トマコの決断
「どこでどうなったらこうなるわけよ。」
頭を抱えて突っ伏したベットも弾むわ、バラの香りがするわで恨めしい。
「ウルフにとって蕁麻疹の出ないギリ年頃な女がトマコしかいないからだろ。それこそ育っちまったら無理かもしれないし。」
「わ、私、中学生だよ!?強制ワイセツだよ!?未成年!ウルフ様の子供なんか産めるわけないでしょ!」
「この国では13じゃ立派な結婚適齢期だ。政略結婚なんか生まれてすぐ何てのもある。」
「ひっ。何てこと!」
「お前……ホントにウルフと何にも無かったんだな。」
「何かって何よ!?こうなったらどうもこうも逃げるしかない。」
「……モリスンがトマコが挙動不審になったって報告してマレノが無理やりこの部屋に移したんだぜ?警備が増えてんのに気づいていなかったのかよ。俺ですら外でるのに苦労してんのに。」
「げっ!なんでそんな怖いこと言うの!」
「観念して嫁になれ。いいじゃないか、アーキンス家っていったら由緒正しい貴族だぜ!?しかもウルフはすこぶる美男子にして王様の親衛隊だ。将来安定。大金持ち。子供の一人や二人産んでやって後は優雅に暮らせばいいだろ?」
「冗談じゃないよう!私は元の世界に帰るし、まだ立派な子供だもん!無理!ぜ~ったい!ムリィイ!!」
えーんえーんと泣くトマコは誰の目にも幼稚園児。涙ボロボロ鼻水タレ垂だった。そんなトマコをみてネズミは複雑だった。
「どうしてもウルフとの結婚が嫌なら……いや……。」
そういってネズミは口ごもる。
「なんか、良い方法あるの!?突然大人になる薬とか?うっふん色気の出る薬とか!?」
……使い方は間違っているがそうなればウルフはトマコから離れて行くだろう。
「いや……。あ、あのな。実は俺、ある人に頼まれてお前のこと見張ってたんだ。」
「はあ!?」
「まあ、ちょっと聞いてくれ。初めは俺だってメンドクせーからどっかで野垂れ死にしねえかなぁとか思ってたけど、トマコってイイ奴だろ?俺がいいって言ってもいつだって少ないスープの具もパンも分けてくれたし、臭いって言いながらも洗ってくれた。いつだってポケットに入れてくれて俺の事大事にしてくれた。」
「……。なに、その告白。もしかして「お別れ」っぽい感じ!?」
色々混乱なトマコは目の前のネズミが居なくなるのを一番危惧していた。だってこの発言ヤバそう。青くなったトマコを余所にネズミは続ける。
「いやいやそんなことはないぜ?俺、トマコに友情感じてるし。……その、俺の雇い主のところにトマコを匿ってもらうっていう案もあるんだ。」
「……。それは、サーカス団での苦労とかその後の苦労とかなんだったのかって話?」
「そ、そうじゃない!言われてたんだ。トマコを見張って不審な動きをしない様にって。」
本当は「妙な動きをしようなら始末してください。」とネズミは言われていた。サーカスに居た頃はただの報告だけで済んだ。雇い主はトマコが生きているならその正確な位置を知りたいだけだった。「私の目の届くところで生き延びればそれはそれ。死んだとしたらそれも運命。」と超クールに言っていた。しかし、思惑とは違いトマコがウルフに雇われて仲良くなって行ったので雇い主の考え方が変わってきたのだ。
「その人ってアンタに私を見張らせても私と係わりたくないって人になるよね……。」
「う。お前って意外に鋭いな。そんな人だからトマコに優しいなんてことは絶対にない。今はウルフとかかわりが出来たから引き取ってアーキンス家に恩を売るつもりなだけだしな。」
「う~ん。」
「ウルフやここの奴らは少なくともトマコに親切だろ?」
「それは……。」
「ウルフとは結婚しなくてよくなるかもしれないが、快適な暮らしとはバイバイだぜ?」
「……。」
「トマコがいい方を選べよ。もしもどうしてもここに居るのが嫌なら俺がすぐに話をつけてくる。……多分、俺が思っているような感じだったら即、お前のこと迎えに来ると思うぜ。」
「う……。」
トマコの頭の中にはここでのゴハンとかゴハンとかゴハンとか……ってオイ。が巡っていた。
でもだからって両親に大事に育ててもらったこの体をこんなことに使ってはイケナイ。「好きな人と結婚するのが一番さね……。」曾祖母ちゃんはポカポカした縁側に座って空を見上げて曾爺ちゃんを想っていた。平凡だっていい。そんな穏やかな幸せがいい。そこまで考えてトマコはネズミに即答する。
「サーカス団よりはマシでしょ?だったらあんたの依頼主のところに連れてって。」
ウルフだって次期当主として子供が欲しいかもしれない。「仕方ない、試すか。」なんて言われて夫婦になるなんてまっぴら御免だ。将来なんてまだまだ考えられないけどウルフと結婚するのは違う。絶対に。そうトマコは思う。
「わかった。」
トマコの瞳に強い意志が見えた。頷きながらネズミはトマコの決断になぜか心がほっこりした。




