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トマコと帝国の魔法使い  作者: ちくわ犬
第二章

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仮初兄妹1

次の日は朝から屋敷が騒々しくなった。


「トマコ様……あなたのお兄様と名乗る方がトマコ様をお迎えに来ておられますが……。」


「お兄様って……。」


久兄もこっちに来たの?ってそんな筈はない。モリスンが心配顔で朝食が済んだトマコの部屋に来て放った言葉は意味不明。


「あの、私の兄ってことですよね?」


「失礼ですがトマコ様にはお兄様が?」


「います。……けど……。」


まさか、本当にこっちに来たのか?そう思うとトマコの胸はドキドキした。


「あ、会えるんですか?兄に!」


トマコの胸に突然湧き出た希望の光は一気に期待として膨らんだ。もしも久兄もこっちに来ていたならそんな心強いことはない。


「……そうですか。……おられるのですね……。」


モリスンの声のトーンが下がったのもトマコは気づかなかった。待ちに待った元の世界に帰れる!?そんな事まで飛躍して考えてしまう。だって、期待しないなんてできない。とにかくすぐに会いたいと伝えてモリスンを追い越す勢いでトマコは廊下を進んでいった。



******



「トマコ!探したんだよ!」


目の前に居た人物にそう言われてトマコは固まった。


コレ、久兄?


ゼッタイチガウ。


トマコが固まったままでいると相手は勝手にトマコに飛びついてトマコを抱きしめた。耳元で小さな声が聞こえる『ここから出たいんなら話を合わせてください。』……。その言葉と同時にトマコの風船のように膨らんだ希望がはじけ飛んだ。足元にはいつの間にかネズミが居てトマコを見上げていた。


この人が「依頼主」?


そうだよ。


短い瞳の会話でトマコはすべてを悟った。

そうか、このお芝居はここから私を連れ出すためのもので、久兄はここに来ていないと。


「お兄ちゃん……。」


せめて久兄だと思ってトマコは「依頼主」と抱きしめ返した。本物の久兄と抱き合った事など無い。想像しただけでもキモイ。でもこうやってここで会っていたらきっと何の躊躇いもなく抱き合っていただろう。


そうしているうちにトマコと偽トマコ兄の感動の再会劇にギャラリーが増えて行った。最初からいたモリスンの他にマレノとウルフまでも加わっていた。


「ちょっと、そんな似ても似つかないトマコと兄ってあるの?」


口を出したのはマレノだった。その場に居た誰もが思う質問だった。トマコすらそう思う無理な設定だ。


「……私とトマコは血のつながった兄弟では有りません。同じ戦災孤児の施設で育ったのです。孤児院の名前は「ニールズ・ホンネット戦災孤児センター」トマコは略してあなた方に「ニホン」と言ったかもしれません。お調べになっても結構です。」


「貴方の顔、どこかで見たことがあるわ……。」


「私は帝国魔法省の責任者コットランの弟子のひとりでシドと申します。両親は8歳の時に戦争で亡くしました。」


「そう、そうだわ!たしか、とても才能があって美しい子が入ったって聞いたのよ!魔法省最年少の15歳って言ったら噂で持ちきりだったわ!あなただったのね!」


それを聞いてトマコ偽兄が一瞬だけニヤリとしたのをトマコは見逃さなかった。うそつき野郎と罵りたかったがトマコは黙って様子を伺っていた。


「私とトマコは同じ時期に孤児院に入居した同士なんです。私は当時両親と共に妹を、トマコは兄を失っていました。自然に家族を想い合わせてしまったのでしょう……私とトマコは寄り添って生きてきたんです。私が魔法省に務めさせていただくようになって私はトマコと孤児院を出ることにしました。しかし、引っ越しの日に何の手違いかトマコが居なくなってしまったんです。」


悲しそうにトマコを見るシドは事情を知らなければ迫真の演技だった。ほら、マレノなんて涙すら浮かべている。美少年が辛い過去を背負って……なんて感じで。


しかし、トマコは呆れた上に感心すらしていた。だって、この人、トマコをサーカス団に売ったあの、美人だし。毒舌吐きながらトマコの頭をサル頭にした張本人だし。


「トマコはそんな事何にも言ってなかったぞ?」


見た目の美しさに騙されなかったのか今度はウルフが厳しめに聞いた。別にウルフはトマコを「嫁」として引き止めたいわけじゃないが「お菓子係」と「マッサージ係」には未練が有った。その言葉を聞いたシドは心底悲痛な叫びを上げるようにトマコの手を握ってこう言った。


「ああトマコ。私に負担になると思って身を引いたんだね。本当の兄弟じゃないことをトマコは気にしていたから。確かに私たちは血は繋がっていないが家族なんだ。私一人が出世したとしても……私はお前が必要なんだよ。」


そう、俺様の為にな。とトマコには聞こえるようだった。この人とんだタヌキだな。何にも知らなかったらきっと涙を溜めていたに違いない。トマコが正直に眉を寄せて不満げにしていたのをシドとネズミ以外は「辛いけど身を引いたのに……お兄ちゃんに見つかるなんて。」的な健気な表情に取ったようだった。


「そう言う事情なら、仕方ないわね。トマコもお兄様とお話ししたいでしょう。一度お兄様のところへ行ってらっしゃい。しかし、あなたはウルフィにも必要な人なの。だから、そうねぇ。3日後にこの屋敷に戻ってちょうだい。その時に話したいことが有るわ。」


シドの演技に絆されたマレノがそう言い渡した。基本女王様なので命令口調なのだが。


とにかくトマコは一旦ここを離れられる。


屋敷の門を出た後のシドの豹変ぶりにこの後トマコはドン引きになるのだがそれでもトマコはシドに付いて行く。どうしてだか本人も分からないままに。



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