仮初兄妹2
「それじゃ、付いて来てくださいよ?」
初めて出会った時と同じにトマコを気遣うこともなしにシドは前を歩く。先ほどアーキンス家の車で送られて魔法省の官舎だと言うところに連れられてきていた。運転手と送ってきてくれたモリスンが見えなくなるとさっさとトマコの手を離し、邪険に感じるほどあからさまに目も合わさない。
「もうちょっと、ゆっくり歩いてよ!」
両手に荷物を戻されたトマコはよたよたしてると言うのに。
「時間が無いんです。私は魔法省に戻らなければいけないんです。」
「でもさ、さっきまで持ってくれてた荷物位持ってくれてもいいのに。」
「ふん。口だけは達者ですね。」
トマコを一瞥してシドは嫌々荷物を自分の手に引き取った。もちろん親切からではない。自分の時間のためだ。荷物はマレノに「女の子の必需品」と言われて無理やり持たされた鞄が二つ。トマコ自身の荷物はサーカス団でもらった(?)服とカツラくらいだったのだが、それでは足りないとマレノが持たせてくれたのだ……少々重い。鞄二つ引き取ったシドは一層スピードを出し、トマコは小走りでついて行く。なんか、これ、ウルフん時もやったような気がしないでもない。
「ここに入ってて下さい。私は魔法省に戻りますから。説明はそこのネズミにでも。間違っても外に出てウロウロ何てしないでくださいよ。」
結構ぼろい端っこのドアを開けるとトマコを中に押し込んで早々とシドは出て行ってしまった。
ガチャン。
……どうやら鍵もかけて行ったようだ。
「……。」
古めかしい回廊のあるこの建物の隅っこの寄宿舎は疑う余地もないくらい古かった。しかもシドは身なりには気を使うが自室に気を使うタイプではないらしい。
「なんていうか……汚くて……生活感が無い。」
心配そうに見上げるネズミにすぐさま色々と聞きたかったが、いかんせん座る場所もない状態。こんなところでシドと同居なんて考えられない。とにかく部屋の片づけが先だ。
「ゲホッ。」
トマコはハンカチを出して顔半分を隠す様に頭の後ろで結んだ。それから足元に注意しながら奥にあるベットの上の窓を開ける。窓はギシギシ言っていてヒビが入っていた。慎重に持ち上げると心地いい風が入ってくる。
「ねえ、シドっていつからここに住んでるの?」
「……半年くらいからかな?」
「半年間、ここでご飯作ったこともないんだね。」
コンロのようなもののある小さなキッチンにも脱ぎ捨てられた服がつみあがっていた。チラリと風呂場も覗いたが怖くて見てないふりがしたくなった。
「しかも、自然が趣味なんだね。」
そう嫌味が言いたくなるほど蜘蛛っぽい虫や何だかわからないのが部屋の隅を移動していた。きっとシドにとってこの部屋は毎日がキャンプに違いない。ワイルドすぎる。
「掃除するのか?」
「したくないけどね。」
「シドなら一瞬で綺麗に出来るぜ?」
「……どうやって。」
「シドは孤児ながら魔法省にスカウトされるくらいの魔法に長けた人間なんだ。その気になればこの部屋なんかピッカピカだ。そもそも物には全部戻る位置を設定してるんだ。」
「魔法!?魔法なんて存在しちゃうんだ!……でも、その一瞬すら私を労う事には使わないってわけね。」
「……まあ、そうだな。」
「あいつってどうやって寝てるの?」
生活感のしない埃だらけのベットを見てトマコはネズミに尋ねる。
「ああ、シドは宙に浮かんで寝てる。だから、部屋が汚かろうが関係ないんだよ。」
「ふうん。」
トマコはなんだかモヤモヤ。トマコがこんな目に合っているのは全部アイツのせいじゃないか?とまで思うと腹が立って仕方なかった。
「じゃあ、やっぱり掃除する。だって、私の為に魔法使うなんて思えないもん。」
トマコは腕を捲った。それを見てネズミがまた口を挟んだ。
「掃除しちゃうと物が居心地を求めて定まらなくなって、シドが掃除できなくなるぞ。」
「……それって、私が掃除しちゃうと魔法で綺麗に出来ないってこと?」
「そう。」
「ふん。望むところだ!」
怒り任せにトマコはクッションを壁に投げつけた。剛腕のトマコに投げつけられたクッションは大いに埃を吸っていて、部屋中に埃をばら撒いた。
ゲホゲホと咳をするネズミを素早く身につけたエプロンのポケットに突っ込む。床は石のタイルだからトマコの得意のデッキブラシがうなりそうだ。
「きぃいいいい!」
シドの服をベッドの上に集めるとトマコは床に水をぶちまけてゴシゴシやり始めた。15だから女にも見えたのかとか、なんでこんなちんちくりんの髪にしたんだとか、もう少し優しくしてもいいだろうとかブツブツ言いながら。
洗濯する気は無い。まったくもって自分の利益以外のことはしたくない気分だった。そうでもないと気が済まない。半日かけて寝れる場所を確保したトマコはマレノが持たせてくれた鞄からパンを出してネズミと食べる。それが済むと少しはマシになったベットで眠った。
シドは深夜になっても帰ってこなかった。




