がね~なあ。」
「ありがと!」
思わず抱き上げて頬擦りしたトマコ。
「くさっ!!」
が、次の瞬間あまりのネズミの匂いにフルスイングでトマコはネズミをベッドの端まで投げた。
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さて、トマコが男装して学園に通う事は決まったのだが、とっても気になる事があった。
「トイレってどうするのかな?しかも、そもそもオープン男装女子なの?隠れ女子なの?」
メヌエット母から紹介を受けた昨日の今日でアランに睨まれつつ円卓で三人これからの生活についての相談会。ヘレナは椅子に座ってはいるものの、下を向いて膝でスカートを固く握っていた。……帰っていいよと言えるものなら言ってあげたいがトマコにその権利は無さそうだ。
「アホか。ウルフ様の婚約者が男だったらおかしいだろ?」
「ってことは制服だけ男の子仕様ってことか。」
「いや、授業も裁縫とかが剣術になってるよ。マナーもダンスは省かれてるし。」
巻物みたいなマレノの詳しい但し書きを読みながらアランが言った。ずいぶんな量だったのでトマコは読むつもりもなく、逆に妙に熱心に読むアランに丸投げした。
「うそ!」
「マレノ様からのご指示だとお前の立ち位置は男の子なりたい女の子だけど?」
なんだそれ。トマコは頭を抱える。
「ううっ。」
「……~~~。」
ヘレナはトマコに同情的な視線を寄越したが、かけてくれた優しいであろう言葉はトマコには聞き取れない。
「……。お二人さんはセリベート学園の事良く知ってるの?」
「僕もヘレナも幼年部からの常連さ。だからお呼びがかかったのかもね。」
その時ばかりはヘレナも下を向きながらうんうんと頷いた。
「ふうん。」
不機嫌なその声でトマコが何気なしにそのアイドルみたいな顔についてる眼球と目が合うとアランはトマコを上から下まで丁寧に分析していた。この世界で女の子がこんな短髪で平気で生きているのはアランは見たことが無かったし、ふくらはぎや腕も筋肉が綺麗についているように見える。とても彼にはトマコが普通の「女の子」には見えない。ソフトボールが出来ない今デッキブラシのおかげかもしれないがもともとトマコは筋肉質。しかしアランがそれを知る筈もない。アランは昨日メヌエットがいて聞けなかったことをトマコにぶつけた。
「……。本気で女なの?僕、確かめてないから疑ってるんだよね。そもそも、ウルフ様がお前みたいなのに触れるってだけでも天変地異なのに女だなんてあまりにも現実味がないんだけど?」
「どういう意味?」
「証拠見せてよ。」
「はあ??しょ、証拠ってなに!?ちょっと、なんでこっちにくるのよ!ぎゃ~~~~っっつつ!!」
「……。」
「へ、変態!痴漢!」
「……。」
「……な、なによ。」
「胸、ないじゃない。」
「!!!!!!!シネ!!」
バゴッツ
いきなりアランの暴挙→トマコの胸を掴む
に出られて驚きのあまり何もできなかったトマコも屈辱には燃える拳で答えた。油断したアランは椅子ごとドアの前まで吹っ飛んだ。
「サラシまいとんじゃ!ボケがぁ!!!」
「……。」
「え、と……。ごめん?やりすぎた……。」
「……。」
下を向いたアランは口が切れたようで切れたところを手で拭っていた。流石にやりすぎたと青ざめるトマコ。
「ちょ、立てる?」
あまりに弱弱しく震えるアランの背中にますますビビるトマコ。
が……。
「わかる……。」
「は?」
「分かるよ。トマコがウルフ様の選んだ人だって。」
「へっ?」
「この拳。鍛えた速度じゃないと繰り出せない。いい。いいよ。ふふ。ふふふ。」
「……。」
なにがどうしたって、アランは腫れた頬を擦りながら目がイっちゃってるし。でもせめて美少年なんだから次殴るときは腹にしようと思うトマコ。
「あ、熱い友情……萌え……。」
そして後ろからか細く聞こえるヘレナの声はいっそのこと聞こえなかったことにした。




